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《世界経済入門》ウクライナ産Neガスの供給が止まり、半導体製造に支障をきたす恐れ=津田建二

ウクライナ産のNeガスの供給が止まれば、蘭ASMLの露光装置も使えない Bloomberg
ウクライナ産のNeガスの供給が止まれば、蘭ASMLの露光装置も使えない Bloomberg

焦点1 半導体不足は続く 光源用ガスに供給不安 要の露光工程に影響も=津田建二

 半導体材料の供給面でウクライナ侵攻の影響は大きい。ロシアからの輸出に関しては、不活性ガスのネオン(Ne)、エッチングガスのC₄F₆、レアメタルのパラジウム(Pd)が不足するリスクがある。(世界経済入門 特集はこちら)

 Neは空気中にごくわずかに含まれる不活性ガスだが、空気中からの抽出は効率が悪いため、ロシアが精製する鉄鋼の副産物としてできるといわれている。ロシアでできたガスをウクライナへパイプラインで送り、ウクライナで半導体グレード(半導体製造に適した品質)に精製して各地に送っている。ウクライナ産のNeのシェアは世界の70%にも上る。

 Neガスは露光装置の光源として組み込むエキシマレーザー用のArF(フッ化アルゴン)やKrF(フッ化クリプトン)のガスを薄める濃度調整用に使われている。露光は回路をウエハーに転写する半導体製造の要の工程であり、IC生産の75%に相当する180ナノメートル以下のIC製品はエキシマレーザーを用いて製造される。

 既にウクライナのNeガス精製会社2社がロシア軍の攻撃により生産を停止している。今のところ、エキシマレーザーメーカーは在庫を十分備えており、短期的には影響が小さいと見ている。しかし戦争が長期化し、Neが入手できなくなると、その影響は極めて大きくなる。

 C₄F₆ガスはロシアで生産され毎年8トンのガスを米国へ送り、米国で半導体グレードになるよう精製している。「ダマシン」と呼ばれる銅の多層配線技術のエッチングに使われるようだ。

 Pdは、水素センサーやMRAM(磁性体を使った半導体メモリー)などに用いられている。また、自動車においては、排ガス規制をクリアするための触媒としてほとんどの内燃エンジン車に使われている。

 今回のウクライナ侵攻により、半導体不足の解消は半年遅れると見られている。もともと2022年半ばに半導体不足は解消すると見られていたが、22年末まで不足状態が続くと見る向きが多い。

需要家としてのロシアは小さい

 一方、半導体の買い手としてのロシア市場は大きくない。米半導体工業会(SIA)によると、ロシアが輸入している半導体製品は世界の0.1%にすぎない。また、ロシアのIT市場は、全世界の4.47兆ドルのうち503億ドル(約1.1%)しかない。ロシアに経済制裁をしても、需要面では大きな影響はないだろうと見ている。

 制裁としては、米インテルやAMDはロシアとベラルーシへの製品輸出を停止し、韓国サムスン電子、SKハイニックス、米マイクロン・テクノロジーのメモリー大手3社も一時停止している。また、世界最大手のファウンドリー(製造受託企業)の台湾TSMCも同調姿勢を見せている。生産設備を持たないファブレス半導体メーカーのロシアの上位4社はバイカルエレクトロニクス、MCST、ヤードロ、STCモジュールで、TSMCはこの4社から受注しているが、現在、出荷を止めている。

 一方、ロシアにはファブ(自社工場)を持つ半導体メーカーのミクロン社が操業。最小寸法65ナノメートルプロセスでマイコンやRFID(無線タグ)、電源IC、IoT製品などの半導体製品を生産している。ただ、その規模は小さい。

 ロシアが今後、必要な半導体を入手しようとするなら、密輸するしかないだろう。

(津田建二・国際技術ジャーナリスト)

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