愛子さま20歳の記者会見 もっと知りたい、その内面 社会学的皇室ウォッチング!/27=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉
愛子さまが3月17日、初めての記者会見に臨んだ。昨年12月に20歳になったことを受けたものだ。原稿に目を落とさず、自分の言葉で答えようとする初々しさに好感を抱いた。だが一方で、愛子さまの内面をもっと知りたいとも感じた。次に会見する機会は、婚約の時になってしまうからだ。
愛子さまは、学習院大文学部日本語日本文学科に在籍する。この学科は2年次に日本語教育系と日本語日本文学系に分かれる。愛子さまは後者を選んだ。
会見で、愛子さまは「紀行文を民俗学的な視点で読む授業」を受けていると話した。これは、『象徴天皇という物語』の著書もある赤坂憲雄教授の「日本文学講義Ⅱ」であろう。近代日本を舞台としたさまざまな紀行文をテクストに、「旅と観光の誕生」を論じる授業である。非農業民という概念から天皇制支配の本質を語った赤坂教授の授業を、愛子さまが受けていると思うと、非常に興味深い。
愛子さまは、「源氏物語などの平安時代の文学作品、物語作品」には引き続き関心を持っているとも語った。愛子さまが『源氏物語』など古典への興味から日本文学を学ぶ道を選んだことは前から説明されていた。ここは、演習(ゼミナール)選択や卒業論文の題材選びを意識した発言であろう。
学習院大日本語日本文学科には、『源氏物語』を扱う研究者として神田龍身(たつみ)教授がいる。『源氏物語』という古典文学の金字塔をラディカルに読み変えた学者である。
愛子さまが神田演習を選択するのかは分からない。3年生で履修できる神田教授の「日本文学演習」のシラバスには、世の中に出回っている「口当たりの良い」源氏物語像を信用しないようにと書かれている。神田教授の著書『源氏物語=性の迷宮へ』は、紫式部のテクストを「性の物語」と捉え、隠れた欲望の構造を描く。神田演習に所属すれば、学習院女子高等科で習った源氏物語とはまったく異なった古典を学ぶことになるだろう。
大学の授業はこのように刺激的である。会見では残念ながら、愛子さまが大学でどのような知的刺激を受けたのかまでは分からなかった。
結婚質問はステレオタイプ
内親王が20歳を機に記者会見するのは、1959年3月の島津貴子さん(当時、清宮(すがのみや)さま)以降のことである。好きな男性のタイプを聞かれた貴子さんは「私の選んだ人を見ていただいて……」と答え、記者たちの笑いを誘った。
貴子さんはこの時、学習院大イギリス文学科の2年生。翌年、結婚のため大学を中退した。63年前、四年制大学の女性の結婚退学は珍しいことではない。女性が大学で学ぶことは、花嫁修業前の「余業」と考えられ、女性の学ぶ分野は英文、国文、家政学に限定された。
いまの女性のキャリアはこれとは大きく異なっている。大学院に学んで専門を深める人も多い。非婚を選ぶ女性もいる。博士課程まで進んだ皇族には小室眞子さん、三笠宮彬子(あきこ)さまがいる。 そうした時代、宮内記者会が愛子さまに「結婚についてどのようなお考えをお持ちでしょうか。理想の時期やパートナー像があれば併せてお聞かせください」と尋ねたのは直接的すぎる。「理想の男性像」を「パートナー像」と言い換えたことには工夫は見られるが……。
仮に、愛子さまが結婚という道を選ぶにしても、20代前半が結婚適齢期とされた63年前とは異なる。愛子さまは「結婚は私にとってはまだ先のことのように感じられ、今まで意識したことはございません」と答えた。その言葉どおりだろう。
結婚観を聞くよりも、キャリアプランなどこれからの人生設計を聞いた方が、いまの時代、適切だったのではないだろうか。
「通学せず」良かったのか
前例では、女性皇族の記者会見は成人の時と婚約・結婚の時に限られる。眞子さんの例をあげれば、彼女が自身の考えを述べた機会は、2011年の成年会見のあと、17年の婚約時、21年の結婚時の3回しかなかった。
一方、内廷にある成年の男性皇族は毎年会見する。男女の区別は時代にそぐわない慣行である。
愛子さまは中学時代、とても痩(や)せてしまった。同年代の女子と同じように、友人関係に悩み、苦しんだこともあるだろう。皇族に生まれ、時に心ない言葉を投げ掛けられる。インターネットを探せば、自分や雅子さまへの誹謗(ひぼう)中傷に簡単にアクセスできる。若い皇族にとってそれがどれほど辛(つら)いことであっただろうか。
愛子さまの成人を報じるマスメディアは成長を称(たた)える声一色に染まっていた。しかし、私には物足りない。もっと、愛子さまの心の奥を知りたいと感じる。自分たちが見たい皇族ではなく、悩み苦しむ皇族の姿を知るべきなのだ。
会見でも、もっと深い知的関心や皇室に生まれたことについての思いを聞きたかった。宮内庁詰めの記者、宮内庁幹部たちは、前例を乗り越え、皇室のリアルを伝える方策を考えてほしい。 愛子さまがまったく大学に通学していないことも気になる。会見では、対面とオンラインを合わせたハイブリッド授業があるものの、御所でオンライン授業を受けていると明かした。漏れ伝わるところによると、「コロナに苦しむ人びとに寄り添うという両陛下の意向」だという。だが、果たしてそれで良かったのか。
むしろ、大学生たちの先頭に立って、対面授業を受けて同じ境遇の仲間を励ました方が、適切だったようにも感じる。なぜなら、今年度の大学2年生は、入学直後にコロナ禍に見舞われ、大学に通学できないという散々な目にあっているからだ。
さらに言えば、通学することによって、外部から入学した学生や他のジェンダーの学生とも交流できて、人間の幅を広げられただろう。大学の最初の2年間、愛子さまはほとんど外出できなかった。そのことへの思いも、若者を代表して述べてほしかった。
などと会見を見ながら、いろいろなことを考えた。むろん、ジャーナリストや研究者として、小さい頃から愛子さまを見続け、女性天皇問題を考えてきた私にとって、成人は感慨深い。愛子さまに対し「成人おめでとう。大人になったね」という思いは最後にお伝えしたい。
もり・ようへい
成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書、3月22日刊)など