週刊エコノミスト Online サンデー毎日
小室さん夫妻の苦しみ 今後は「発信」にも期待 社会学的皇室ウォッチング!/52=成城大教授・森暢平
眞子さん(31)と結婚した小室圭さん(31)が米ニューヨーク州の司法試験に合格した。二人の結婚を応援し続けた本連載の読者にとってもうれしいニュースに違いない。しかし、弁護士事務所で働き、バッシングを受けながらも勉強を続けた小室さんはどんなに辛(つら)い思いをしていただろうか。
ニューヨークでの小室さんが最も苦しんだのはパパラッチたちの盗み撮りであろう。息抜きに外出しようものなら、どこかでカメラに狙われる。自分たちの敵に常時、囲まれ生活している気持ちだと想像する。
最も悪質なのは英大衆紙『デイリー・メール』オンライン版だ。最近で言うと、同紙は6月7日、同23日、出勤する小室さん、彼を見送る眞子さんを撮影している。同紙に掲載された写真は『女性自身』『週刊女性』など日本のメディアにも転載される。有名人の写真を撮影してそれを生活の糧にするパパラッチの写真は、日本の読者の目に触れる場所にたやすく流通するのだ。遠く離れていても常に日本社会から監視される環境のなかで、夫妻は暮らしている。
3回目の挑戦となった7月26、27日の司法試験の会場付近では、小室さんを狙う多数のメディアによりその姿を撮られてしまった。小室さんはこの時、気持ちを落ち着かせ、集中力を高めなければならない状況にあった。無遠慮に話しかける日本人女性記者、無言でシャッターを押し続けるカメラマン……。小室さんへの配慮は一切なく、〈小室さんの現状を読者に知らせる〉という大義のもとで、小室さんは自由とプライバシーの権利を奪われた。
10月2日には、ニューヨーク在住の日本人ユーチューバーとみられる人物が、眞子さんが鮮魚店で買い物をしている様子を動画としてアップしている。店外に出て撮られていることに気づき、驚いた眞子さんは、一瞬ひるんだようなしぐさを見せた。眞子さんが感じた恐怖は察するに余りある。眞子さんは、複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っている。報道のプロではないユーチューバーが報道被害を拡大させ、それを防ぐ有効な手段がないことに危惧を覚える。
メディアの無責任
小室さんの合格以降、テレビ局は、手の平を返したかのように「おめでとう報道」を繰り広げた。小室さんの今後の年収や、ニューヨークの物価高など、1時間近くの尺を取って放送するワイドショーもあった。
テレビやその視聴者にとって、小室さんは絶好の「ネタ」である。TBSテレビのワイドショー「ひるおび」(10月24日)でコメンテーターを務める立川志らく氏は、合格について「それは素直におめでとうございますと。落ちた時はみんなでさんざっぱら、なんか面白おかしく言ってたからね」と報じる側をも茶化(ちゃか)しながら語った。司会の恵俊彰さんが「多くの方が(略)おめでとうございますって感じになってます」と応じると、志らく氏は「世の中の空気がそうなったんですよね。この方が一生懸命努力して雰囲気を変えていったわけですよね。最初、ものすごく風当たりが強かったですもんね。(米国に)行った時なんかは……」と話した。
小室さんに向けて強風を吹かせていたのはワイドショー自身だ。小室さんの「ネタ」を、面白おかしく消費してきたのである。小室さんの懸命の努力、苦しみ、悲しみ、悔しさを心から理解しようとしているとは思えない。
視聴者・読者の興味を大義に、小室さんをスケープゴートにしてきたメディアのあり方は正当化できないし、無責任である。
今後は「反撃」もありだ
もうひとつ、指摘しなければならないのは、インターネット上などの誹謗(ひぼう)中傷である。合格直後は、快挙を祝福する書き込みが多かったが、しばらくするとやはり小室さん批判が目立ってきた。
誹謗中傷については、私の経験を紹介したい。昨年9月以降、小室さんと眞子さんの結婚を積極的に擁護する論陣を張り続ける私に対し、ネット上ではさまざまな中傷が書き込まれた。
「学者の発言とは思えない。学者失格。成城大は森暢平を即クビにすべき」「この教授、自分は『わかってる人』と思ってるようだが、全く世論の真意が解ってないただの勘違い野郎」
対話や議論が通じそうもない一方的な断定。すべてを読むと精神の安定を保てなくなるので、こうした書き込みをするユーザーはツイッター上でブロックすることにした。すると、「小室圭氏のいじめ問題について教育者としてどう考えているかを問われ、回答することなくそのユーザーをブロック。教育者としていかがなものか」とまで書かれた。私に直接ではなく、大学の事務室に執拗(しつよう)に電話をかけ、滔々(とうとう)と語り続ける匿名の「抗議」も頻繁であった。
今回、初めて書くが、私はこうした書き込み、あるいは業務妨害に対し、法的手段の準備をしている。もちろん評論の自由は尊重する。しかし、被害を受けた者が声を上げないと社会は変わらないと考えたからだ。
その点、弁護士資格を得る小室さんには期待する。夫妻へのバッシングや、隠し撮りは今後も続くであろう。書かれっぱなし、撮られっぱなしで、何の対抗手段も取らないという戦略は限界に来ている。
小室さん夫妻が声を上げられなかったのは、皇室が「国民」を相手に反論や反撃をするのは好ましくないという考え方があるからだ。しかし、それは間違っている。戦前にあっては皇室裁判令があり、皇室が人民を訴えることはできた。実際に皇室と地域社会との間の土地争いなどは少なからぬ例がある。
自分たちの生活を守り、また、これからの若い皇族たちの権利を守るために、小室さん夫妻は、ご自身たちの苦しみを発信し、場合によっては反撃しても良いと私は思う。そのことが社会を変えることにつながるからだ。
挑戦する人を皆が応援できる、多様性が容認される社会をつくるためにも、小室さん夫妻がいつか声を上げてくれることを私は期待する。 お二人に伝えたい。「負けないで。眞子さん、小室さん!」
もり・ようへい
成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など