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メディア批判を加速させる小室さんへの直撃取材 社会学的皇室ウォッチング!/53=成城大教授・森暢平

ワイドショーやニュース映像の数々
ワイドショーやニュース映像の数々

 米ニューヨーク州の司法試験合格後、「日本メディアの前に初めて姿を現した」として、民放各局は小室圭さん(31)の映像を流した。小室さんは完全に取材を拒否し、カメラの前を通り過ぎた。米国の地で静かにキャリアを始めようとする若者に対し、無遠慮にマイクを突きつける姿勢に批判は多い。メディアはこのことに自覚的であるべきではないか。

 小室さんは出勤途上の現地時間10月31日朝、路上で待ち構えるテレビクルーに撮影された。「眞子さんとお祝いする時間はありましたでしょうか」「眞子さんから何かお話とか……」「秋篠宮さまたちには直接ご報告はされたりしましたでしょうか」「応援する声もあったと思うのですが、支えてくださった人たちに何か一言ありませんか」「ニューヨーク生活がまだ続くと思いますけれども、お母さまにはご報告されたのでしょうか」

 矢継ぎ早に質問する女性記者に対し、小室さんは前を見据えたまま歩き続けた。時間にして約1分半。クルーはこれで取材をあきらめた。あろうことか取材陣は翌11月1日午前10時半にもまた直撃した。小室さんはこの日も口を開かなかったが最後、記者が「朝早くからありがとうございました」と告げると、軽く会釈をした。

 これらはニューヨーク駐在のテレビ各局による代表取材である。昨年11月の小室さん夫妻の渡米以来、日本のメディアのニューヨーク支局は、小室さんへの直接取材を「自粛」する代わりに、夫妻に取材機会を設けるように現地総領事館を通じて要望していた。しかし、テレビ各局は要望はかなわないと見て、今回、自粛を解除したのだと考えられる。

 ただ、無制限に解除すると「メディアスクラム」になりかねない。取材対象者に執拗(しつよう)に付きまとい、報道競争を繰り広げる集団的過熱取材のことだ。実際、昨夏、一時帰国する前の小室さんをテレビ各局が個別に追い回したことがあった。

 そこで今回は各テレビ局が協定し、10月21日の合格後、各社交代で小室さんが勤務する事務所付近で張り込みを続けた。ようやく2日連続で、姿を捉えたという事情のようだ。各社の素材が同じなのはこのためだ。

 「ガン無視でしたよね」

 だが、無許可で撮影された素材はオンエアに使いづらい。取材拒否していることが明らかだからだ。11月1日の朝や夕方の生ニュースでは「小室さんがメディアの前に現れた」という事実の紹介にとどめた局が多かった。ワイドショーも「イヤホン外さないまま」と悪意にも取れるテロップはあったが、コメントを控える番組が目立った。

 迂闊(うかつ)だったのはテレビ朝日の「大下容子ワイド!スクランブル」であった。映像を流したあと、コメンテーターの吉永みち子さんが「日本のメディアに対しては、よっぽど腹に据えかねているところがあるのか『ガン無視』でしたよね。一言ぐらい、ちょっとあっても嬉(うれ)しかったなと思うんですけど」と辛口コメントを加えた。同じくコメンテーターの末延吉正さんも「一言おっしゃれば、すごく感じが良かったと思うんで、そこんとこ、ちょっと残念ですね。メディアも『メディアスクラム』にならないようにして取材しているわけだから、そこはね、ちょっと、次回よろしくどうぞ」と続けた。

 読売テレビの「情報ライブ ミヤネ屋」でも、コメンテーターの杉山愛さんが「イヤホンしてらっしゃるし、1回目、2回目(の不合格のとき)もマスコミの報道を耳にして嫌な気持ちにもなっているかもしれない。(略)けれど何か一言いただきたいなっていう気持ちもありますよね」と余計な言葉を加えている。司会の宮根誠司さんも「一言、『ありがとうございました。頑張ります』って言っていただきたいところですけどね」と皮肉を続けた。

 小室さんを一方的に取材しておいて、一言ないと「態度が悪い」と批判することは結婚前にもあった。1年前ならば、内親王と結婚する男性への取材には、公共性と公益性があるから撮影したとの説明は可能だっただろう。しかし、小室さんは今、一般人となった眞子さんの夫として静かに暮らしている。そんな彼の姿を電波に乗せることに大義はあるのだろうか。

 小室さんの母親のいわゆる「金銭トラブル」発覚以降、ワイドショーは小室さんへのバッシングの片棒を担いできた。悪意ある世論を煽(あお)ってきたのがテレビ各局である。そんな日本のテレビ局が、路上で、「各社代表しての取材です。この度はおめでとうございました」と話しかけてきても好意的に対応できないのは、むしろ当然のことであろう。「メディアスクラムを避ける」ために代表取材にしたというのも、メディアの一方的な主張である。

 批判に259万閲覧

 現場の記者たちは「絵を撮る」、あるいは取材相手に声をかけて、その反応を視聴者に見せるというテレビのルーティンに没頭するあまり、何のための取材なのか、忘れていないか。

 そうした疑問を私は、ツイッターでつぶやいてみた。それも、「朝出勤する際、無遠慮にカメラを向けるメディアの暴力に『ガン無視』で何が悪いのでしょうか」と若干強めに書いた。驚くことにそのツイートは3日間で259万の閲覧があり、1万9400の「いいね」をかせいだ。829件のコメントの多くは、私人である小室さんをしつこく取材するメディアへの批判であった。むろん、いつものような小室バッシングの書き込みもあったが、絶対数は少なかった。

 社会の風向きは、「小室さん夫妻を放っておいてあげよう」という雰囲気に変わっている。そのなかで、相変わらず小室さんを追いかけ回す手法はメディアへの信頼を下げる結果につながっている。2日目の小室さんの映像をニュースとしたのはTBSだけであった。連日、同じような映像を流すことに、どんな意味があったのか分からない。

 現場取材に当たる記者、ニュースやワイドショーを制作するディレクター、何らかの発言を求められる司会者やコメンテーター、考査部門や上層部……。テレビ局のすべての人たちがこの問題を考え直してほしい。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など

「サンデー毎日11月20・27日合併号」表紙
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