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テレビが〝当事者〟になった「サッチー騒動」とは何だったのか 特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/15〈サンデー毎日〉

大バッシングにさらされた野村沙知代さん。左は野村克也さん(1994年2月1日)
大バッシングにさらされた野村沙知代さん。左は野村克也さん(1994年2月1日)

 1999年 大バッシング報道

 舞台稽古に遅刻した、花瓶を借りたまま返さない――内輪の小さなもめ事がテレビ電波をジャックする大バッシングへ発展した。渦中のタレント、野村沙知代さんに対する世間の憎悪は独占取材した本誌にも降りかかった。「サッチー騒動」とは一体、何だったのか。

 2カ月余りもバッシング報道にさらされながら、沈黙を守ってきた野村沙知代さん(当時67歳)が重い口を開いた。本誌『サンデー毎日』1999(平成11)年6月27日号はサッチーこと野村さんの「独占4時間インタビュー」を掲載した。

 同年春に勃発した「サッチー騒動」では芸能人らがテレビや雑誌に登場し、野村さんとの間で起きたトラブルを口々に暴露。本誌はそれら「16の疑惑」についてサッチーを直撃。ただ一つ一つを見ると、骨董(こっとう)品店から借りた花瓶を返さないとか(サッチーは「もらった」と主張)、タレントの渡部絵美さんに「あなた醜いわね」と言ったとか(サッチーは否定)、多分に楽屋話めいていた。そもそも騒動の発端も、女優・浅香光代さんとの舞台稽古(けいこ)に野村さんが遅刻したが、「すみません」の一言もなかったと浅香さんがラジオ番組でぶちまけたことだ(サッチーは悪いと思ってない)。

 ところが、この〝スクープ〟への批判がすさまじかった。「なぜサッチーの肩を持つのか」という電話が編集部に殺到した。電話の主たちは野村さんを「ウソつき、悪いやつ」と言い、応対した部員が理由を問うと「テレビを見れば、そんなの分かる」と決めつけた。

 テレビはメディア(媒介者)というよりむしろサッチー騒動の当事者だった。7月4日号の記事ではテレビ局プロデューサーが〈サッチー問題にはうんざりしているんです。できればやめたい、というのが本音。(中略)視聴率が稼げますから、やめるにやめられなくなった〉と告白。また、ワイドショーに出演している評論家は裏事情をこう明かす。〈(サッチー騒動で)テレビ批判をすると、番組を降ろされてしまう。(中略)サッチー擁護発言をすると、ワイドショーに心酔する視聴者の敵になる〉

 全部受け止めた夫・野村克也氏

 当時、本誌記者として騒動を取材した石丸整氏は、「どっちもどっちの話が多く、芸能界のイジメだと思いました」と語る。ただし、水掛け論では済まない問題もあった。1996年の衆院選出馬時に米コロンビア大に留学したと言った「学歴詐称」疑惑だ。虚偽なら公職選挙法違反だ。本誌も徹底取材したが、渡米自体の有無さえ藪(やぶ)の中。本人は「受講証は盗まれた」と言うのみだった。告発を受けた東京地検特捜部は不起訴処分にした。だが、その2年後の2001年12月、2億円脱税容疑でサッチーは同特捜部に逮捕された。

「野村沙知代」とは結局、何者だったのか。「話が本当だとかウソだとか、そういうことは抜きにして、サッチーはサッチーだったとしか言えません。野村監督(夫の克也氏)も学歴などについて彼女が言うことはウソだと分かっていたと思う。それらを全部含めて、サッチーという存在を受けとめていたのでしょう」

 逮捕前夜に5時間単独取材をするなどサッチーに最も肉薄した記者の一人だった石丸氏はそう読み解く。

 事実、克也氏は妻の死後、19年に出した著書でサッチー騒動を振り返り、〈沙知代が私に語ったキャリアは、ほぼ一〇〇パーセント嘘だった。(中略)だが、そういう女に惚れてしまったのだから、仕方ない〉と述べている(『ありがとうを言えなくて』講談社)。

 石丸氏が今も思い出すエピソードがある。取材中にふと戦時中の話になった。東京で空襲に遭って逃げ回ったという。詳しく尋ねようとしたら野村さんは「なぜ聞くのよ」と言った。興味があるからと答えると、野村さんは「ただの興味だったら聞かないでよ」と遮り、口を閉ざしたという。

 言葉の虚実を超えた、つかみようのない沈黙だった。

「サンデー毎日4月17日増大号」表紙
「サンデー毎日4月17日増大号」表紙

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