【週刊エコノミスト創刊100年キャンペーン実施中】いまなら週刊エコノミストオンラインをお申し込みから3カ月間無料でお読みいただけます!

週刊エコノミスト Online

「真面目の標本」17歳による社会党委員長へのテロル 1960(昭和35)年・浅沼稲次郎氏暗殺事件〈サンデー毎日〉

演説中に短刀で刺された浅沼稲次郎・社会党委員長(右)。この写真は日本人初のピュリツァー賞を受賞した
演説中に短刀で刺された浅沼稲次郎・社会党委員長(右)。この写真は日本人初のピュリツァー賞を受賞した

 特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/23

 18、19歳を「特定少年」として起訴後の実名報道を可とした改正少年法が注目されるが、60年以上前、右翼テロにより名をとどろかせた「17歳」がいた。日本のカメラマンが米ピュリツァー賞を初受賞した写真とともに記憶される「浅沼社会党委員長暗殺事件」である。

〈この写真をトップで掲載した「サンデー毎日」10月23日号は売り切れ――〉 毎日新聞社の社史『「毎日」の3世紀』(2002年)は記す。写真とは1960(昭和35)年10月12日、東京・日比谷公会堂で社会党の浅沼稲次郎委員長(当時61歳)が演説中に刺殺された現場を捉えた一枚だ。撮影した毎日新聞写真部員の長尾靖氏は翌年、ピュリツァー賞を受賞した。

 社史によると、長尾記者は事件発生時、12枚撮りフィルムのうち11枚を使い終えていた。不測の事態に備えて「最後の1枚は必ず残しておけ」というカメラマンの鉄則があった。デジタル時代には成り立たない挿話が白黒写真に歴史の一コマとしての色彩を与える。

〈カーキ色ジャンパーの少年が演壇中央の浅沼委員長に向かって突進する。(中略)少年は浅沼さんにぶつかるように一度、二度、浅沼さんの胸をつき刺した〉

 くだんの本誌同年10月23日号には長尾カメラマンと一緒に取材していた毎日社会部の岡本篤記者が記した凶行の一部始終が載る。岡本記者は後年、本誌でこう回想している。〈あの日は、日本シリーズの日で、取材陣の中には、廊下に出てラジオを聴いている人もいたようです。私たちは、野球に興味がなかったので会場の最前列に陣取った。それが、あの暗殺をあんなに近くから目撃する結果になった〉(75年10月19日号)

 特ダネの裏話は同時に、犯行が大方には想定外だったことを示す。だがその頃、日米安保条約改定に反対する左翼運動(60年安保闘争)に対抗し、実力行使を売り物にする「行動右翼」が台頭。浅沼氏自身、前年の訪中時に「米帝国主義は日中共同の敵」と発言したことが反発を買っていた。護衛をつけるように周囲が勧めたが、「私は社会主義者だ。必要ないよ」と断ったという。当時の側近はこう明かしている。〈浅沼さんは常に「大衆はオレを信じているよ」「オレを殺そうというものはいない」とかたく信じていました〉(同)

 老判事がつぶやいた断層と飛躍

〈軍服もどきの上着を着たり、半長靴をはいて登校して級友を驚かした。(中略)〝右翼野郎〟これが、彼に与えられた級友のアダ名だった〉(60年10月30日号)

 浅沼氏を刺した少年(当時17歳)には早くから思想の芽生えがあった。59年、赤尾敏総裁が率いる大日本愛国党に入ったが、演説では赤化を防げないとして60年5月に脱党。〝一人一殺主義〟に傾いていった。赤尾総裁によると〈真面目の標本だった。(中略)激情家で飛躍的だったが、ボーヤと呼ばれ、みんなから愛されていた〉(同)という。

 本誌は他媒体と同様、初報から「山口二矢(おとや)」と実名で伝えた。未成年事件を巡っては、58年に東京都江戸川区で男子高校生が同じ学校の女子生徒を殺した「小松川事件」で実名、匿名が入り乱れて混乱。これを受けて業界は、容疑者が逃走中で凶悪犯罪を重ねる恐れがある場合などを除き、匿名報道を申し合わせたはずだった。「17歳」という年齢がむしろメディアを取材合戦に駆り立てる中、少年は「国家のためにやったことだから後悔はしていないが、罪の償いはするつもりだ」という逮捕直後の供述通り、事件の3週間後、少年鑑別所内で命を絶った。

 自殺を報じた本誌60年11月20日号には、14件に上る少年の「非行歴」一覧が載っている。ただし、多くは街宣活動による道交法違反など微罪だ。〈わたしには理解できない断層が(中略)あったのです。ビラマキと殺人、その間には心理の断層か飛躍しかないはずです〉

 記事は少年を担当してきた家裁の〝老判事〟が漏らしたつぶやきで締められている。

(ライター・堀和世)

ほり・かずよ

 1964年、鳥取県生まれ。編集者、ライター。1989年、毎日新聞社入社。ほぼ一貫して『サンデー毎日』の取材、編集に携わる。同誌編集次長を経て2020年に退職してフリー。著書に『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)、『小ぐま物語』(Kindle版)など

「サンデー毎日7月3日号」表紙
「サンデー毎日7月3日号」表紙

 6月21日発売の「サンデー毎日7月3日号」には、ほかにも「耳鼻科医が直言!ストレスが大敵 耳鳴り こうすれば良くなる! 知っておきたい原因と症状」「7・10参院選 『風』が止まった日本維新の会 野党第1党〝奪取〟後に何が起こるか!?」「上場前の新規公開株で儲ける! ▽成城石井、楽天証券、楽天銀行が年内に上場か▽上場前のIPO株は『7~8割儲かる』」などの記事も掲載しています。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月13日号

論争で学ぶ 景気・物価・ドル円14 バブルは別の顔でやって来る ■熊野 英生17 鳴らないアラート 「経済の体温計」を壊した罪と罰 ■中空 麻奈18 対論1 米国経済 景気後退入りの可能性高い ■宮嶋 貴之19  景気後退入りの可能性は低い ■高橋 尚太郎20 対論2 日銀 23年後半から24年前半 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事