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2022年大学入試:コロナ禍も衰えぬ進学意欲 世界の「名門」に強い学校は? 全国81進学校海外名門大合格実績
コロナ禍でもグローバル化は後退しなかった。学校現場ではオンラインを活用した国際的な学びが広がり、留学も徐々に再開。高校卒業後に直接、海外へ飛び立つケースも増えている。海外大に強い学校はどこか、探ってみた。
学校教育のグローバル化が進んでいる。今は全大学の約16%にあたる130を超える大学が〝国際〟や〝グローバル〟と名のつく学部を持つようになった。国際系学部の新設は続いており、2023年4月には東北学院大・国際や日本女子大・国際文化の新設が予定される。全ての授業を英語で実施する学部や、在学中に1年間の海外留学を必須とする学部も増加。オンラインを活用した国際交流プログラムや、キャンパスで外国人学生と交流する「学内留学」に力を入れる大学も多い。
コロナ禍でもグローバルな経験や学びに対する学生の意欲は高かった。ある首都圏の大学の留学担当者が「感染リスクを心配する気持ちよりも、海外で学びたい気持ちの方が強い学生も少なくなかった」と言うほどだ。足元では渡航規制の緩和が進み、留学は少しずつ再開。将来、海外で学ぶことを目指す受験生にとっては朗報だ。
大学だけでなく中学、高校にもグローバル教育へ力を入れる学校は多い。世界共通の教育プログラムで学び、国際的な大学入学資格を得られるIB(国際バカロレア)校は、国内で設置が進む。札幌開成中教(北海道)、国際(東京)、虎姫(滋賀)など、公立のIB校も増加傾向にある。また、文化学園大杉並(東京)など、日本と海外の高校、両方の卒業資格を得られるダブルディプロマ制を選択可能な学校も出てきている。こうした学校では当然、海外大進学も選択肢の一つとなる。日本と海外の大学が同列に比較されることが増えそうだ。
そこで注目したいのが世界の大学ランキング。英教育専門誌タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)が発表した22年版のランキングだ。トップは前年と変わらずオックスフォード大。2位には、前年の4位から上がったカリフォルニア工科大と、3位から上がったハーバード大が並ぶ。トップ10は全て英国と米国の大学だ。
アジアの大学はどうか。トップは16位で並ぶ中国の北京大と清華大。次いでシンガポール国立大、香港大、東大の順だった。日本の大学でトップ100入りは、35位の東大と61位の京大のみ。教育ジャーナリストの小林哲夫さんは日本の大学の立ち位置をこう見る。
「東大は前年から一つ順位を上げましたが、東大、京大以外の研究大学がトップ100にいないことに危機感を抱くべきです。大学への交付金を減らし、研究者が育たず、論文数も少ないのが、順位が上がらない要因。対して、他のアジアの大学はこれからも順位を伸ばしていくでしょう。自由に研究できる環境を整え、研究力を底上げしていくしかありません」
近年、一般的な高校からも海外大へ直接進学する人が増えている。多くの高校が長期休暇を活用した留学や海外研修の機会を設けるほか、校内にネーティブ教員や帰国生徒がいるのが当たり前になったことが大きい。生徒が海外大に目を向けるようになるのは自然な流れと言えよう。
では、海外大に強い学校はどこなのだろう。「全国81進学校 海外名門大合格実績」は本誌と大学通信が全国の高校にアンケートを行い、海外の名門大と日本の東大、京大、早稲田大、慶應義塾大の合格状況を一覧にまとめたものだ。
海外大合格者数トップは前年と同じく広尾学園(東京)で、合格者数は180人。その後は、89人の茗溪学園(茨城)▽73人の国際(東京)▽72人の立命館宇治(京都)▽62人のN(沖縄)▽54人の三田国際学園(東京)―と続く。
首都圏以外で際立つ「国際バカロレア」校
この中でトップの広尾学園は、ハーバード大、カリフォルニア大バークレー校、エール大、コロンビア大、ペンシルベニア大と世界大学ランキングの上位校に多数合格。2位の茗溪学園はインペリアル・カレッジ・ロンドン、4位の立命館宇治はカリフォルニア工科大、インペリアル・カレッジ・ロンドン、ジョンズ・ホプキンズ大に合格している。広尾学園インターナショナルコースの植松久恵統括長は、海外のトップ大学を目指す生徒の様子をこう話す。
「海外大受験では日本の一般入試と異なり『何のために学ぶか』『将来何をしたいか』のアピールが重要です。世界の上位大学に合格する生徒は、ボランティアやインターンシップ、起業、講演会の企画など、学外での課外活動に積極的に取り組んでおり、社会での経験値が高いです。日本で育った生徒でも、中学の3年間で英語力の土台を作り、高校は帰国生と同じクラスで主要科目を英語で学び、海外大へ進学しています」
広尾学園は、海外大の見学ツアーや、約200校の海外大から話を聞けるカレッジフェアを実施するなど、制度面でも海外大進学を後押し。合格者増につなげている。
海外大合格者数の上位校以外にも、海外トップ大へ合格する学校はある。今春、世界大学ランキング上位15校のいずれかに合格者を輩出したのは、ぐんま国際(群馬)、白鷗、日比谷、海城、開成、渋谷教育学園渋谷(東京)、聖光学院(神奈川)、AICJ(広島)、リンデンホール(福岡)。東大合格者の多い首都圏の学校が目立つ結果となっている。首都圏以外の学校は、全てIB認定校だ。
アンケートでは海外大への合格実績を聞くとともに、海外大進学に関する調査も行った。集計結果は以下の通りだ。
「生徒に最初に相談を受ける時期は」の問いへの回答は、高1以前=36%▽高2前半(9月まで)=19%▽高2後半(10月以降)=19%▽高3=26%―。半数以上が高2前半までに相談を受けており、生徒が早い時期から海外大進学を考え始める様子がうかがえる。
「海外進学の相談に対応するのは」の質問では、トップの「担任」が頭一つ抜けており、「専門部署」「英語の先生」「進路指導」と続く。また「海外進学情報の入手先は」では、「民間の情報サービス」がトップで、次いで「他の教職員」「公的機関」「インターネット」の順となった。
「今後、海外大学に進学する生徒は」への回答は、今より増える=53%▽今と変わらない=24%▽分からない=22%▽今より減る=1%―。今後も海外大進学は拡大していきそうだ。
とはいえ、海外大進学は費用面の負担が大きい。世界的なインフレと円安の影響もあり、学費と生活費の合計は年間800万円以上に及ぶことも。入試の合否に加え、奨学金がいくら受給できるのかも、海外大進学を実現するための重要な要素となる。広尾学園の植松さんは「大学側とは奨学金の増額交渉も行います。人気やレベルの高い大学に合格していることが他大学との交渉材料となるので、戦略的に多数の大学へ出願することもあります。評価のポイントは大学ごとに異なるので、ノウハウの蓄積も大切です」と言う。
前出の小林さんは「企業財団による奨学金制度も少しずつ増えています。ただ依然として費用面のハードルは高く、都会の上位層の多くが海外大を目指すようになることは考えにくい。一方で、留学やネットを活用した英語の自学自習が当たり前にできる時代となったことで、地方の飛び抜けて優秀な生徒が、東大や京大ではなく海外のトップ大学を選ぶケースは今後も出てくるでしょう」と話す。
さまざまな困難を乗り越える必要はあるが、海外大進学の地域格差は確実に縮まっている。今や地方の高校から、ハーバード大やスタンフォード大へ進学することも夢ではない。