欧州で強まる中国脅威論 悩みどころは台湾有事対応 岸田英明
「ロシアのウクライナ侵攻は、かえって欧州の目を中国リスクへ向けさせた」。9月上旬、ブリュッセル勤務の、日本のある外交官が語った。同中旬、筆者は同地へ出張し、幾つかの国の外交官に欧州の中国認識やインド太平洋政策について話を聞いた。欧州は中国をパートナー、ライバル、競争相手という三つの側面から捉えてきたが、足元では単純に脅威とみなす認識が強まっている。
欧州の現在の最優先事項はロシアのウクライナ侵攻とエネルギー不足だが、インド太平洋の秩序維持に向けた関与も強めている。
マドリードであった6月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議には、パートナー国である日韓豪NZの首脳を、初めてそろって招待。共同声明はロシアを強く非難し、対中国でも「我々の利益と安全と価値観に挑戦し、ルールに基づく国際秩序を傷つけようとしている」と警戒をあらわにした。
国連違反黙認が決定打
今回面談した欧州連合(EU)の外交官は語った。「我々はインド太平洋地域のゲストではなく、多くの権益を持つ住民である。首脳会議で岸田(文雄)首相が語った『今日のウクライナは明日の東アジア』という危機感に同意する」。
アジア某国の外交官は「欧州では中国の変化に期待する理想論がほぼなくなった」と語り、理由を「香港や新疆の人権侵害、軍拡と海洋進出、新型コロナ防疫での“体制の優位性”アピール、貿易の武器化などいろいろあるが、ロシアの明白な国連憲章違反行為への黙認が決定打」と分析した。
ただし台湾有事に関し、欧州は危機発生の未然防止には強い意志を持って取り組むものの、発生後の関わり方には迷いが感じられた。論点は大きく二つ。対露と同レベルの経済制裁を中国にも打ち出せるか、そして、米中が交戦した際にNATOが集団的自衛権に基づく参戦を決められるか…
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週刊エコノミスト
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