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教養・歴史書評

現世代と将来世代の互恵関係を探る知的冒険の書 評者・齊藤誠

『哲学と経済学から解く世代間問題 経済実験に基づく考察』

著者 廣光俊昭(財務総合政策研究所客員研究員)

日本評論社 5940円

公共的互恵性をベースに世代間倫理の構築を模索

 本書は、哲学者と経済学者が提起してきた世代間倫理に関わる諸問題を、両分野に精通した廣光俊昭が真摯(しんし)に、懸命に格闘した労作である。

 哲学者は、現世代の数多くの選択肢を評価する超越的な将来世代など存在しないのだから、現世代は自らの選択について将来世代に責任を負いようがないという。なぜなら、ある将来世代の誕生は、現世代の特定の選択行為の結果であって、現世代が異なる選択をしたならば、生まれてこなかったからである。

 一方、経済学者は、現世代と将来世代の効用を平等に処遇すべきであるという哲学者の主張に懐疑的である。そんな処遇をすれば、現世代は、将来世代のために一方的な犠牲を強いられかねない。

 哲学者や経済学者からの、そんな否定的な問題提起に接すれば、多くの研究者は、たじろぎ、ひるんでしまい、世代間倫理という厄介な問題に取り組もうとしないであろう。

 しかし、廣光は、世代間倫理に関する否定的な主張の背後にある「現世代から将来世代への一方向性」を、公共的互恵性(相互性)という「現世代と将来世代の双方向性」によって果敢に克服しようする。

 廣光は、「自らの死後も人類が存続すること」(「死後の生」と呼ばれている)に対して、すべての世代が価値を見いだしていくことに、公共的互恵性の根源を求めている。

「死後の生」に関わる価値観が世代を通じて共有されれば、現世代と将来世代の間に双方向の関係が生まれる。現世代は将来世代の生活が豊かになるように振る舞い(現世代⇒将来世代)、他方、将来世代の存続そのものが現世代を幸せにする(将来世代⇒現世代)。

 廣光は、世代間の相互依存関係に着目した理論モデルを構築し、非常に興味深い結論を導いている。同時に、経済実験によって理論モデルの有効性を検証している。

 そんな意欲的な著作だからこそなのであるが、経済実験のデザインが、本書で精緻に展開してきた哲学的、経済学的な議論と厳密に対応しているのかという疑問も持った。

 たとえば、第4章の経済実験では、「仮想将来世代」と現世代の熟議が、確かに財政問題の解決に寄与している。しかし、「仮想将来世代」は、現世代の代替的な選択肢を評価できる超越的な存在であり、まさに哲学者が否定した将来世代である。現実の世界で誰がそんな役割を担うのか。

 読み手をスリリングな知的冒険に誘う、素晴らしい著作の誕生を祝したい。

(齊藤誠・名古屋大学大学院経済学研究科教授)


 ひろみつ・としあき 1992年大蔵省(現財務省)入省。主計局主計企画官、主計官、大臣官房総合政策課長を歴任。現在、在アメリカ合衆国日本国大使館公使も務める。専門はマクロ経済学、行動経済学。


2022年11月29日号掲載

『哲学と経済学から解く世代間問題 経済実験に基づく考察』 評者・齊藤誠

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