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経済・企業 鉄道150年 復活の条件

インタビュー 深沢祐二JR東日本社長 地方の交通を考えることは街づくりを考えること

 開業150年を迎えた日本の鉄道は今後どうあるべきか。日本初の鉄道が走った新橋─横浜間の東海道線を路線に持つJR東日本の深沢祐二社長に聞いた。

(聞き手=村田晋一郎・編集部)

「将来の街づくりを見据え地域の交通インフラを担う」

── コロナ禍になって2年過ぎたが、足元の状況は。

■今年3月にまん延防止等重点措置が解除されてから、4月、5月、6月と徐々に鉄道の利用者は回復してきた。今年の夏は3年ぶりに夏祭りを開催する地域も多く、鉄道需要が盛り上がると期待していたが、7月に入ってコロナの第7波により一部でキャンセルが出始めた。一方で政府も経済の回復を念頭に行動制限はしていないので、需要はアップダウンを繰り返しながら、元に戻っていく傾向は変わらないと考える。来年春に需要がコロナ前の9割まで戻る前提で、今年の計画をつくっている。(鉄道150年 復活の条件 ≪特集はこちら)

── 不採算路線の現状は。

■国鉄が分割・民営化された35年前は、輸送密度(旅客営業キロ1キロメートル当たりの1日平均旅客輸送人員)4000人未満が地方交通線の基準で、全体の線区数の約3割だった。それがコロナ前に4割まで増え、コロナ禍で5割を超えている。ただし、地方のローカル線区は観光路線が減った影響はあるが、実は都会ほどコロナの影響を受けていない。むしろ地方では人口減少の加速が大きな要因となっている。ただし、将来に向けて人口が増える要素はない。そうなると果たして鉄道が移動手段として適しているのかが問われる。

── 今後、地域の鉄道はどうなるのか。

■鉄道は大量輸送に最も適して、かつ環境にもやさしい移動手段だ。しかし利用者が減った地域では、1日に数本しか運行されておらず、ますます不便になり、地域交通の役割を果たしているとはいえない。

 地方の人々には鉄道への郷愁があり、路線維持を要望する声があることはありがたい。しかし、実際に住民の移動はマイカーが中心で鉄道の利用は少ない。自動車を運転している人が高齢になって運転できなくなった時、他の交通手段がなければ、移動できなくなる人が増えて、その地域も廃れる。

 将来の地域交通をどうするのか、その地域を活性化するために当社に何ができるのかを、国や自治体と議論していきたい。その議論の第一歩として、当社でも不採算路線の情報開示を行った。

── 2011年の新潟・福島豪雨で被災した只見(ただみ)線会津川口─只見間(福島県)は福島県が支援して10月に復旧する。線路と鉄道で運営主体を分ける「上下分離」をどう考えているか。

■現在の「下(線路)」も「上(列車の運行)」も両方持つ運営手法は、技術革新を取り入れたり、安全性を高めたり、効率化を進めていくうえでは非常に優れている。ただし、利用者が少なくなると、線路の保守のコストが重くなってくる。そこで上下分離してコスト負担から解放することも選択肢の一つになる。しかし、上下分離は絶対ではない。例えば、国道が鉄道と並行して走っていれば、バスに転換するほうが合理的で、かつ乗車時間や乗車場所が自由なオンデマンドバスならばさらに利便性は高まる。また、東日本大震災の後に三陸地方で導入したBRT(バス高速輸送システム)も一つの選択肢になる。

 地方の交通を考える場合は、街づくりを考えることから始めなければならない。街づくりを考える過程で、交通手段は鉄道がよいのか、バスがよいのか、他の手段がよいのかを議論していかなければ、街づくりはうまくいかない。上下分離はあくまで一つのモデルケースだが、地域をいかに活性化していくかを考えていきたい。当社がカバーするエリアには、バスやBRTなどいろいろな選択肢が一通りそろっている。仮にバスやBRTに転換したとしても、その地域交通にはしっかり責任を持っていく。

 また、地域が街づくりをしていく上で、観光や新しい産業と結びつけることも重要になってくる。例えば、只見線の復旧は地域の足というよりは観光目的の利用が想定されている。沿線は景色が良いので、アピール力はある。そこで鉄道を地域の観光にどう位置付けるかが重要になる。地域のインフラをつかさどる企業として、地域産業との結びつきにも積極的に関与していくことが当社の使命だ。

地域を考える出発点

── 国鉄分割・民営化から35年たったが、現在のJRの体制をどう考えているか。

■「民営化」は、スピーディーな判断でサービスを向上していくことが目的だったが、もう一つの「分割」にも非常に大きな意味があった。鉄道は地面に線路が敷かれ、地域と密接につながっている。しかし、鉄道会社が大きくなるほど、地域の視点は持ちにくくなる。その意味では、分割によって成功したのがJR九州だろう。

 一方でいま、JR北海道とJR四国は経営的に厳しいが、地域をどう生かすかという観点では、非常に意味のある企業といえる。地域経済をどう発展させるかを考える時に鉄道会社がそれぞれのエリアにある意味は大きい。例えば、北海道のことは札幌で考えないとできないことがあると思う。分割・民営化は、われわれが地域にどんな貢献ができるかを考える出発点になっている。

── 秋に開業150年を迎える。

■この夏にどのくらい旅行需要が戻るか分からないが、できるだけのことをして、秋の開業150年を迎えたいと思っている。既にいろいろなイベントの開催や記念商品の発売をしているが、手ごたえは非常に良い。

 鉄道は150年間、経済のインフラを支えてきたという自負がある。現在、高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)の駅前開発を進めているが、その工事でまさに150年前に日本で初めて鉄道が走った築堤が発掘された。過去の歴史と未来の象徴として高輪の築堤があると思っている。これからも重要なインフラを担う事業者として、社会に貢献していきたい。


 ■人物略歴

ふかさわ・ゆうじ

 1954年生まれ。東京大学法学部卒業。78年日本国有鉄道(国鉄)に入社。2006年東日本旅客鉄道(JR東日本)取締役、12年副社長を経て18年から現職。

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