資源・エネルギー鎌田浩毅の役に立つ地学

耐震化と防災意識の向上だけで被害想定は減らせるのか

1995年1月の阪神・淡路大震災で被災した神戸市東灘区 筆者撮影
1995年1月の阪神・淡路大震災で被災した神戸市東灘区 筆者撮影

南海トラフ巨大地震の想定はケタ桁違い/110

 大地震が起きた後の復旧作業では大量の災害廃棄物が出る。環境省の作業チームは今年3月、近い将来に発生が想定される南海トラフ巨大地震で、2011年の東日本大震災の11倍に当たる廃棄物が発生すると試算した。地震直後に襲ってくる津波との相乗作用のため、全国で総量約2億2000万トンの災害廃棄物が発生するとし、東日本大震災で出た2000万トンより1ケタ大きい。

 さらに、作業チームは3年で災害廃棄物の処理を済ませる試算も行い、船舶25隻および10トントラック5300台が必要になるとした。震災後の大混乱の中でこれだけの数を調達するのは容易ではない。なお、20年度には廃棄物の総量を2億4700万トンと試算していたが、建築物の耐震化が進んだことなどを反映して、今回は11%少ない数字を出した。

 南海トラフ巨大地震による全体の被害想定は、12年に国の中央防災会議から出されており、犠牲者の総数32万人超、全壊する建物238万棟超、津波で浸水する面積は1000平方キロメートルに及ぶ。また、経済被害は220兆円を超えるとしたが、これが政府の1年間の租税収入の3倍を超える額に相当し、東日本大震災の被害総額(約20兆円)より1ケタ大きいことはあまり知られていない。

 その後、国は津波や地震に対する意識が向上したことなどを主な理由として、19年5月に犠牲者総数を3割減らして約23万人に、全壊または焼失する建物は1割減って約209万棟と被害想定を改めた。ただ、筆者が実際に現場で調査すると、被害想定が減るとはとても思えない。被害想定があまりにも大きいため、人々の思考が停止しており、具体的な対策に結び付いていないのではないかと危惧している。

老朽化するインフラ

 もう一つ深刻な課題が進行中である。時間の経過とともに各地のインフラが老朽化し、以前なら地震に耐えた建築物でも損傷する恐れが出ている。例えば、21年10月に東京都と埼玉県で震度5強をもたらした直下型地震では、同じ場所で発生した前回05年には生じなかった水道管の破裂などのトラブルが多発した。前回の地震から10年以上が経過し、インフラの老朽化が確実に進んだことで、被害が増大したと考えられる。

 1995年の阪神・淡路大震災では、建築基準法の耐震基準が強化された81年以前の建築物に甚大な被害が広がった。その後、震度5強程度の中規模の地震に対してほとんど損傷を生じないことを目安に耐震基準が改定されたが、30年近く経過した現在でもこの基準を満たさない不適格建物が多く残っている。

 マグニチュード(M)9.1が想定される南海トラフ巨大地震により、震度7を被る地域は静岡県から宮崎県までの10県にわたる。発生時期が2035±5年と予想される南海トラフ巨大地震まで、まだ10年ほどの時間がある(本連載の第12回を参照)。準備を進める意味ではプラスだが、同時に生活基盤の老朽化も着実に進む。東日本大震災より1ケタ多い廃棄物が発生することを前提に、早急に耐震化を進めることが必要だ。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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