《まだまだ伸びる半導体》入手困難なほど高まる偽造品リスク=編集部
半導体不足の裏側
半導体の流通過程では、怪しげなブローカーも介在している。(まだまだ伸びる半導体 特集はこちら)
深刻化する「偽造品」問題
廃棄品を再出荷して流通=編集部
半導体不足がなかなか解消しない中、業界では今、偽造品の問題が広がっている。典型的な例は、パソコンやスマートフォンに搭載されているCPU(中央演算処理装置)やメモリーなどの高性能デバイス。廃棄する製品からCPUやメモリーを取り出し、新品のように捺印したり外観を変えたりして偽装するケースだ。
半導体は国際分業が進んでおり、国や地域をまたいでサプライチェーンが長くなる分、偽造品が入り込む余地がある。典型的には米国のファブレス企業(製造設備を持たない設計専門企業)が設計し、前工程は台湾のファウンドリー(製造受託企業)が担い、後工程の組み立ては中国のOSAT(組み立てとテストの受託企業)が受け持っている。こうした各流通段階で偽造品が入り込むリスクがある。
さらに、2020年から新型コロナウイルスの感染が拡大し、生産や流通が途絶える一方、巣ごもり消費やデータセンター向けなど需要は伸び続け、半導体不足が深刻化したことも追い打ちをかけた。半導体不足が顕著になると、半導体の調達力の低い仕入れ企業は、半導体メーカー直系の卸業者からだけでは調達できなくなり、市場に流通する在庫を探すことになる。そこに偽造品を扱う業者のつけ入る隙(すき)が生まれる。
発注から納品に「2年」
どんな偽造品が出回っているのか。半導体製造装置・材料の業界団体SEMIによると、パソコンやスマホに搭載されているCPUやメモリーは、新製品へのモデルチェンジにより4年程度で廃棄されるケースがある。CPUやメモリーの正規品はメーカーが動作や性能を保証して出荷するが、そうした保証のない廃棄品も新品として偽装し、製品寿命が長い産業機器や医療機器メーカー向けに不正に販売するケースがあるという。
また、半導体商社コアスタッフ(東京・豊島区)の戸沢正紀社長によると、高温対応など使用環境の厳しい産業機器向けの半導体が入手できない場合、入手しやすい民生機器向け製品が偽装されて出回ることがあるという。「通常なら半導体のリードタイム(発注から納品までの期間)は3~4カ月だが、現在はひどいケースでは2年という商品もある。そうした入手が難しい製品ほど、偽造品が出回るリスクが高い」(戸沢社長)。
主な偽造品のタイプは表の通りだ。ただし、現状では偽造品を搭載した製品が不具合や事故を起こすような事例はあまり公にはなっていない。高い性能が要求される最終製品でなければ、偽造品でも問題なく動くケースが多いとみられる。また、一度偽造品であることが発覚すれば、取扱業者の信用問題にも発展するため、流通段階で取扱業者が偽造品の流入を防いでいるケースもある。
業界で追跡の仕組み検討
コアスタッフでは、正規代理店か2次代理店か、不良解析が可能か否か、自社在庫を保有しているか否か、などに応じて仕入れ先をランク分けし、対応を変えているという。特に、過去に取引実績がなく、在庫も持たないブローカーのような仕入れ先は最低ランクで、最初から偽造品のリスクを疑って対応する。戸沢社長は「あらかじめ代金も後払いにし、偽造品と分かった場合は返品して、今後も取引をしない」という。
偽造品そのものを減らす動きも進んでいる。SEMIでは18年、北米で半導体のトレーサビリティー(追跡可能な状態)の仕組みづくりや検品手法などを検討するタスクフォースが結成され、日本でも19年にタスクフォースが作られた。コアスタッフでも偽造品か否かを見極める真贋(しんがん)検査のサービスを行っており、仕入れの段階で検査を行い、偽造品の流入を防いでいる。
半導体はいまや安全保障や人命をも大きく左右する重要製品。それが偽造品によって担われていれば、信用が根幹から揺らぐ。偽造品を排除する仕組みの一刻も早い構築が求められている。
(編集部)