2022年大学入試:全国4300高校最新調査 難関・有名大「現役」進学実績 東日本は開成、聖光学院… 西日本は北野、灘…〈サンデー毎日〉
中高一貫校が堅調 伝統公立校が復権の西日本
浪人生の減少が続き、近年の大学入試の主役は現役生だが、難関大に関しては経験でアドバンテージがある浪人が強い。そうした中でも難関大の現役進学率が高い学校はどこなのか。国公立大全体の進学率と合わせて検証した。
18歳人口の減少が進む中、大学入試は現役中心の傾向が強まるばかりだ。まず2020年度入試(20年4月入学)は翌年の入試改革を避けようと、「入れる大学に進学しよう」という風潮が高まったことで浪人生は減った。実際に21年度が初実施だった大学入学共通テストは、浪人生の志願者数が大学入試センター試験だった前年より約1万9000人、19・3%も減った。22年度も前年ほどではないものの約4000人、5・2%減って7万6785人。浪人生が8万人を切るのは、センター試験時代も含めて初めてだった。
もっとも、浪人生は減少しているが、難関大を目指す受験生は多いという。難関大合格に向けた1年以上の貯金がある浪人生は、現役生にとっては厳しい競争相手となる。難関大に限っては、現役合格は並大抵のことではない。
そんな難関大に現役進学することが〝当たり前〟の学校を一覧表にしたのが、「難関10国立大『現役』進学率ランキング」(10大学は旧七帝大に東京工業大、一橋大、神戸大)だ。東日本では開成、聖光学院、筑波大付駒場、札幌北、西日本では北野、灘、東大寺学園で、同学年の半数近くが難関10国立大に現役で進学している。安田教育研究所代表の安田理氏は言う。
「保護者の心情としては、少しでも難関大進学実績が高い学校に子どもを入れたいもの。そのため実績校に受験生が一極集中し、その中から優秀な生徒が選抜されるので、高い進学率が続くのです」
個別の学校の状況について、東日本から見ていこう。
首都圏は開成が首位 近畿は北野がトップ
難関大の現役進学を目指すなら、中学からの先取り学習により、高校3年次を受験勉強に充てられる中高一貫校が有利。東日本のベスト3は一貫校が占め、1位は前年の進学率を12・4ポイント上回る45・2%の開成で、前年の6位からトップに立った。ランキング中で最大規模となる卒業生が400人を超える学校ながら、半数近い183人が難関国立大に進学。個別の大学を見ると、東大進学者が106人から137人と31人増となり、進学率を押し上げている。
2位の聖光学院も東大進学者が69人から77人に増えたことから、進学率が前年の39・6%から43・0%となり、3位から順位を上げた。反対に3位の筑波大付駒場は45・6%から42・6%に下がり、前年の1位から順位を下げている。
一貫校の強さは西日本でもうかがえる。2位の灘は、前年の進学率を僅かに下回る48・9%で1位から順位を下げたが、卒業生の5割近くが東大を中心とした難関大に進学している。3位の東大寺学園は前年を1・2ポイント上回る43・0%で順位を4位から上げ、4位の甲陽学院は前年より6ポイント低い37・3%で2位から順位を下げたが、相変わらず高い進学率だ。
一貫校優位の中で注目されるのは、3年制の公立校ながら、灘を上回る進学率49・2%で西日本1位になった北野だ。前年を7・2ポイント上回り、3位から順位を上げた。東大と京大の合計進学者数が65人から73人、大阪大が34人から54人に増加したことなどが一因となっている。駿台予備学校進学情報事業部長の石原賢一氏は、北野で進学実績が上がった要因について、こう話す。
「近畿圏には、優秀な女子の受け皿となる共学や女子の一貫校が少ないことが大きいのでしょう。女子は現役志向が強いこともあり、優秀な女子が北野に集まっているために現役進学率が上がるのだと思います」
近年、女子も含めた優秀な生徒が公立校に集まる環境が構築されていることから、北野以外でも公立進学校の難関大進学実績が高まっている。前出の安田氏は言う。
「現役で難関大に多くの生徒が進学する公立校は、通学区制度の撤廃や難関大進学に力を入れる進学指導重点校の指定など、優秀な生徒が集まる仕組みができています。さらに大阪や東京、埼玉、神奈川などのトップ校は、一般的な公立校よりレベルの高い入試問題を使用し、中学時代にしっかりと勉強してきた、学力の高い生徒を選抜しています」
大阪はグローバルリーダーズハイスクール、東京は進学指導重点校、神奈川は学力向上進学重点校の指定などにより、優秀な生徒が集まる受け皿も作った。その上で、いわば先取り学習などで先を行っている一貫校生に負けないくらいの学力を持つ生徒を選抜し、高校入学時点から一貫校生の〝スタートライン〟に近づけさせてきたことが、現役進学率急進の一因になっているようだ。
自治体の施策で難関大進学実績が高まっている学校には、北野以外に、西日本では、6位の三国丘(33・9%)や、12位の長田(31・7%)、13位の天王寺(31・6%)など。東日本では、10位の日比谷(27・3%)や11位の横浜翠嵐(27・0%)、12位の小石川中教(26・6%)、13位の浦和・県立(25・6%)などがあり、かつて難関大合格実績が高かった学校の復権を印象付ける。
伝統校の復権に加え、変わらず地元の旧帝大の進学者が多い学校もランクインしている。東日本では札幌北(40・1%)が4位で、札幌南(39・2%)が5位。前者は94人、後者は69人が北海道大へ現役で進んでおり、全体を押し上げている。8位の仙台第二(32・3%)は東北大の進学者が73人と多い。西日本は九州大の進学者が94人で9位の修猷館(32・8%)、名古屋大の進学者が56人で10位の岡崎(32・6%)などがある。
これらの学校は各地域のトップ校であり、地元以外の難関国立大にも比較的多くの進学者がいる。例えば、札幌南は北海道大以外に、東大9人や京大11人、大阪大14人、東京工業大5人など他の難関国立10大学の進学者が54人で、北海道大の進学者に迫っている。
地方の公立進学校は共通テストで「強み」
難関国立大の進学率が高い学校を見てきたが、気になるのは、こうした学校の生徒は、どのような学校生活を送っているのかということだ。安田氏に聞いてみた。
「トップ校では、勉強することが当たり前と考える優秀な生徒たちが、高いレベルで教え合いをしている光景を目にします。科学オリンピックの上位入賞者など、普通の学校では出会えない、いい意味でオタクな生徒から刺激を受ける機会も多いでしょう。一般的な学校での非日常が、日常の環境にあることが、難関大現役進学者が多い学校の特徴です」 高度な知識と思考力が自然に身につく環境は、21年度の改革を機に変わっていく大学入試で、さらに力を発揮しそうだ。駿台の石原氏は、思考力重視に振れた共通テストを例に挙げながら、こう話す。
「普段から物事を深く考える環境で育っているトップ校の生徒にとって、思考力を求める傾向が強まる形での共通テストの難化は、一般的な学校の生徒が苦労する分、プラスになる。トップ校の生徒にとって有利な方向に大学入試が変わっていくので、今後も難関大進学実績が維持されそうです」
次に「全国 国公立大『現役』進学率ランキング」を見ると、東日本と西日本ともに、進学率が高い学校は地方に多い。
東日本は、進学率が90・0%で卒業生の大半が東京芸術大に進学する1位の東京芸大付音楽を除くと、上位は東北の学校が多く、2位の盛岡第三(70・0%)、3位の八戸(69・9%)、4位の弘前(69・6%)、6位の安積黎明(68・7%)、7位の仙台第三(67・0%)などが上位に入っている。東北地方には、国公立大が数多くあることが要因だ。早慶やMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)など難関私立大がある首都圏の学校は、地方ほど国公立大志向は強まらず、東京芸大付音楽以外は、東大進学者が多くを占める聖光学院(57・0%)が23位に入っているのみだ。 西日本でも1位の松山南(71・1%)、2位の諫早(71・1%)、3位の富山中部(71・0%)、4位の甲南(70・8%)など、地域はばらけるが、地方の学校が多くランクイン。大都市圏の学校は愛知の一宮西(67・8%)が9位にランクイン。名古屋大に加え愛知教育大や名古屋工業大、名古屋市立大など、地元に国公立大が多いことが背景にある。全国公立大を対象としたランキングでは、東西ともにトップ校に次ぐ進学校が多くランクインしていることが特徴だ。安田氏は言う。
「地方の一般的な国公立大は、共通テストの配点が高い。そのため学校を挙げて共通テスト対策をきちんとすることで多くの進学者を出す学校として評価できます。生徒を国公立大に進学させようという思いの強い学校ほど、実績が高くなるのだと思います」
難関大の実績が高い学校だけが進学校ではない。コロナ禍の影響もあり、特に地方を中心に国公立大志向が強まる中、生徒や保護者の期待に応える学校も立派な進学校といえよう。