経済・企業

《ドル没落》対露制裁に追随せず、「非親米国」顕在化で始まるドル離れ=浜田健太郎

米国は「世界の警察官」に戻ろうとしているのか… Bloomberg
米国は「世界の警察官」に戻ろうとしているのか… Bloomberg

再び「世界の警察官」を任じ始めたバイデン政権

 基軸通貨ドルという「最強の武器」を携えた超大国アメリカへの反乱の狼煙(のろし)が上がってきた。

対露制裁“する側”より経済規模が大きい“しない側”=浜田健太郎

 ロシアのウクライナ侵攻への制裁措置として、米欧日が凍結したロシア中央銀行保有の外貨準備3000億ドル(約39兆円)を没収して、ウクライナの復興資金に充てることができるのか──。欧米政策当局者の間で凍結資金の扱いに関する見解の相違が浮上している。(ドル没落 特集はこちら)

“復興資金”の活用構想は欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表が5月にメディアで明らかにした。一方、イエレン米財務長官は記者会見(同18日)で「ウクライナの破壊状況を考えればロシアが巨額の復興資金を負担するのは当然」と述べる一方で「凍結した外国資産を押収するのは法的に許されない」と明言した。

 米紙『ニューヨーク・タイムズ』は5月31日付記事で、「(凍結)資金の流用は違法であり、他の国々が投資先として米国を頼ることをちゅうちょさせる可能性がある」とのバイデン政権高官の見解を紹介した。

 軍事侵攻によって経済制裁が発動されることはロシア側も想定していただろう。とはいえ、日本の税収(2020年度60.8兆円)の6割強に相当する金額が外国の機関に凍結されたことは、ロシアだけでなく世界に衝撃をもたらしたに違いない。

 特に中国は敏感に反応した。中国保有の米国債残高は今年3月末に1兆390億ドル(約136兆円)で12年ぶりの低水準に落ち込んだ。中国共産党系の英字紙『グローバル・タイムズ』は5月17日付記事で「ドル覇権に対する中国の抵抗が強まっている」と著名中国人エコノミスト田雲氏のコメントを引用した。

 旧ソ連崩壊で冷戦に勝利した後も「世界の警察官」を自任してきた米国だが、オバマ元大統領は「警察官ではいられない」と宣言。米国第一主義を掲げたトランプ前大統領も、その色合いを強めた。

 しかし、バイデン大統領は、敵対するトランプ路線への反動もあるのか、人権侵害があると認識する国に対して厳しい姿勢を示す。例えば、サウジアラビア人記者が殺害されたカショギ事件(18年)について、サウジの最高権力者ムハンマド皇太子が承認したとする調査報告書を公表(昨年2月)。サウジ元高官らへの制裁措置(同皇太子は対象外)を発表した。

 米国が再び警察官の役割に目覚め、“罰金”の取り立てが厳しくなったと各国が感じたら、米国との関係を敬遠する動きが増えても不思議ではない。そうした心理が世界に広がれば、ドルへの信頼にも影響しよう。00年代前半に7割を超えていた世界の外貨準備に対するドルのシェアは、ここ数年は6割を割り込んでいる(図1)。

 世界は今、プーチン大統領が統治するロシアとは一切の外交・経済関係を断ち切る構えの主要7カ国(G7)中心の先進国側と、そうでない国々(非G7側)とに色分けができる(図2)。経済規模は制裁に加わらない非G7側のほうが大きい。この状況は世界の通貨体制に何をもたらすのか。

「脱ドル」考えた日本首相

 通貨外交の舞台裏を知る外交評論家の孫崎享(うける)氏(元イラン大使)は、外務省国際情報局長在任中に、当時の橋本龍太郎首相から通貨問題でよく相談を受けたと話す。

「橋本首相はドル依存から脱却し、(ユーロ導入準備中だった)独仏への接近を考えていた」(孫崎氏)という。橋本氏は1997年6月の訪米時に、「米国債を売りたいという誘惑にかられる」と発言。米株価とドルが一時大きく下落し、米著名キャスターから「米国を脅迫した」と批判された。

 孫崎氏は、対露制裁を巡る世界の分断について、「米欧は制裁で通貨を武器にした。在外資産保有や貿易取引で過剰にドル(やユーロ)に依存することは危険だと、非G7側は鮮明に感じただろう」と述べ、ドル離れが進む契機となる可能性を指摘した。

(浜田健太郎・編集部)

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