週刊エコノミスト Online サンデー毎日
2023年大学入試:コロナ禍で加速「年内入試」 広がる総合型や学校推薦型 全国247私立大推薦入試情報
総合型選抜や学校推薦型選抜が、一般選抜と並んで大学への進学ルートとなって久しい。近年はコロナ禍でさらに注目度が高まっている。これらの入試方式の現状について、私立大の学校推薦型選抜を中心に検証してみた。
完全にコロナ禍での実施となった2020年度入試(20年4月入学)以降、これまで以上に総合型選抜(総合型)や学校推薦型選抜(学校推薦型)といった、主に年内に合否が決まる入試方式が注目されるようになった。
年内入試で合格が決まる生徒がいると、学校全体で受験に臨もうという雰囲気が削(そ)がれるため、以前は受験を勧めない進学校が多かった。そうした学校は、難関大の指定校推薦枠があっても積極的に使わなかった。しかし、生徒本人や保護者の強い意向もあり、学校推薦型や指定校推薦を含めた「推薦」や総合型を利用するケースが増えている。駿台予備学校進学情報事業部長の石原賢一氏は言う。
「先行きが見えないコロナ禍で合格を早く決めたい受験生は多く、総合型や推薦の志願者が増えています。一方、大学も早く学生を確保したいので、前年を上回る合格者を出します。そのため、倍率は上がっていません。23年度入試でも、志願者と合格者ともに増えると見ています」
私立大の入学者の6割近くが総合型や推薦で選抜されている。国立大も増えており、2割以上の学生がいずれかの入試方式を経て入学している。代々木ゼミナール教育総合研究所主幹研究員の坂口幸世(ゆきとし)氏は、こう話す。
「大学によって年内入試は二つの意味があります。一般的な大学は主に学生数の確保、上位大学は学生の質の担保です。岡山大が総合型を導入するなど、国立大が徐々に増えているのは、総合力を見る一般選抜とは別に、光るものを持った逸材を入学させて学生の多様性を図り、学内を活性化する狙いがあるのでしょう」
岡山大は23年度入試で後期を廃止し、その枠を総合型に回す。これが成功すれば、中国や近畿地方でも先駆けて逸材を選抜しようという機運が高まり、年内入試が広がる可能性がある。
学生の多様性という面では、理系学部で女子を獲得しようという動きが見られる。名古屋大は23年度の推薦から、工学部の電気電子情報工とエネルギー理工の2学科で、両学科合わせた募集人員18人中、9人を女子枠として選抜する。同大は、「工学分野において、社会を構成する比率と大きな乖離(かいり)が見られる女性比率の是正を目指す」としている。私立大では、芝浦工業大が工学部のみで実施していた女子対象の推薦について、システム理工、デザイン工、建築といった全学部に拡大する。
16年度から全学部で学校推薦型を行っている東大は、1校あたりの男子と女子の出願枠を決めて募集している。これは優秀な女子を獲得したいからであり、今後も、女子を視野に入れた推薦や総合型を導入する大学が増えそうだ。
ここからは、私立大の推薦を中心に見ていこう。9月から出願が始まる総合型は出願が締め切られている大学が多いが、推薦の出願は11月からの大学が大半だ。
一般的な推薦は、評定平均値やクラブ活動、ボランティア活動など、高校時代の勉強やそれ以外の取り組みを書類上で評価した上で、小論文や面接などで選抜する。このように多面的に評価する推薦は、ペーパーテストによる一発勝負の一般選抜では力を発揮しきれない受験生向きと言える。高校時代に頑張ってきた、光るものを持っている受験生にとって、推薦なら難関大も視野に入ろう。
「全国247私立大 推薦入試情報」には、慶應義塾大、上智大、東京理科大、明治大、青山学院大、法政大、関西大、同志社大といった、大半の難関私立大が掲載されている。当然のことながら、これらの大学の出願基準は厳しい。小論文や面接においても高い思考力や表現力が求められ、一般選抜でも合格できる学力が必要と言われている。それでも、出願基準を満たす受験生が多くない分、倍率は一般選抜より低い傾向にあるので、出願基準をクリアしているのなら、チャンスが広がる入試方式でもある。
一般選抜への対策が推薦に生きることも
例えば、上智大の理工学部の出願基準は、評定平均値全体が4・0以上もしくは、全体が3・8以上かつ数学と理科がそれぞれ4・5以上で、さらに英検2級以上などの語学力も求められる。この厳しい出願基準をクリアすれば、倍率(志願者数÷募集人員)は一般選抜の19・7倍に対し1・6倍と大幅に低くなるのだ。
前出の大学に次ぐクラスでは、日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)、大東亜帝国(大東文化大、東海大、亜細亜大、帝京大、国士舘大)、産近甲龍(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)、摂神追桃(摂南大、神戸学院大、追手門学院大、桃山学院大)なども推薦を実施している。
推薦は合格したら必ず入学するという、専願制の大学が多い。そのため、慎重な志望校選びが求められるが、他大学との併願を認めている大学もある。前出の産近甲龍、摂神追桃は全て併願可能だ。ちなみに、これらの大学は、主に学力試験で選抜するので、一般選抜への対策がそのまま役に立つ。入試科目も「英国」や「英数」と科目数の少ないケースが多いので、受験しやすい方式と言えよう。
併願を認めている大学には、首都圏では獨協大や日本工業大、桜美林大、大正大など。中部圏では中京大、九州圏では九州産業大や福岡工業大などがある。一般選抜を中心に考えている受験生も、推薦で合格していれば余裕を持って入試に臨めるので活用したい。
年内入試の合格者の課題は、その後の勉強へのモチベーションが保ちにくいこと。石原氏は言う。
「合格者に対して大学が出す課題にしっかり取り組むこと。学校が一般選抜対策の講習などを行っているなら、参加するといいでしょう。余裕ある時間を活用して、進学する学部の専門に関する本を読むなどの事前勉強も有効です」
現役生の学力が伸びると言われている11月以降に勉強を緩めてしまうと、一般選抜に向けて頑張った生徒と入学時に大きな学力差がつく。大学での学びやその先の就職まで見据えるなら、年内入試は合格後が勝負とも言えよう。
もちろん合格しないことには始まらない。まずは合格に向けて、「全国247私立大 推薦入試情報」で、志望校の出願条件や日程などを確認してほしい。