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経済・企業 2022年の経営者

サプライチェーンマネジメントを成長事業に 樋口泰行・パナソニックコネクト社長

Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で
Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で

樋口泰行 パナソニックコネクト社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)»»これまでの「2022年の経営者」はこちら

── 4月に設立された会社です。設立の狙いは。

樋口 パナソニックが4月に持ち株会社制に移行し、傘下に特徴のある事業ごとに独立した会社をつくり、最適な経営をできるようにしました。当社の前身のパナソニックコネクティッドソリューションズ社は、パナソニックグループの中では主にBtoBを担当し、法人向けのソリューションを提供してきた会社です。

── 手掛けている事業や製品はどのようなものですか。

樋口 コア事業と位置付けているのが、プロセスオートメーション、メディアエンターテインメント、アビオニクス、モバイルソリューションズの四つあります。モバイルソリューション事業で扱うパソコン「レッツノート」は、店頭販売もしていますが、ビジネス用途のモバイルワーカーに特化した製品です。作業現場で使う「タフブック」もあります。

 他に消費者が目にするものでは、アビオニクス事業で扱う飛行機内のエンターテインメントシステムがありますし、メディアエンターテインメント事業では高輝度のプロジェクターなどを扱っています。逆に目に触れにくいものには、プロセスオートメーション事業の電子部品実装機や溶接機もあります。

── BtoB事業にとって、重要な要素は何でしょうか。

樋口 例えば、顧客企業の製品の一部を供給するビジネスでは、必ずコスト削減が要求されます。当社の最終顧客はあくまで法人です。当社が扱うような顧客企業の生産プロセスを支える製品は、生産性が向上する限り、必ず対価を支払ってもらうことができるのが強みだと思います。

── 世界でもトップシェアの強い製品を持っていますね。

樋口 コア4事業はとことんやると決めましたが、一方で7事業を終息させるなど、会社設立に当たりポートフォリオを見直しました。やると決めた事業は、業界でナンバーワンシェアを持つ製品が多く、ハードウエアの差別化がまだ通用する領域です。加えて、ソフトウエアで付加価値を加えられる付随ビジネスが存在するという特徴もあります。

── 製品を売って終わりではなく、ソフトウエアなどサービスを一緒に提供するのですね。

樋口 例えば重要なのは保守です。止まると困るシステムを納めると、必ず保守が必要になり、継続的にサービス提供する「リカーリングビジネス」が発生します。そうなれば、定期的な収入が得られ、経営の安定性が向上します。

 例えば、あるテーマパークのアトラクションには当社のプロジェクターが200~300台稼働していますが、その光源の状態をリモートで監視して交換時期を予測しています。そうした付随サービスの展開を進めています。

事業上場も計画

── ハードウエア中心のコア事業に加え、新たにソフトウエアを中心とする成長事業も定めましたね。

樋口 コア事業では、参入障壁が高く強い製品を持つ事業を残していますが、ハードウエア単品ではコモディティー(汎用(はんよう)品)化のリスクが常にあります。現時点で一番強いビジネスモデルはクラウドサービスによるリカーリングです。電気、ガス、水道のように毎月定期的に収入があり、期初には年間の売り上げが確定します。

 中でも、サプライチェーンのクラウドサービス化はこれから本格化すると見込まれており、当社はそのトップ企業である米ブルーヨンダー社に注目しました。まず協業から始め、2021年に買収しました。このブルーヨンダーが成長事業の中心になります。

── そのブルーヨンダーを中心とするサプライチェーンマネジメント事業を上場する方針を5月に発表しました。狙いは。

樋口 クラウドビジネスはとにかく速く走ることが鍵になります。サプライチェーンのように重要なシステムは、よほどサービスに満足できない顧客以外は途中でやめません。早く動いて先に高いシェアを獲得できれば、その事業の価値も決まります。いくら良い製品を持っていても、スピードがないと駄目です。ブルーヨンダーをパナソニックグループに取り込むためにいったん買収しましたが、今後は独立性を持たせて経営の柔軟性を高め、どんどん前に走ることが必要になります。そのためには投資も必要になるので、資金確保も上場の目的です。

── 今後の経営の目標は。

樋口 24年度に売上高1兆1700億円(21年度は9249億円)、EBITDA(利払い前、税引き前、減価償却前利益)1500億円(同1123億円)を目標に掲げていますが、十分に達成可能な状況です。売上高比率はコア事業の方が大きいですが、将来的に成長事業が利益の源泉になっていくと見ています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A パナソニックを辞めて、米国のビジネススクールに留学し、外資系企業を転々としていました。日本と外資の両方の文化を理解して改革することに役立っていると思います。

Q 「好きな本」は

A 松下幸之助の著作です。コロナ禍で業績が落ち込んだ時に、不況時の心構えについて書かれたものを読んだら心が落ち着きました。

Q 休日の過ごし方

A ジムに行ったり、ウオーキングをしています。


事業内容:サプライチェーン、公共サービス、生活インフラ向け機器・ソフトウエアの開発・製造・販売など

本社所在地:東京都中央区

設立:2022年4月

資本金:5億円

従業員数:約2万8500人(22年4月現在)

業績(22年3月期、旧パナソニック コネクティッドソリューションズ社)

 売上高:9249億円

 営業利益:517億円


 ■人物略歴

ひぐち・やすゆき

 1957年兵庫県出身。奈良県立奈良高校卒業、大阪大学工学部卒業。80年松下電器産業(現パナソニック)入社。ダイエー社長、日本マイクロソフト会長などを歴任。2017年パナソニックコネクティッドソリューションズ社社長を経て、22年4月から現職。64歳。

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