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週刊誌の氾濫〝狂騒曲〟下の美智子さま「水着写真」の波紋 特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/18〈サンデー毎日〉

沼津御用邸付近の松林を散策される皇太子さま(現上皇)、美智子さま(現上皇后)と浩宮さま(現天皇陛下)=1962年8月撮影
沼津御用邸付近の松林を散策される皇太子さま(現上皇)、美智子さま(現上皇后)と浩宮さま(現天皇陛下)=1962年8月撮影

 1962(昭和37)年 皇族のプライバシー

 小室眞子さんの結婚、秋篠宮家の長男悠仁さまの進学問題と世論はかまびすしいが、良くも悪くも熱量では昭和の「ミッチーブーム」以降に及ばない。週刊誌メディアの氾濫時代を迎える中、皇太子妃だった現上皇后さまが遭遇した「プライバシー」騒動を振り返る。

 本誌こと『サンデー毎日』1962(昭和37)年9月16日号の記事にこうある。〈皇太子さまは黒地に白い線が一本入った海水パンツ、美智子さまは白い水泳帽に濃紺の水着でした〉

 まだその言葉になじみがなかった〝パパラッチ〟の耳打ちかと思いきや、静岡県警沼津署の巡査部長(記事では実名)が本誌取材に応じて語った内容である。話はこう続く。〈皇太子さまが妃殿下の手をとって、五、六㍍沖へ歩いて行き、もっと沖へ出ようと、促されましたが、妃殿下は海がこわいらしく皇太子さまの肩につかまりました〉

 同年8月初旬、皇太子(今の上皇さま)ご一家は沼津御用邸に滞在。当時2歳半の浩宮さま(今の天皇陛下)を連れての〝夏休み〟だ。同6日夕、お二人は海水浴客が引けた頃を見計らい、御用邸裏の海岸へ泳ぎに訪れた。巡査部長は自らも海水パンツ一丁になり、立ち泳ぎをしながら警戒したという。ほほ笑ましい夫婦の情景を警備陣が率直に語るさまに時代を感じるが、最後にこんな痛恨事を打ち明けた。〈写真が盗みどりされているとは、まったく気がつきませんでした……〉

 実は皇太子妃の水着姿を撮影していたメディアがあった。本誌同号は「美智子妃のプライバシー」と題して、この騒動について報じた。記事には「ある芸能週刊誌」としかないが、「美智子さまが泳いでいる!」という見出しとともにグラビアページに写真を掲載したのは『週刊平凡』同年8月23日号。〈無断撮影は失礼だが、本誌は珍らしい美智子さまの水着姿取材に初めて成功した〉と説明が載る。

 写真は遠目で、それとされる人影を丸く囲んで示していないと識別不能だが、ともあれ宮内庁は出版社に抗議。本誌記事で東宮大夫は〈婦人の学者、政治家、作家もいるが、そういうひとたちの水着姿を黙って写して、雑誌に掲載したらどういうことになるか〉と憤慨する。皇室の尊厳というより社会ルールの文脈で語られているのが興味深い。

 「ミッチーブーム」が生んだ雑誌

 婚約発表から59(昭和34)年の〝ご成婚〟をピークに「ミッチーブーム」が起きた。その後、浩宮さまの誕生から独自の子育てと、美智子さまの一挙一動がますます注目されていた頃だ。

 折しも世間は「週刊誌ブーム」でもあった。野村尚吾『週刊誌五十年』(毎日新聞社)にこうある。〈昭和三十四年が最も多く創刊され、週刊誌の氾濫となる。『週刊文春』『週刊公論』『朝日ジャーナル』や『週刊平凡』『週刊女性』『女性自身』などが相前後して発刊された。とくに女性向きの週刊誌が、その後も数多く創刊されるようになる〉 ミッチーブームに乗って次々と雑誌が生まれたが、同じ59年中に三十数誌が廃刊したという。過当競争に陥ったからだ。冒頭の〝盗みどり〟騒動も根はそこだろう。同書はこんな一文を引く。〈週刊誌というイメージに、〝低俗・扇情・無責任〟といった芳しくない連想がつきまとい始めたのも、このころからである〉

 事実、本誌同号で当時の宮内庁次長は〈最近痛感させられるのは、他人の生活をのぞきこもうとする気持が、あまりにも強すぎるのではないか〉と直言した。

 一方、美智子さまと近い識者の一人はこう指摘した。〈宮内庁は、皇太子ご一家の尊厳がそこなわれたという感じと、プライバシーの侵害とをごっちゃにして考えているのではないか。ご一家がスターとファンの形でしか民衆と接触できない不幸は、そうした当局の態度に大きな原因がある〉

 皇室と国民との距離、それを常に手探りしてきたのが上皇ご夫妻自らだったことを、今では誰もが知っている。

(ライター・堀和世)

ほり・かずよ

 1964年、鳥取県生まれ。編集者、ライター。1989年、毎日新聞社入社。ほぼ一貫して『サンデー毎日』の取材、編集に携わる。同誌編集次長を経て2020年に退職してフリー。著書に『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)、『小ぐま物語』(Kindle版)など

「サンデー毎日5月8・15日合併号」表紙
「サンデー毎日5月8・15日合併号」表紙

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