週刊エコノミスト Online サンデー毎日
半世紀前に芽生えていた「崩壊」と「癒着」生む構造 1967(昭和42)年・統一教会対策「父母の会」
特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/36
霊感商法や合同結婚式などが社会問題化した旧統一教会と政界の長年の癒着があらわになっている。その実態を「知らなかった」とする政治家も多いが、ならば彼らのアンテナはよほど錆びついているのだ。往時の『サンデー毎日』報道から教団の正体を改めて探る。
〈近年、大学のキャンパスを中心に勧誘活動を行い、多くの大学生をメンバーとする危険な宗教集団(カルト集団)が存在します。(中略)例えば、「統一協会(原理運動)」や「摂理」などと呼ばれるものにはその傾向が強く、本学内でも勧誘活動をしているという疑念が報告されています〉
公式サイトで旧統一教会(世界平和統一家庭連合)を名指しし、学生に注意を促しているのは青山学院大だ。同大はかつて教団活動を意味する「原理運動」の拠点校として知られただけに警戒感はひとしおだ。
本誌1978(昭和53)年7月9日号によると当時は「原理研究会」など原理運動に携わる学生が文化系サークルを牛耳っていた。その実態を批判する記事を掲載しようとした英字新聞サークルが圧力を受け、記事を削除して白紙で発行した〝事件〟もあったという。
本誌同号は「反原理」学生との流血騒ぎや、学内集会で原理系学生を糾弾した学生が、大学当局から無許可で情宣活動をしたとして学則違反に問われた事例を報じた。
当時の学長は取材に〈過激派の破壊活動に非暴力主義で対抗し、学内の秩序を維持した(原理運動の)活動を遺憾であるとする根拠はない〉と答えた。原理運動が学生運動を抑止する装置として働いていた時勢の一端がうかがえる。
記事はさらに早稲田大の原理研がKCIA(韓国中央情報部)との関係をちらつかせながら、在日韓国人の政治犯支援をする学生らと衝突しているケースを報告。〈青山学院、早大に続いて、原理運動の強いところは東大。次期拠点校として、原理研が最も力を入れている〉と述べている。
原理研究会は統一教会が宗教法人の認証を受けた64年、全国の大学で設立された。本誌67年10月1日号は〈原理運動にたずさわっている学生は、全国七十八大学と高校をふくめ、二千五百余人〉と書く。折しも同年9月、入信して家に寄りつかなくなった若者の親たちが「原理運動対策全国父母の会」を結成。「わが子を返せ」と声を上げた。若者らは街頭の花売りやカンパ活動を行うキャラバン隊に入れられ、カネ集めをさせられることも多かった。
自民党の反共活動「支援は当然」
教団と親の争いはその後も続いた。本誌75年2月16日号は東京都渋谷区の教団本部に100人以上の親が押しかけた様子を描く。同年2月に韓国・ソウルで行われる合同結婚式にわが子が参加するのを止めようというのだ。〈島根県から上京してきた親ですが……あきらめました。いつまでも東京にいられませんし(中略)二晩かけて説得したのですけどね。残念です〉
記事は原理運動被害者父母の会事務局に届いた電話の力ない声を拾っている。
78年8月20号には埼玉県富士見市で起きた騒動が載る。高齢女性が訪問販売で高額の高麗ニンジンの濃縮液を買わされ、大理石のつぼの購入を契約させられた事例を同市が市報で取り上げ、注意を促した。販売者は統一教会系の商事会社だった。間もなく国際勝共連合(68年に教団を母体に設立された政治団体)の激しい攻撃が始まった。〈連日のように宣伝カーが何台も集まり、山田三郎市長と共産党市議を「人殺しの手先」とマイクで攻撃した〉
当時、富士見市は勝共連合が目の敵にしていた「革新市政」だった。勝共連合の情宣局長は同号でのインタビューに〈自民党が反共活動をしているなら、それを支援するのは当然〉と答えている。
家族関係をゆがませ、80年代には「霊感商法」が社会問題化したカルト集団と「反共」で利害が一致した政治家――そのツケ払いもまた安くはなさそうだ。
(ライター・堀和世)
ほり・かずよ
1964年、鳥取県生まれ。編集者、ライター。1989年、毎日新聞社入社。ほぼ一貫して『サンデー毎日』の取材、編集に携わる。同誌編集次長を経て2020年に退職してフリー。著書に『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)、『小ぐま物語』(Kindle版)など