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2023年大学入試:全国624進学校アンケート 進路指導教諭が「推す」オススメ大学ランキング 「コロナ対応」は千葉工業、「就職に力」は明治、「教育力」は東大…
生徒の志望校選びのためにさまざまな情報を入手している、進学校の進路指導教諭のアドバイスは、大学選びに大いに役立つ。実際にどんな大学が注目されているのか、多様な視点から進路指導教諭オススメの大学を見ていこう。
2025年度(25年4月入学)からの新課程入試を前に、国公立大と私立大ともに大きな入試改革の動きは見られない。大学入学共通テストは3年目を迎え、過去問がそろった。コロナ禍の入試も事実上3年目となり、大学と高校ともに知見が積み上がったことから、感染予防をしっかりと行った上で、以前ほど気にせず受験に臨むことができそうだ。
高校の進路指導の現場も、23年度入試は大きな変化がないと見ているようだ。本誌と大学通信は、全国の進学校2000校にアンケートを行い、624校から回答を得た。アンケートでは、23年度入試の動向について聞いている。その集計によると、国公立大の志願者は、「今年とあまり変わらない」が45・5%で最も多く、「前期の人気が少しアップする」が26・0%で続いた。私立大一般選抜の志願者についても、「今年と変わらない」が51・4%と最多で、次位が「今年より少し増える」で27・2%だった。
私立大は、21年度入試で志願者が前年比マイナス14%と史上最大の減少幅となった。22年度入試でも回復することはなく、志願者数は底を打ったまま。23年度入試で、志願者がV字回復して難化ということはなさそうだ。
受験生にとって歓迎すべき入試環境であり、少しでも理想に近い大学選びをしたい。そのための一つの指標として活用したいのが、各種の大学ランキングであり、大学選びに精通した進学校の進路指導教諭によるものなら心強い。
そこで、前出のアンケートの各項目を集計して、大学選びに役立つランキングを作成した。アンケートでは、各項目別に進路指導教諭がオススメの大学を5校連記で記入してもらい、最初の大学を5ポイント、次を4ポイント……として計算して集計した。
まず、「コロナ対応が上手だったと思われる大学」を見ると、トップは千葉工業大だった。同大は、コロナ禍で経済状況が困窮する家庭が増えることを見越して、21年度と22年度の共通テスト利用入試を無償化した。この点を評価する高校教諭は多く、「共通テスト利用入試の受験料無料化は革命的だった」(東京・私立校)、「受験費用の軽減、オンラインの対応の早さと対面講義への復帰の滑らかさ」(東京・私立校)などが評価されている。
2位の早稲田大に対しては、「オンライン授業への切り替え、学生への情報提供」(北海道・私立校)、「情報発信が早い。ICT技術が高い」(埼玉・私立校)など、オンライン授業に対する評価が高い。3位の立教大や4位の東北大などは、コロナ禍での授業体制や学生支援対策を迅速に発信した点が評価されている。
「面倒見の良さ」首位 18年連続で金沢工大
「面倒見が良い大学」のトップは、18年連続の金沢工業大だった。企画部広報課長の山川亮太郎氏は言う。
「24時間、365日稼働している自習室や、自由なものづくりが行える夢考房などを整備。さらに、企業と連携した就労体験型学修のコーオプ教育(Cooperative Education.)や、テーマに沿ってグループで学習、議論を重ねて発表するプロジェクトデザイン教育などのプログラムを用意しています。学生が育つ場とプログラムにより成長する卒業生を見ている高校教諭から、面倒見が良い大学と評価されているのではないでしょうか」
2位は東北大で3位は武蔵大、4位は明治大、5位タイには国際教養大と福岡工業大が並んだ。武蔵大について進路指導教諭は、「徹底した少人数教育で、教員と学生同士の距離感が近い」(東京・公立校)、「ゼミ形式を中心とし、教授陣との接点が多い」(東京・私立校)などと評価している。
「就職に力を入れている大学」は、明治大が13年連続でトップを続けている。進路指導教諭からは、「就職に対するさまざまな取り組みがあり、学生に対するサポートが厚い」(北海道・私立校)、「一流企業への就職に強い」(長野・公立校)などの評価が寄せられている。
ランキング上位には一流企業の就職に強い大学が多く、日経225採用銘柄企業や大学生の人気企業など、有名企業を対象として集計した実就職率(就職者数÷〈卒業生数-大学院進学者数〉×100)を見ると、明治大は22・7%で卒業生の5人に1人が有名企業に就職。ランキング3位の九州工業大(36・8%)や5位の早稲田大(31・5%)、8位の慶應義塾大(39・3%)なども有名企業の実就職率が高い。
全企業を対象とした卒業生1000人以上の大学の実就職率ランキングで見ると、今春卒も6年連続で首位だった金沢工業大(97・7%)が「就職に力を入れている大学」で2位、12年連続で女子大の実就職率ランクトップの昭和女子大(94・5%)は6位、国公立大の実就職率ランクで14年連続のトップに立った福井大(96・7%)は9位だった。
地域別に見ると、北海道・東北は金沢工業大、関東・甲信越は明治大、北陸・東海が金沢工業大、近畿が大阪工業大、中国・四国と九州・沖縄は九州工業大がそれぞれトップになっている。
「教育力が高い大学」のトップは、16年連続で東大だ。教育ジャーナリストの小林哲夫氏はこう語る。
「東大は専門教育に入る前の1、2年次のリベラルアーツ教育において、さまざまな分野の学問を深く学ぶことができる。アカデミックな点が、多くの進路指導教諭から評価されているのでしょう」
2位が東北大で3位は京大と、旧七帝大がトップ3を独占。ベスト10に広げると、大阪大(7位)、北海道大(9位)、九州大(10位)もランクイン。私立大は5位に東京理科大、6位に早稲田大、8位に国際基督教大が入った。
地域別では、東大が関東・甲信越、北陸・東海、中国・四国でトップと、広い地域で強さを見せる。その他の地域は北海道・東北が東北大、近畿が京大、九州・沖縄が九州大と地域内の旧七帝大がトップになっている。
「グローバル教育に力を入れている大学」。1位の国際教養大は、入学時から全ての授業が英語で、1年次は留学生とともに全員が寮生活。さらに長期海外留学が必須など、徹底したグローバル環境で鍛えられる。
国際教養大に加え、国際基督教大(2位)、立命館アジア太平洋大(3位)、上智大(4位)、早稲田大(5位)の上位5大学は、日本の高等教育のグローバル化を目指し「グローバル5大学連携協定」を締結。ベスト10の大学のうち、前出の5大学に加え、東大(6位)、東京外国語大(7位)、立教大(8位)、東北大(9位)まで、日本のグローバル化を牽引(けんいん)する大学として文部科学省が指定するスーパーグローバル大学であり、高校教諭の高い評価を得ている。
政治経済の入試改革に高評価続く早稲田
「改革力が高い大学」で1位の早稲田大と2位の東北大は入試改革を積極的に行っているという共通点がある。早稲田大は21年度の一般選抜から、政治経済で共通テストの数Ⅰを必須とし、共通テストと学部独自試験を組み合わせた入試を導入するなど、同年から始まった大学入試改革の理念である、思考力・判断力を問う方向に舵(かじ)を切った。東北大は、国立大全体が総合型選抜と学校推薦型選抜による入学者3割を目指す中、既に総合型選抜で募集定員の3割を選抜している。こうした取り組みが、進路指導教諭に評価されたようだ。
3位以下は、近畿大、東大、立命館大、東洋大の順となった。前出の小林氏は言う。「近畿大や立命館大、東洋大は、学部新設やキャンパスの再開発及び移転など、毎年のように何かしらの改革を行っており、教員もそのイメージを強く持っているのでしょう。15位の奈良女子大は、22年に工学部を新設したインパクトが強いのだと思います」
「小規模だが評価できる大学」は、トップの国際教養大以下、2位の武蔵大と3位の国際基督教大まで昨年と同じ順位。4位は情報化社会の進展に伴い注目が集まるコンピュータ理工学部を有する会津大。5位には産業能率大が入った。入試企画部長の林巧樹氏は言う。
「コロナ禍真っただ中の20年秋からゼミを対面で再開しました。これができたのは、自宅に戻らなくても、ゼミの前後の授業をオンライン履修できる教室を用意したからです。学生一人ひとりの履修状況を確認し、十分な距離が取れる人数を把握して教室を手配しました。他大学がキャンパスを閉めている中で、学生と向き合う支援ができるのは小規模大学の利点であり、21年度は、最初から85%の授業を対面で行いました」
「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」の1位は東北大。同大は、面倒見や教育力、改革力も2位と評価が高い。
「伸び悩んでいる学生はもちろん、できる学生がさらに伸びるシステムや総合型選抜への力の入れ具合など、高大接続を通じて、地域の学校がしっかりと見ていることから、評価が高いのでしょう」(前出の小林氏)
ランキングの2位は東大で、以下は金沢工業大、東京理科大、京大の順で続く。
「家から通える」より「就職に有利」を重視
「生徒に人気がある大学」。1位は前年の2位から上がった早稲田大。以下、明治大、立教大、青山学院大、慶應義塾大の順で首都圏の私立総合大学が並ぶ。多様な学部があることから、多くの生徒に注目されやすい。さらに、通いやすい都心に立地していることも生徒から支持される大きな要因になっている。
6位以下は、順番に東大、東北大、京大、大阪大と難関国立総合大学がランクイン。ランキング上位大学の中で私立と国立の難関大がくっきりと分かれた。主に3教科で受験可能な私立大に対し、共通テストで5教科7科目必要な上、2次試験のハードルも高いことが、私立と国立を分かつ壁となっているようだ。
「偏差値や地理的条件、親の資力などの制約がない場合、生徒に勧めたい大学」は、国公立大と私立大に分けて比較した。
国公立大トップは8年連続の東大で、2位の京大を大きく引き離している。東大と京大以外にも、東北大(3位)、大阪大(4位)、北海道大(5位)と、旧七帝大が上位を占める中、名古屋大(8位)と九州大(11位)の順位がやや低いのは、他の旧帝大に比べるとローカル色が強いことから、地元以外のポイントが入りにくいことにありそうだ。地域別に見ると、関東・甲信越では東大、近畿では京大がトップだった。
私立大も早稲田大が2位の慶應義塾大を離してトップ。それでも、この2大学のポイントは高く、3位以下を大きく引き離している。3位に東京理科大、4位は上智大、5位は国際基督教大が入った。地域別では関東・甲信越は早稲田大、近畿は地元の同志社大がトップになっている。
ここからはランキングを離れて、受験生の意識に関する調査を示したグラフを見ていこう。「生徒に人気のある大学」では、「自分のしたい勉強ができる」が77・6%で12年連続トップ。次いで「知名度が高い大学」57・7%、「社会的評価・イメージが良い大学」56・3%の順。昨年、コロナ禍の影響もあり、前年を上回る57・1%で4番目に高かった「家から通える大学」は、46・8%に下がり、コロナ禍の影響の薄まりを感じさせる結果となった。
次の「受験生に受け入れられる改革」のトップは、前年のトップ項目である「キャリア教育など就職支援」を抜いた「学校推薦型選抜・総合型選抜の充実」で43・1%。コロナ禍で年内に合格を決めたい、さらに、探究学習に力を入れる新学習指導要領による学びが22年の高校入学者から始まっていることも背景にありそうだ。2番目は「キャリア教育など就職支援」で41・7%。3番目は「今、人気の学部・学科の新設」で41・2%、4番目は「資格取得支援」で32・9%だった。
最後は、「来年入試で人気になりそうな学部」について。トップの情報系は63・8%で前年を7・4ポイント上回っており、AIを活用したデータサイエンスなど、情報技術への注目度がさらに高まっているようだ。看護は42・9%で、医療技術系は32・4%。31・7%の工学系は経済系と入れ替わって4番目に高い系統となり、経済状況が不安定な中、就職に有利な資格が取れる医療系や工学系の人気が高まっていることが分かる。
受験環境に大きな変化が見られない23年度入試は、余計な雑音が少なく自分の行きたい大学選びをしやすい状況にある。進路指導教諭という受験のエキスパートの評価を参考にして、入学後に後悔しない大学・学部選びを心掛けてほしい。