週刊エコノミスト Online サンデー毎日
2023年大学入試:河合塾 駿台・ベネッセ 全国178国公立大 共通テスト「合格」ボーダーライン 3度目は平均点大幅アップ
難関大志向で倍率も上昇か
2023年度(23年4月入学)の大学入学共通テストは平均点が上がり、ストレスなく出願する受験生が増えそうだ。難関大志向の強さそのままに志願者増が見込まれており、難関・準難関大では厳しい入試が予想されている。(データは1月18日現在で得点調整前)
3度目を迎えても、共通テストの平均点は乱高下が続いている。23年度の「共通テストの予想平均点」は、文系が20点、理系が30点以上アップ。比較対象となる22年度の5教科7科目の平均点は、文系理系ともに50点近く下落していた。
平均点のアップダウンの要因となったのは数学。22年度は数学の平均点が、大学入試センター試験時代を通しても例を見ない、数ⅠAが19・72点、数ⅡBが16・87点の下落となった。対して23年度は、数ⅠAが20・12点、数ⅡBが21・80点上昇した。
ベネッセコーポレーション学校カンパニー教育情報センター長の谷本祐一郎氏が、数学の平均点の変化について解説する。
「22年度の数学は、問題の文章量が多く、問われている内容にたどりつくまでの情報整理に時間がかかる受験生が多かった。23年度も出題形式は同じですが、問われていることに行きつくための誘導があったりして、問題を読み解く時間が短縮したことなどから平均点が上がりました」
数学とは対照的に平均点が下がり、40・55点と過去最低になったのが生物。駿台予備学校進学情報事業部長の石原賢一氏は言う。
「19世紀に確立された物理や20世紀に確立された化学と異なり、新しい分野が頻出する生物は、生徒の興味関心を引き出しながら教えられる教師が少ない。そのため、共通テストで生物を選択する優秀な生徒が少なく、思考力を問う問題傾向と相まって平均点を下げる要因となっているのです」
生物の平均点は64・46点の物理と大きな差があり、生物と化学で教科内で平均点が20点以上開いた際の得点調整が行われる予定だ。
生物以外にも世界史Aや政治・経済、物理基礎で過去最低点となりそうだが、全体の平均点は22年度を上回っている。その要因と影響について河合塾教育情報部長の亀井俊輔氏は、こう話す。
「数学の平均点アップに加え、受験生や学校の指導が良い意味で慣れてきたことが大きい。23年度も資料の読み解きや日常生活と関連付けた問題など、思考力を問う出題でしたが、対応も進んでいると思います。平均点アップに伴い、河合塾の自己採点では、文系と理系ともに8割以上得点した7科目受験者は前年の2倍です」
ベースとして難関大人気が高いところに高得点層が増えたことにより、自己採点における前期の志望者は、旧七帝大に東京工業大、一橋大、神戸大を加えた難関国立10大学、および、これらの大学に次ぐ準難関大グループで、ともに前年を上回った。
難関国立10大学の前期の志望者は、大半の大学が前年を上回っている。中でも、京大や大阪大、神戸大といった西日本の大学の志望者増が顕著。一方、東大は前年並みだ。駿台の石原氏は言う。
「不透明な社会状況を背景として、成績上位層の難関大志向は強い。中でも近畿圏の大学の志望者が増えているのは、国公立大志向の強さからうなずけます。東大の志望者が伸びないのは、関東は早慶など難関私立大があるので、女子を中心に私立大を志望する受験生も多いからでしょう」
模試では志望者が減少傾向だった東北大や九州大も志望者増。全体的に難関大の倍率が上がりそうな状況だが、河合塾の亀井氏は過度な弱気は避けたいと言う。
「国公立大前期の志望者は前年並みですが、19年度の志願者と比較すれば1割減。浪人生も大幅減なので、難関大といえども、自己採点で自分の立ち位置を確認した上で、強気を貫きたいですね」
準難関大では、筑波大、横浜国立大、大阪公立大、岡山大などで志願者が大幅に増えそうだ。
地方大は志望減傾向 「難関」からの流入も
難関、準難関に次ぐ地方大は、全体として志望者がやや減少傾向。山形大、福島大、福井大、滋賀大、愛媛大、佐賀大、宮崎大など1割近く減少している大学も少なくない。それでも、平均点アップと連動して各大学の目標ラインが上がると、準難関大から地方大への志望変更も考えられる。さらに、駿台の石原氏は、共通テストの平均点アップも地方大の志願者増の一因になると言う。
「地方では有力な私立大がなく、浪人する環境も整っていないことから、まず地元の国立大に合格することを考える。難関・準難関大志望者が、平均点アップというアドバンテージを生かして地元の地方大に確実に通ろうという動きも考えられます」
現時点で志望者が減っていても、出願状況には注意が必要だ。
学部志望動向も強気で、医学部(医学科)の志望者が大幅増となっている。東大や京大、名古屋大などでも増えているのは、受験生の難関大志向の強さの表れといえそうだ。歯学部や薬学部といった難関資格を目指す学部も変わらず人気が高い。農水産系も人気で、全体的に理系学部の志望者が増加傾向なのは、この1年の流れに沿っている。
情報系の人気も高く、多くの大学で難化しそうだ。中でも23年度に新設される一橋大のソーシャル・データサイエンスは、前後期ともに志望者が集まっている。特に東大の理Ⅰと理Ⅱの志望者の7%が志望している後期は、第1段階選抜合格ラインが800点満点中690点以上と予想されている。厳しい入試になることは確実だ。
文系では経済・経営・商学系の人気が高い。難関大の経済では、北海道大、京大、大阪大、神戸大などで志望者増。法学系は全体として減少傾向だが、難関大はその限りではなく、東大、京大、大阪大、九州大などで法の倍率が上がりそうだ。
志望者が減少しているのは、文・人文系。コロナ禍で人気が落ちた国際関係や外国語系も人気回復にいたっていない。特に、共通テストの数学を2科目とした東京外国語大は、共通テストの数学の平均点が上がっても志望者は戻らず、現時点で前年の約7割。倍率面から狙い目になりそうだ。
難関・準難関大の人気が高く、地方大も倍率アップの可能性があるなど、前年の倍率を上回る大学が多くなりそうな国公立大入試。ベネッセの谷本氏は、受験生にこんなアドバイスを送る。
「近年の入試は現役生が中心。1年以上のアドバンテージを持つ浪人生は少なく、2次試験までに与えられた時間の長さは大半の受験生が同じ。ここからの頑張りによる最後の伸びが、志望校合否のカギを握ります」
冷静に出願大学を決めた上で、2次試験に向けた早いスタートが求められているということだ。