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2023年度大学入試はこうなる 「女子枠」特別選抜で拡大も 相次ぐ「情報系」学部の新設〈サンデー毎日〉

「サンデー毎日7月3日号」表紙
「サンデー毎日7月3日号」表紙

 18歳人口の減少による受験生の減少は止まらず、大学を取り巻く環境が厳しさを増す。その中でも体力のある大学は、学生募集のためにさまざまな改革を進める。2023年度入試(23年4月入学)に向けた取り組みを見ていこう。

 22年4月の高校入学者から、新学習指導要領に切り替わった。卒業生が大学入試に臨む25年度を控え、23年度の一般選抜に大きな動きはない。それでも、受験生の減少が続く中、学生確保に向けた改革は続いている。その動きの一つが、総合型選抜や学校推薦型選抜といった特別選抜の拡充だ。

 国立大学協会は、特別選抜による入学者を全体の3割にするとしている。既に東北大のように、3割以上を総合型選抜で募集している大学もある。23年度には岡山大が一般選抜の後期を廃止して特別選抜に移行する。代々木ゼミナール教育総合研究所主幹研究員の坂口幸世氏は、こう話す。

「後期は前期と同時出願で、前期の合格者は原則として後期を受けません。そのため、後期は実質倍率(受験者数÷合格者数)が下がるのですが、近年は受験人口の減少で前期の志願者が減っているため、後期の倍率が低い大学が増えています。今後は、低倍率な後期を維持するより、特別選抜に切り替える大学が増えるでしょう」

 22年度の岡山大後期の志願者は1347人。受験者は425人に減ったため実質倍率は2・0倍になった。23年度は、長崎大・多文化社会も、後期を廃止して学校推薦型選抜を導入する。

 理系の大学や学部には、母集団が小さな理系の女子受験生の獲得も長年の課題になっている。22年度は奈良女子大が工を新設。前後期合計の募集人員27人のところに228人の志願者が集まった。23年度は名古屋大・工の電気電子情報工とエネルギー理工の2学科が学校推薦型選抜で、定員の半数を女子枠で募集する。12年度入試では、九州大が一般選抜の後期で国立大初の女子枠を設けた。しかし、「男性差別」と抗議を受けて中止した経緯がある。時代は変わったのだろうか。代ゼミの坂口氏は次のように解説する。

「今は複数の大学が学校推薦型や総合型選抜で女子枠を設けています。一般選抜は完全な公平性が求められますが、特別選抜は大学が求める人材獲得が許容されます。東大の学校推薦型選抜で男女2人ずつの制限を設けているのも、女子学生が欲しいからです」

 私立大では、芝浦工業大が工で実施していた女子対象の学校推薦型選抜を、23年度からシステム理工とデザイン工、建築に広げて全学部実施とする。

 キャンパスの都心回帰による利便性の向上を、学生募集の追い風にしようとする大学もある。広島大は法を郊外の東広島キャンパス(東広島市)から都心の東千田キャンパス(広島市)に移転。東千田には法科大学院があり、法曹養成の機能を高める狙いもある。

 私立大では中央大が法を東京郊外の多摩キャンパス(八王子市)から都心の茗荷谷キャンパス(文京区)に移転。同時に法科大学院も、近接する駿河台キャンパス(千代田区)に移転する。これで、法曹養成における学部と大学院の一貫教育が進む。坂口氏は言う。

「多摩キャンパスに移転する前、司法試験を目指す受験生にとって、法学部の序列は東大の次が中央大でした。移転後あたりから、慶應義塾大など司法試験講座をつくって対策を充実させる大学が増えたことから、司法試験における中央大のポジションが下がりました。都心回帰でかつての立ち位置には戻らないでしょうが、早慶に肉薄するかもしれません」

 仙台や横浜でも続くキャンパス都心回帰

 22年春の入学者は、23年度から新キャンパスに通えるので、中央大・法の志願者が増えると見られていた。だが、一般方式と大学入学共通テスト利用方式を同時出願した際の検定料割引の廃止などにより志願者は増えなかった。それでも志願者減は共通テスト利用方式で、一般方式は減っておらず、23年度は難化する可能性が高い。

 東北の拠点大学の東北学院大は仙台駅に至近の五橋キャンパス(仙台市)を新設。既に22年度入試は、2年次から新キャンパスに通えることや検定料割引が相まって志願者が増加。関東学院大は関内キャンパス(横浜市中区)を開設し、法、経営、人間共生(コミュニケーション学科)が金沢八景キャンパス(同金沢区)から移る。

 23年度は、受験生に人気が高く、日本は遅れているデータサイエンス分野に力を入れる大学が増えていることも特徴といえる。内閣府がまとめた「AI戦略2019」では、全学部生が基礎的な情報リテラシーを身に付けることを求めている。関西学院大が「AI活用人材育成プログラム」を全学的に進めるなど、多くの大学で全学部生を対象としたデータサイエンス教育が進む。一方、データサイエンスに特化した人材養成を行う学部の新設も進んでいる。

 23年度は一橋大がソーシャル・データサイエンスを新設し、社会科学の視点からデータサイエンスを駆使できる人材を養成する。

「研究重視の東大に対して実践的な学問を志向する一橋大らしい学部だと思います。試験方式にもよりますが、受験生の注目度は高くなるでしょう」(坂口氏)

 主なデータサイエンス系の新設は、名古屋市立大・データサイエンスや東北学院大・情報(データサイエンス学科)、亜細亜大・経営(データサイエンス学科)、東京都市大・デザイン・データ科、京都女子大・データサイエンスなど。さらに各大学の特徴を生かしたユニークな学部もある。北里大・未来工(データサイエンス学科)は、データサイエンスを駆使して、環境問題や生物多様性、食糧問題、感染症リスクなど、医学に軸足を置いた課題を解決できる人材を、順天堂大・健康データサイエンスは、健康、医療、スポーツ領域で活躍できるデータサイエンス人材の養成を目指している。

 学生の獲得に向け、大学はさまざまな分野で改革を続けている。改革の情報はインターネットや紙の大学案内からも手に入るが、コロナ禍の影響も薄まり対面のオープンキャンパスが戻ってきた今。キャンパスの雰囲気を感じながら、志望大学の最新の情報を確認してはいかがだろうか。

 6月21日発売の「サンデー毎日7月3日号」には、ほかにも「耳鼻科医が直言!ストレスが大敵 耳鳴り こうすれば良くなる! 知っておきたい原因と症状」「7・10参院選 『風』が止まった日本維新の会 野党第1党〝奪取〟後に何が起こるか!?」「上場前の新規公開株で儲ける! ▽成城石井、楽天証券、楽天銀行が年内に上場か▽上場前のIPO株は『7~8割儲かる』」などの記事も掲載しています。

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