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『Still Dreamin' ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』 アーティスト活動開始から40年、「僕が変わらず大事にしてきたもの」

『Still Dreamin’ ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』より ©2020 UNIVERSAL MUSIC LLC All rights reserved.
『Still Dreamin’ ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』より ©2020 UNIVERSAL MUSIC LLC All rights reserved.

ギタリスト布袋寅泰のアーティスト活動40周年を記念したドキュメンタリー映画『Still Dreamin' ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』が、2月4日から2週間限定で公開されている。1981年5月にBOØWYのギタリストとして音楽活動を開始してからのキャリア、音楽を通じたさまざまな人との出会い、そして海外挑戦を目論んだもののリリース作品がわずか1週間で廃盤に追い込まれるという苦い経験……。もがき苦しみながら試練を乗り越え、夢を実現してきた40年の軌跡が描かれている。

BOØWY時代から変わらぬ『夢』への想い

 映画のタイトルに使われている『Dreamin'』は、布袋にとってかけがえのない音楽作品のタイトルでもある。「一言では到底語り尽くすことができない大切な思い出」であるというBOØWY時代に、布袋本人が作詞作曲(※作詞は松井五郎さんと共作)し、これまで幾度となく演奏してきた楽曲だ。

「2枚目のアルバム『INSTANT LOVE』(1983年)の頃までは、デビューのチャンスを掴んで意気込んでやってきたものの、思うような手応えがつかめず、『どうすればBOØWYらしい表現ができるのか』を日々模索しているような状況でした。その後、ライブハウスでの活動が実を結び、結成当初に掲げた『誰にも似ていない。俺たちだけのオリジナリティを求めていく』という目標に向かっていこうと決めた。そんな時期に書いた曲です」

『Still Dreamin’ ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』より ©2020 UNIVERSAL MUSIC LLC All rights reserved.
『Still Dreamin’ ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』より ©2020 UNIVERSAL MUSIC LLC All rights reserved.

『Dreamin'』は、BOØWYが「脚光を浴びるきっかけになった」と言われる3枚目のアルバム『BOØWY』に収録されている。

 実は、バンド時代に布袋が手がけた歌詞は決して多くない。その数少ない1曲の中に、「自分らしく夢を追い続けていく」という決意や、「夢を見ることの大切さ」を描いた。

「あの頃はまだ世の中に対して唾を吐ける年代でしたし、若さという武器もあった。なので、『とにかく自分らしく、歯車に嵌らない。ある種の“アウトサイダー”として生きていくんだ』という想いを込めました」

 BOØWYは数々の伝説を残し、1987年に解散。その後、吉川晃司と結成したCOMPLEXでの活動、ソロアーティストとしての活動を続けてきた布袋が、変わらず大切にしてきたものが、「自分らしく夢を追い続けよう」というメッセージだ。

「“夢”は言葉にするとどこか照れくさいですし、“大きな夢”を語ると、実現に向けた不安も付きまとう。残念ながら日常ではあまり簡単に使えない言葉ではありますが、どの時代も一番輝いていて、多くの人を動かすものだと思っています。僕自身も、『いつか世界にチャレンジしてみたい』という“夢”が、活動を続ける原動力になっていました。ミュージシャンとして作品を作る上で“夢”という言葉を大切してきましたし、これからもずっと大切にしていきたいと思っています」。

50歳を機にイギリス移住を決断  「これ以上、“夢”を先延ばしにしない」

「いつか世界にチャレンジしてみたい」――。その「長年の夢」を叶えるために、布袋は2012年、イギリス・ロンドンへの移住を決断する。かつて夢に破れたロックの本場で、再び挑戦を期すこととなった。

「オーディエンスに『夢を追い続けているか?』と問い続けてきましたけど、その言葉をそのまま自分に向けた時に、『どこかで“夢”を先延ばしにしてきた自分』を見つけたんです」

「自分自身への言い訳はしたくない」という決意から、“夢”に向けて歩むことを決めた布袋は、欧米各地で公演を重ね、ツアー開催に向けて着々と準備を整えてきた。

東京パラリンピックは、「思い描いた“夢”が実現した」瞬間だった

「海外挑戦」の“夢”に向けて準備を重ねてきた布袋を、2020年初頭から猛威を震い続けている「コロナ禍」が襲った。

 欧米でのツアーの実現が迫ったなかでの予期せぬ停滞。「海外への扉」が閉ざされ、うなだれる布袋の元に、東京パラリンピック開会式への出演オファーが舞い込んだ。

「みんながコロナ禍に疲れ、心が荒んでいる状況も垣間見えましたし、一部には開催反対の声もあったので、最初は少し悩んだ」という布袋だが、本番ではデコレーショントラックに乗って登場し、新曲を含む3曲を披露する。

 話題を呼んだ、先天性の視覚障害を持つギタリスト、田川ヒロアキさんとの共演。布袋は「ハンデを自分の力に変えて、“夢”を信じるエネルギーを感じた」と言う。この演出は、硬派なイメージが強かった“布袋寅泰”というミュージシャンの新たな一面を知らしめることとなった。

「東京パラリンピックは、僕のこれまでの人生で思い描いたことが全て実現したような一瞬で、ミュージシャンとしても一人の人間としても、大いなる学びがありました。(アトランタ五輪の閉会式に次いで)2度目の参加になりましたが、いずれの大会も、僕にとっては本当に光栄で忘れ難い体験でした。これからは、僕が大会から学んだことを返していかなければいけないと感じています。音楽を通じて伝えることが一番だとは思いますが、その他の社会活動などでも貢献していきたいですね」

アーティスト活動40周年「ひたむきに歩んだ」キャリア

 布袋が、石田雄介監督からドキュメンタリー映画のオファーを受けたのは、今からおよそ2年前のことだ。

「自分のストーリーを美化するのは本意ではないので、当初はあまり乗り気ではなかった」。だが、石田監督の誠実さや作品に懸ける熱意に触れたことで、背中を押されたという。

「石田監督が丁寧に向き合ってくれたおかげで、“布袋寅泰”というアーティストが歩んできたストーリーが描かれた見応えのある作品に仕上がった」

「長年の憧れだった」というデヴィッド・ボウイや、ザ・ローリング・ストーンズとの夢の共演。そして、2011年の東日本大震災の発生を受け、「被災地を救いたい想いで、心が通じ合った」という吉川晃司とのCOMPLEX再結成ライブ。さらには、かつてBOØWYのメンバーとして数々の伝説を作り上げてきた松井常松や高橋まこととの再会など、貴重な映像も登場する。ブラウン管、地上デジタル、スマートフォンと、“3つの時代”を走り続けてきたロックスター布袋寅泰が歩んできた歴史が詰め込まれた作品だ。

「自分の歴史を振り返るということは、どこかに照れ臭さを感じたり、ときに“あまり見たくない自分の姿”と向き合うことになるのかなと思いましたが、どの時代の布袋寅泰も、自分に正直でひたむきに歩んでいるように感じられた。それが誇らしかったですね」

「最近では、Queenの『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)や、ザ・ビートルズのドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』 (2021年)など、さまざまな形のアーティストのドキュメンタリー映画も発表されていますから、ファンの皆さんはもちろん、僕のことを知らない世代の方々にも楽しんでいただけるのではないでしょうか。“布袋寅泰”という一人の人間が全力で夢を追い続ける姿は、きっと多くの方に共感していただけるのではないかと思うので、年代や性別を超えて一人でも多くの人に楽しんでほしい。『コロナ禍』で、我慢を強いられる日常を過ごされている皆さんの一筋の光になってくれたら嬉しいですね」

今も変わらぬ“夢”への想い

 2月1日、布袋は60歳の誕生日を迎えた。この日にリリースされたニューアルバムのタイトルも『Still Dreamin'』だ。「かつて『Dreamin'』という曲に託したように、長い年月が経った今も変わらずに夢を追い続けていたい。みんなにも当時のように夢を追っていてほしい」という願いを込めた。

『Still Dreamin’ ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』より ©2020 UNIVERSAL MUSIC LLC All rights reserved.
『Still Dreamin’ ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』より ©2020 UNIVERSAL MUSIC LLC All rights reserved.

「世の中では、“夢”は、“成功”という言葉に置き換えられがちだけど、僕自身は、『お金や成功を掴む』という意味合いで“夢”を語ったことは一度もないんですよ。僕にとっての一番の“夢”も、自分自身を高めつつ、大好きな音楽と共に楽しく歩み続けることですからね。幸いにも、ここまで病気を患うこともなく60歳を迎えることができた。どのくらい残りの時間があるかはわからないけど、これからも変わらずに『夢を追いかけよう!』と訴えていきたいですよね」

 今春には、ツアーも控える。今もなお衰えぬ情熱や探究心と共に歩む 「夢」の続きにも注目だ。

取材・文:白鳥純一

写真:山口直也

衣装協力:モンテドーロ、グランシャツ

井嶋一雄(Balance)

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