教養・歴史アートな時間

泥棒の人助けが呼んだ波紋。親子共演も話題、河竹黙阿弥の名作=小玉祥子

稲葉幸蔵=尾上菊之助 ©松竹
稲葉幸蔵=尾上菊之助 ©松竹

舞台 二月大歌舞伎 鼠小紋春着雛形 鼠小僧次郎吉=小玉祥子

 泥棒の鼠小僧こと稲葉幸蔵を主人公にした河竹黙阿弥作「鼠小僧次郎吉(鼠小紋春着雛形)」が東京・歌舞伎座の「二月大歌舞伎」の第三部で尾上菊之助の主演により上演中だ。菊之助の長男、尾上丑之助(うしのすけ)との親子共演も話題の一つ。

 幸蔵は刀屋の新助と芸者お元が心中しようとするところに行き合って引き留める。二人から金に困っている事情を聞かされた幸蔵は、屋敷に忍び入り、百両を盗んで与える。だが、それが原因で新助とお元のみならず、生き別れになっていた幸蔵の実父、与惣兵衛(よそべえ)や弟、与之助にまで累が及ぶことになる。

 初演は安政4(1857)年。幸蔵は幕末の名優、四世市川小團次(こだんじ)、今回は丑之助が演じる蜆(しじみ)売り三吉は、十三世市村羽左衛門(後の五世尾上菊五郎)がつとめた。三吉はそもそも黙阿弥が五世菊五郎にあてて書いた役であった。

 後に明治の演劇界を代表する名優となった五世菊五郎は、当時、数えの14歳。小團次から脇の手練(てだ)れの俳優が「万事教えてやれ」と五世菊五郎を託された。五世菊五郎を誘って河岸に出かけた俳優は、反対から来る12〜13歳の少年に目を留め、「坊ちゃん、あの小僧の口の利きようなどをよく覚えておきなさい」とささやき、少年に小遣いをやって明日、来てくれと頼んだ。翌日五世菊五郎は、少年に蜆の売り方などを教えてもらった。三吉は大評判となり、五世菊五郎自身がいうとおり「子役での出世役」となった。

 三吉はお元の弟。百両の盗難への関与を疑われて取り調べを受けるお元を心配し、易者に成りすましている幸蔵に姉の今後を占ってくれと頼む。幸蔵が自分の過ちに気付く、きっかけを作る役だ。明治34(1901)年1月の歌舞伎座では五世菊五郎の幸蔵、その子の六世菊五郎(当時丑之助)の三吉、大正14(1925)年二月の市村座では六世菊五郎の幸蔵、その養子で当代菊五郎の父、七世尾上梅幸(ばいこう)(当時丑之助)の三吉で上演された。

 幸蔵と三吉は雪が降る中で出会う。六世菊五郎は、わが子の演技を「素足に草鞋(わらじ)の冷たい雪の感じがどうしても出ない」と不満に思った。そこで東京には珍しいくらいの大雪が降った夜に、七世梅幸を庭に放り出して戸を閉め、「そこでやってみろ」と命じた。「お蔭でその舞台は評判だったが、まあ芸はこんな風にして仕込むものなんです」と著書に記している。今回は、それ以来の音羽屋(菊五郎家)の俳優による親子共演になる。丑之助は現在8歳。今年1月の降雪で雪の冷たさを実体験したと話している。中村歌六、中村雀右衛門らの共演。

(小玉祥子・毎日新聞学芸部)

日時 上演中(2月25日(金)まで。8日(火)、17日(木)は休演)

場所 歌舞伎座(東京都中央区銀座4−12−15)

問い合わせ チケットホン松竹 0570−000−489

      (ナビダイヤル 10時〜17時)


 新型コロナウイルスの影響で、映画や舞台の延期、中止が相次いでいます。本欄はいずれも事前情報に基づくもので、本誌発売時に変更になっている可能性があることをご了承ください。

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