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テクノロジー

テスラは脱炭素の「アイコン」、時価総額で米アップル超え期待の声

テスラの本質はエネルギーとモビリティーの企業複合体(上海市のギガファクトリー) Bloomberg
テスラの本質はエネルギーとモビリティーの企業複合体(上海市のギガファクトリー) Bloomberg

テスラの世界観 エネルギー企業としてEVを展開 トラック投入、時価でアップル超えも=土方細秩子

 テスラの株価は、2020年7月に時価総額でトヨタ自動車を抜いた後も上昇を続け、21年10月にはついに時価総額で1兆ドル(約114兆円)を超えた。(EV&電池 特集はこちら)

 同社CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏は保有するテスラの株価上昇で自己資産額が約3000億ドル(34兆円)に膨らみ、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏を抜き世界一の富豪となった。

 テスラの勢いを理解する鍵は、マスク氏が日ごろから強調している「テスラは単なるEVメーカーではない、エネルギーとモビリティーのサービスを総合的に提供する企業だ」という言葉だ。

すべて自社で開発

 脱炭素の時代には、二酸化炭素(CO2)の削減努力が企業価値に直接に反映してくる。また、携帯電話がスマートフォン(スマホ)に変わったように、EV時代は自動車がさまざまなモビリティーサービスを提供する「端末」となる。テスラはまさに、脱炭素・DX時代の「アイコン(象徴)」だ。

 マスク氏が現在所有する企業にはテスラ、宇宙開発企業スペースXのほか、脳科学分野のニューラリンク、人工知能(AI)分野のオープンAI、トンネル掘削分野のボーリングといったスタートアップがある。テスラは16年に米再エネ大手ソーラーシティーを買収。現在、太陽光パネルやソーラールーフ事業も手掛けている。17年にはペイパルからX.com(ペイパルの前身であるオンラインバンキング。マスク氏がイーベイに売却)の権利を買い戻している。

 つまり再生可能エネルギーによる発電、それを使った家庭内の蓄電システム、EV、AI、ロケット工学から得られた素材工学、さらにはトンネルシステムなど独自の技術を用いた未来の都市構想まで、すべて自社で行っている。

 テスラは19年からスーパーコンピューター「Dojo」の開発を始め、現在、日本の富嶽の8割程度の演算能力を持つとされる。これをテスラは自動運転のためのトレーニングに利用しているが、将来は人型ロボットの開発ももくろんでいる。

 テスラが他のメーカーと比較して利益率が高いといわれる理由は、広告宣伝費を一切使わず、ディーラー網を持たず、消費者へ直販を行う、という点で経費を大幅に削減している点が挙げられる。サービス、メンテナンスは一部を除いて外注しているが、不具合が起きたときは自宅まで点検に来てくれるなど、今のところユーザーの満足度は高い。

 またEVの特性を生かし、多くのサービスをサブスクリプション(継続課金)で行っている。自動運転ソフトウエアも月額99ドルまたは199ドルで利用が可能だ(FSDと呼ばれる同社の自動運転用ソフトを装備していない場合のアップグレード費用を含む)。

 テスラは、クルマのハードウエアだけでなくOS(基幹システム)をはじめソフトも自社製だ。他の自動車大手は車内エンターテインメントやコミュニケーションシステムにグーグル、アップル、マイクロソフトなどのOSを搭載しているのが普通で、すべて自社で賄っている企業は数少ない。

 自動車組み立てのための製造機器も多くが自社製だ。それにより、テスラが「ギガプレス」と呼ぶ、従来の自動車業界にはなかったボディーの一体成形(ボディーを継ぎ目なしに打ち出す技術)を「モデルY」で実現している。工程が少ない分、コストも軽減される。そこにはスペースXで得られた宇宙船のための素材や成形技術が生かされている。

 これらの技術を組み合わせて製造されるテスラ車は、業界では「価格と比較して高性能」との評価が多い。例えば、同社のラインアップの中で最廉価版であるモデル3でも、0~100キロメートル加速(停止状態から時速100キロメートル到達までの時間)は3・3秒と、高級スポーツカー並みだ。「オートパイロット」と高度運転支援システムもオプションで付加できる。

 そんなテスラ車は欧米の消費者に受け入れられている。米カリフォルニア州では、21年1~6月期で最も売れた乗用車がテスラの「モデル3」だった。モデル3は、21年9月に欧州全域で初めて、最も売れた車種になった。テスラの21年7~9月期の純利益は前年同期比で4・9倍の16億1800万ドル、売上高は同57%増の137億5700万ドル。テスラの売り上げの多くを占めていた温室効果ガス排出枠の売却収入が3割減だったにもかかわらず黒字を計上した。

サイバートラック投入

車種にトラックが加われば年産200万台もあり得る(横浜港に並ぶモデルXとモデルY) Bloomberg
車種にトラックが加われば年産200万台もあり得る(横浜港に並ぶモデルXとモデルY) Bloomberg

 22年以降のテスラの注目ポイントはEVのトラック、すなわち「サイバートラック」を発売することだ。米国で1年間に売れるクルマの過半数がピックアップトラックや大型SUV(スポーツタイプ多目的車)を含むライトトラックと呼ばれる車種だ。20年に人気だったピックアップを見ると、フォード・モーター「Fシリーズ」が78万台、シボレー「シルバラード」が58万台も売れた。乗用車でトップのトヨタ「カムリ」は29万台にとどまった。

 このため、テスラがサイバートラックの発売を発表して以来、現在までの累計予約台数は125万台に到達、これがすべて売れた場合、売り上げは80億ドルとも試算される。もちろん予約数と実際の販売台数は同じにはならないが、22年以降、特に米国ではサイバートラックがテスラの新たな「ドル箱」となる可能性は高い。

 サイバートラックの荷台に組み立てられるキャンピングカーキットを作るスタートアップがクラウドファンディングで4億円以上を集めるなど、発売前からかなりの注目を集めており、サイバートラックがヒット商品になることは間違いないだろう。

 コンパクトカーからピックアップまで、ラインアップを拡充したテスラは、21年の販売台数が同社の目標である75万台に到達するのはほぼ確実視されている。サイバートラックが加わると生産台数は200万台に届く可能性もある。

1社2000万台の時代

 テスラの電池技術について名古屋大学未来社会創造機構客員准教授の野辺継男氏は、「これまでエネルギー密度が低く使えない、とされてきたリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池をテスラが中国の電池最大手CATLと共同で開発し、リチウムイオン電池と遜色ない性能にした、という貢献もある」と指摘する。野辺氏は、EVは作れば作るほどコストが下がってスケールメリットが増す特徴がある。このため将来は数社のメーカーが年間に2000万~2500万台のEVを製造する時代が来ると予想する。「その1社がテスラになる可能性は高い」(野辺氏)。

 テスラにも課題はある。受注に生産体制が追い付いていないため納車が遅れ、その間にライバルが売り上げを伸ばす公算がある。またマスク氏のワンマン体制に対し、どのようにコーポレートガバナンスを利かせるかが不透明という点などだ。

 だが、世界は脱炭素化に向けて動いており、EVだけではなくソーラー発電、世界に輸出している巨大蓄電システムであるバッテリーパーク、家庭用蓄電およびエネルギーコントロールシステムである「パワーウォール」の売り上げも同時に伸びる可能性がある。

「テスラ株は2000ドルに到達する」と予想する向きもある。実現すれば時価総額は2兆ドルとなり、現在トップであるアップルの3兆ドルに迫る。

(土方細秩子・ジャーナリスト)

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