在宅学習継続の愛子さま やむを得ないが、残念 社会学的皇室ウォッチング!/30=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉
大学3年生として新学期を迎える愛子さまが、当面、学習院大には登校せず、オンライン授業を受け続けることになった。両親の新型コロナウイルス感染につながってはいけないという愛子さまの判断だという。やむを得ないことであるが、青春の大事な時期にキャンパスライフを過ごせないのは残念なことだ。
侍従職の説明によれば、愛子さまには登校したい気持ちがある一方、若者の感染者が増えている現状を考えたという。「ご自身の登校が、結果的に両陛下の感染につながってはいけないという強いお気持ちがある」と説明された。
私は4月3日号で、若者の先頭に立って通学する選択肢もあるのではないかとの趣旨を書いた。だが、死に至る可能性もあるコロナという病(やまい)の性質、父親が皇位という重要な地位にあることを考えると、在宅での学習継続という判断も理解はできる。愛子さまは、心が揺れるなか、侍医とも相談したという。
愛子さまは2020年4月、同大文学部日本語日本文学科に入学。ちょうど、その春、コロナウイルスが蔓延(まんえん)しはじめ、都内の多くの大学は授業開始を遅らせた。学習院大でも入学式が中止となり、授業もゴールデンウィーク明けの5月11日から開始されることになった。だが、その後もオンライン授業が続く。愛子さまは10月24日、新入生ガイダンスのため、大学生としては初めて豊島区目白のキャンパスに登校した。だが、それ以後、今日にいたるまで登校していない。
20年秋以降、学習院大は徐々に対面授業を再開した。愛子さまも、登校しようと思えばできる状態にあった。
多くの大学では、ハイブリッド型と呼ばれる授業が実施されている。キャンパスで対面授業を行うが、「感染に不安がある」「持病を持つ家族がいる」などの理由がある学生のために、オンラインでも同時配信し、自宅でも受講できるようにしているのだ。
登校しないことについて、宮内庁は明確に説明していなかった。それが明らかになったのは先月の愛子さまの成年記者会見である。
「感染防止の観点から、普段は大学には通学せず、全科目をオンラインで受講しております。学習院大学では、対面授業を再開している教科も一部ございますが、そのような授業については、対面とオンライン両方の受講を可能とするハイブリッド形式により、授業の同時配信をしていただいており、そういった先生方の御配慮のお陰で、学業が続けられていることをありがたく思っております」
愛子さま自身の口から感染防止という理由で通学していないことが初めて明らかになった。
「失われた学年」
学習院大は新年度、履修者150人未満の科目は、6割を目安として対面形式で開講する方針を打ち出した。残りの4割と、大人数科目は依然として遠隔授業であるが、前年度よりも対面授業は増える。
しかし、愛子さまは、当面、通学を控え、対面授業であっても、同時配信を利用して御所で授業を受ける。
愛子さまは昨年9月の転居前は赤坂御用地内の赤坂御所、転居後は皇居内の御所に居住している。だが、外出したという報道はない。葉山・那須・須崎の御用邸での静養も、都県境をまたいでの移動が人びとへの間違ったメッセージになることを懸念し、職員や現地の人たちの感染リスクも考え、自粛してきた。
つまり、この2年間、赤坂御用地と皇居という小さな宇宙が愛子さまのすべてになってしまっている。授業の合間や休日には、職員とバドミントンやバレーボールを楽しみ、両親と散策することもあるというが、同世代たちとの交流はほぼない。
今春、大学3年生となる学年は、入学直後にコロナ禍に見舞われ、散々な目にあっている。
全国大学生協連合会が昨年秋に実施した学生生活実態調査(サンプルは30大学の1万813人)によれば、当時の2年生(現3年生)のうち「サークルに所属したことがない、今後も入らない」と答えた学生は、25・3%と、他学年が10%台前半であるのと比べて極端に高かった。「学生生活が充実している」と答えた2年生(現3年生)も21・2%と、他の学年に比較して低水準だった。「失われた学年」と呼んでもよい。
同調査での自由回答を見ると「サークルに入るタイミングを逃し、それ以外でも交友関係が広がらないことが不安」(男子)、「3年以降は就活などで忙しくなるので、もう学生生活は諦めています」(女子)など「失われた学年」には不安を訴える者が多い。
この女子の言葉のとおり、この学年は今年、就活が始まる。面接試験での定番に「学生時代に力を入れたことは」という質問がある。学生たちは、「学チカ」と呼ぶ。自分には「学チカ」がないと悩む3年生は少なくないのだ。
開け、世界への「窓」
そうした視点から今年1月、お題が「窓」であった歌会始に愛子さまが寄せた歌を読むと複雑な思いが湧く。
「英国の学び舎に立つ時迎へ開かれそむる世界への窓」
愛子さまは学習院女子高等科2年生だった2018年の夏休み、同高等科のプログラムである「イートン・サマースクール」に参加した。英国の名門私立イートン校の寮に約3週間宿泊し、日本語が禁止される厳しい語学研修に臨んだのである。
ロンドン西郊にある同校は約600年の歴史を持ち、愛子さまは、歴史の重みを感じさせる重厚な建物を目の前にした時、「今、ここから世界が開かれようとしている」との心持ちになったそうだ。「世界への窓」を感じ、それを詠んだのだ。
気になったのは、4年前の歌であったことである。むろん、古い歌だから駄目なわけではない。だが、コロナ禍で、愛子さまの「世界への窓」は、閉ざされてしまったようにも見える。大学2~3年生でも、海外研修の機会があったかもしれない。日本の古典文学の学びであっても、語学力はあったほうがいいし、雅子さまの影響もあり海外志向が強いようにも感じるからだ。
コロナ禍が1日でも早く収束し、愛子さまの「窓」が、日本の各地や、世界に、再び開かれる日が戻ることを祈りたい。
もり・ようへい
成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など