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樹木希林が〝封印〟を解いた「生まれ変わったら」の裏側 1985(昭和60)年・郷ひろみ、松田聖子「破局」

2人の対談を掲載した本誌1985年6月16日号。記事で郷は「負けてみてはじめて(中略)いろんなことがわかってくる」と締めくくっている
2人の対談を掲載した本誌1985年6月16日号。記事で郷は「負けてみてはじめて(中略)いろんなことがわかってくる」と締めくくっている

特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/33

「生まれ変わったら一緒になろうね……」という名ぜりふで松田聖子が郷ひろみとの決別を宣言したのは1985(昭和60)年1月。芸能界の歴史に残る聖子の〝涙の記者会見〟から4カ月、封印してきた本音を郷がズバリとさらしたのは『サンデー毎日』誌上だった。

「悠木さんこんにちは」が第一声だった。本誌『サンデー毎日』85年6月16日号に当時29歳の郷ひろみと、女優・樹木希林の対談記事が載っている。「悠木千帆」は樹木の旧芸名だ。70年代のコメディードラマ「ムー」で初共演し、「林檎殺人事件」などのデュエット曲がある二人の厚いよしみがうかがえる一言だ。

 一方の樹木も「疲れたでしょう」といたわるように郷を迎えた。対談(5月下旬)の4カ月前、交際中だった松田聖子(当時22歳)が郷との破局を宣言し、一大芸能事件となっていたからだ。とはいうものの、気遣いもそこそこに樹木は核心に切り込んだ。

〈樹木 ねぇ、なんであの事件が終わった時、何ンにもしゃべらなかったの?

 郷 ここだけの話ですけど……要するにドジ、な話なんですよ。(プッと噴き出して)フラレるまで気がつかないんだから……。彼女が〝別れる〟という記者会見するまでネ〉

 聖子の会見は1月23日に行われた。「もし今度、生まれ変わってきた時は、絶対に、一緒になろうねって、言ったんですけど……」

 涙声で語尾を震わせながら一つずつ言葉を拾うシーンは、ある世代にとっての共通記憶だろう。しかし、郷は樹木に聖子の「発言」をきっぱりと否定する。

〈僕はああいうことは聞いてないんですよ、悠木さん。だって……そんなこと、考えて下さいよ。もし彼女がそう言ってたとしてですよ、僕が「わかった」なんて言えるわけないじゃないですか、いくら何でも約束できないもの。(笑)〉

 聖子の涙は演技の小道具だったというのだ。一方、破局をスクープした当時の『週刊文春』によると、聖子は1月中旬、電話で別れ話をしたという。郷にとって決別宣言が寝耳に水だったかどうかはさておき、この〝食い違い〟自体が、彼らの関係を物語っている。

 84年秋、芸能マスコミはかねて交際を公言してきた二人の結婚の秒読みを始めた。報道合戦の中で「妻は家庭を守るべきだ」という郷の結婚観がネックとして取りざたされたりもした。その一部始終をテレビを通して同時体験してきただけに、視聴者としては「憎み合って別れるわけじゃない、愛し合って別れるんだから……」という、どこか意味不明な聖子の言葉にも素直にうなずいたのだった。

 ところが、涙の記者会見から間を置かず、聖子と神田正輝の交際が発覚。85年4月には二人の婚約が発表された(6月挙式)。

〈まさか女というのはそういうものじゃない、と思ってたでしょ。だから、なんか訳がわからなくなっちゃった〉と打ち明ける郷に樹木はこう返す。〈ハハハ、よくある話、ですよ。それがオンナ、なんでね〉

 「自虐」に漂った〝見え〟の上等さ

 対談記事の見出しは「コケにされた男の正しいコケ方」だ。無論、郷自身の言葉ではない。ただ、気持ちを吹っ切ろうとして樹木との対談に臨んだのは確かだろう。郷の言葉は驚くほど率直だ。〈いちばんいけなかったと悩んだり後悔したことは、彼女から「結婚して欲しい」とか、「ひろみさん好き」「愛してる」とかいわれて、そういうことに完全に溺れてしまっていた、という点なんで……。それまで、そんなこと経験なかったから……〉

 自分らしい〝コケ方〟を模索しているのだろうか、語ることのなかった心の内を明かす郷に、樹木は思わず「しゃべらせちゃって、ごめんね」と謝っている。〈人に見えを張ることはないのよ。ひろみさんは人にじゃなくて、自分に見えを張ってるから上等なのね〉

 対談を終えた樹木は「ひとり言」としてそう残している。

(ライター・堀和世)

ほり・かずよ

 1964年、鳥取県生まれ。編集者、ライター。1989年、毎日新聞社入社。ほぼ一貫して『サンデー毎日』の取材、編集に携わる。同誌編集次長を経て2020年に退職してフリー。著書に『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)、『小ぐま物語』(Kindle版)など

「サンデー毎日9月25日・10月2日合併号」表紙
「サンデー毎日9月25日・10月2日合併号」表紙

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