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「名物政治記者」の大型企画に小松左京や手塚治虫がエール 1984(昭和59)年・日本にピラミッド!?

キャンペーン第1回の1984年7月1日号の表紙
キャンペーン第1回の1984年7月1日号の表紙

特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/25

「日本に世界最大・最古のピラミッドがあった!?」―38年前、そんな奇天烈な見出しが誌面に躍った。正統派の学者らによる白眼をよそに取材班は全国の遺跡、遺構を探索、9カ月に及ぶキャンペーンを張った。賛否両論を沸騰させた〝超古代文明の謎〟を振り返る。

 岩見隆夫、岸井成格の両氏といえばともに『毎日新聞』が生んだ屈指の政治ジャーナリストだ。今は鬼籍に入った2人が本誌『サンデー毎日』時代、岩見編集長―岸井取材班キャップとして手がけた大型企画がある。そう書くとよほどの政治スキャンダルと思われるだろうか。ところが……。

〈この町の盆地にある「皆神山(みなかみやま)」が、人工的につくられたピラミッドである、というのだ。しかもエジプト・ギザのクフ王を上回る世界最大のピラミッドという〉

 本誌1984(昭和59)年7月1日号、記事冒頭のくだりである。取材班が挑んだのは、知られざる「超古代文明」の発掘だった。

 独自の『古事記』解釈に基づき日本各地に古代人が造った「ピラミッド」があるとする在野の研究グループの説を足掛かりに、取材班が最初に向かったのが、長野県松代町(現長野市)の皆神山だ。標高659㍍、周囲の山並みから独立し、丼を伏せたような台形のシルエットは確かに〝異形〟だ。

 山中の小丸山古墳は蘇我入鹿が天皇にしようとした古人大兄皇子(ふるひとのおおえのおうじ)の墓ともいわれるほか、戦争末期には大本営の避難先(松代大本営)候補地の一つとして地下壕が掘られた。また、65~67年に騒がれた松代群発地震の震源地の中心に位置し、地震に伴う発光現象が世界で初めて撮影されたことで知られる。ミステリー要素満載の山なのだ。

〈岩肌は、ごく一部の斜面を除くと岩石と土砂の入りまじった奇妙な構成をしているのだ。「これは、古代人のコンクリートじゃないだろうか」と、わたしたちの一人は(中略)岩肌に触れながら言った〉(同号)

 宝探しにも似た興奮が、筆遣いから伝わってくる。

キャンペーン第1回の本誌記事。松本零士さんのイラストが誌面を彩った
キャンペーン第1回の本誌記事。松本零士さんのイラストが誌面を彩った

 大和三山の「ピタゴラスの定理」

 日本には元々「ピラミッド伝説」を持つ山があちこちにある。戦前に「日ユ同祖論」を唱えた酒井勝軍は34年、広島県庄原市の葦嶽山をピラミッドと断定し、耳目を集めた。取材班は同山を改めて探索。巨石群の存在に着目し、「葦嶽山は超古代の天文台だった」とする仮説を立てている。

 好奇心の触手は古代史の表舞台、飛鳥にも伸びた。奈良県橿原市の畝傍山、天香具山、耳成山の「大和三山」は正確な二等辺三角形を成すが、このうち天香具山、耳成山を「人造」だとする研究者の推理を検証。〈耳成山と天香久山の中点と、畝傍山および耳成山または天香久山とがつくる直角三角形(の3辺)は、5:12:13(の整数比)である〉(9月16日号)と、古代人が「ピタゴラスの定理」を使った測量技術にたけていた可能性を挙げている。

 キャンペーンは読者の大反響を呼んだが、考古学、歴史学の専門家には「非常識でコメントに値しない」などと冷たく扱われた。しかし、本誌には強い味方がいた。『日本沈没』で知られる作家の小松左京氏は現地調査にも参加して全面支援。毎号のイラストは漫画家の松本零士氏が描いた。そして巨匠・手塚治虫氏が「顧問団」に加わり、〈地球全体が遺跡の墓場で、発見されているものの何十倍、何百倍もの遺跡が埋もれている。それを思えば古代史も、もっと自由に考えていい〉(7月1日号)と励ましのメッセージを寄せた。

 38回の連載を通じ、取材班はなお〝謎の山〟の裾野にあった。最終回、岸井キャップは古代史ロマンに引かれる人々の心情をこう読み解いている。〈科学文明がもたらした危機感、核の問題、それから地球破壊の問題ですね。(中略)人類、文明の滅亡に向かって、転げ落ちていってるんじゃないかという恐怖感が本能的にある〉(85年3月24日号)

 当時からすれば〝未来人〟である私たちこそ、ではあろう。

(ライター・堀和世)

ほり・かずよ

 1964年、鳥取県生まれ。編集者、ライター。1989年、毎日新聞社入社。ほぼ一貫して『サンデー毎日』の取材、編集に携わる。同誌編集次長を経て2020年に退職してフリー。著書に『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)、『小ぐま物語』(Kindle版)など

「サンデー毎日7月17・24日合併号」表紙
「サンデー毎日7月17・24日合併号」表紙

 7月5日発売の「サンデー毎日7月17・24日合併号」には、ほかにも「参院選後はこうなる!『黄金の3年間』はない! 消費税増税で岸田は自滅 次は林芳正、河野太郎か」「来年も続く狂乱物価を生き抜く指南術!」「三谷幸喜が描く黒幕は誰だ もっと面白くなる鎌倉殿の13人」などの記事も掲載しています。

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