週刊エコノミスト Online サンデー毎日
重鎮・二階俊博に田原総一朗がホンネ直撃!「勝手なことをするんじゃない!」 自民党が大揺れ!岸田首相軍拡路線に痛烈警告
倉重篤郎のニュース最前線
台湾有事を口実に戦争国家への道を走る岸田政権。戦争体験を持つ政治家たちがしたたかな外交を繰り広げたかつての自民党なら、あり得ない事態だ。危うくなる中国とのパイプを1人で繋いできた「凄みある重鎮」二階俊博氏を、田原総一朗が直撃、官邸の暴走に痛烈な言葉を向けた――。
米戦略国際問題研究所(CSIS)の台湾有事の机上演習(シミュレーション)が話題になっている。
2026年に中国軍が台湾へ上陸作戦を実行すると想定し、台湾が中国に強く抵抗、米軍が即座に参戦し、かつ、日本が米軍による国内基地の使用を容認するという3条件を前提に、その優劣、勝敗の帰趨(きすう)、被害状況を見積もった。結果は、大半のシナリオで中国は台湾制圧に失敗する、というものだが、米軍や自衛隊は多数の艦船や航空機を失うなど大きな損失を出すという結果にもなっている。
「日米台連合軍」の優位性を強調する米シンクタンクのお手盛りリポートではあるが、我々が注目すべきは、「豪や韓国などの同盟国も何らかの役割を果たすかもしれないが要は日本だ」「日本の米軍基地を使えなければ米戦闘機は効果的に戦闘に参加できない」と分析、日本を対中戦の中核前進基地と位置付けていることだろう。仮に、日本が安保条約6条実施についての事前協議制度により出撃に待ったをかけた場合、米国の軍事介入パワーは著しく落ち込む。これを同盟破綻による日本の危機と見るか、米中両国に対して突きつける日本の貴重な戦略的外交カードの一つと見るか。大切な局面である。
それにしても軍事シミュレーションは数多(あまた)あるのに、なぜ外交シミュレーションはないのか。軍事による相互壊滅は嫌というほどウクライナ戦争が教えてくれている。それを回避するための外交にどういう手段、展開があるのかにこそ、脳味噌(みそ)をふり絞るべきではないのか。例えば、現職の首相訪中が無理であるなら、政権与党の要人を北京に派遣する手はないのか。双方が平和を望んでいることをあらゆるチャンネルで世界に発信すべきではないのか。
習近平は武力行使はしないと思う
二階俊博・自民党元幹事長。党実力者であると同時に、習近平政権が期待する親中派政治家の一人である。17年5月には当時の安倍晋三首相の親書を携え訪中、習氏に対し「一帯一路政策」への協力を表明し、膠着(こうちゃく)状態の両国関係の打開に動いた。大規模訪中団を率いることでも有名だ。02年9月の日中国交正常化30周年記念式典には、国会議員や経済人ら1万3000人を、15年5月には、両国の観光業発展を期して民間企業幹部ら3000人を連れて人民大会堂に乗り込んでいる。国家外交と国民外交を同時に行う意思だろう。
この稿では、現職国会議員最高齢ながらなお永田町で凄(すご)みを利かせる83歳の二階氏に対し、これまた現役ジャーナリスト最高齢で永田町を疾走する88歳の田原総一朗氏が斬り込む。中国は果たして武力行使するか? 米国はどう対応するか? 日本はどうすべきか?
田原 僕の取材だと、習近平が日本の政治家で最も信頼しているのは二階さんだという。何でですかね。
二階 それはわかりません。ただ、中国にしろ、外交は嘘ついたら駄目ですからね。そういう意味では、別に私は媚(こ)びたこともなければ威張ったこともない。姿勢を正してまじめに対応してきたことは事実です。
田原 つまり習近平に対して本音でしゃべってきた?
二階 まあそうだ。しかし、気持ちは命がけです。別に命取られるわけではないが、真剣勝負だ。
田原 二階さんにとって習近平はどういう政治家か?
二階 あの大中国を従えているわけだから類い稀(まれ)な実力を持っているんでしょう。我々は外交上お互いに敬意を払わなければならない。
田原 そこで本題だ。先の共産党大会で習近平さんは台湾は必ず統一する、武力行使も辞さずと強調した。
二階 自由主義国家として許すことのできない発言だ。日本は堂々とそれに対し意見を述べていくべきだ。ただ一方で、習近平さんも自らを鼓舞する意味を込めたところもあるかもしれない。
田原 党大会向けに言わざるを得なかった?
二階 自ら力んだのでしょうね。武力行使なんて今の時代にできるわけないですよ。私はしないと思う。
田原 そうですか。
二階 いや、そうですか、と言われても私もそうだと断定するわけではない。そんなことは許せない。何でも武力行使となると、武力がある国が偉い、となり、日本はそれこそ再軍備しなければいけなくなる。
田原 重要なのは外交力?
二階 文化、外交、経済力。そして、それをバックアップする国民の力だ。国民の発言力、行動力がものをいう。だから私は機会ある度に大勢の人を連れて行った。普通、国会議員は自分だけ外遊とか言って偉そうに行くが国民が理解しなければだめだ。私の心中は、皆さん、知っとってくださいよ。中国は広い、世界はとてつもなく広い。その中で我が国の立場を考えれば、我々はもっと謙虚に、もっと誠実に歩み続けていく努力を真剣にすべきだと。それは皆行けばわかる。そもそも、習近平さんだって、武力行使して国が有利かどうかは、計算してわかってますよ。
田原 判断能力はある?
二階 会社で言えば、大大会社の社長だ。情報も入っているし、毎日、なかなか、心中穏やかならざるものがあると思うよ。
田原 権力闘争もあると。
二階 だからそう容易なことではない。あなたたちが考えているような楽なポストではない。
田原 ただ、もし中国が武力行使したら米国は放置しない。現に米国防総省筋は、米国は台湾を守るため戦わざるを得ないと言う。
二階 当然じゃないですか。米国のこれまでのスタンスからするとね。平常時は台湾を守ると言って、いざとなったら逃げ出すわけにはいかんでしょう。それは戦うことになりますよ。
田原 そうなった場合、米国は日本に対し、お前も戦えと言ってくる。日本は日米同盟だから拒否できない。
二階 しかし、日米同盟というのは、米国がどこかと戦ったらいつでも日本はついていきますよ、という同盟ではないはずです。
田原 そうですか?
二階 そんなつもりは国民にもないのではないか。米国は「世界の警察官」と言われるほどあちこちで軍事介入してきた。それにいつでも後ろからついていくんだとは、国民も政府もなってないんじゃないか。
田原 確かにこれまではそうだったが、岸田文雄政権で安保政策の大転換だ。
二階 気合が入り過ぎているのではないか。自衛隊も大事だが、自衛隊をバックアップする国民が、気持ちの中で国を守る気概を持つことが重要だ。それは必ずしも武力だけでなく、文化、外交、経済すべてにおいてだ。そして政府はもっと国民に理解してもらう努力、時間があっていい。今すぐ戦争が始まるわけでも、隣から火を噴いてミサイルが来るわけでもない。ちょっと慌てているのではないか。それより、台湾有事を起こさないよう全力を傾けることだ。台湾有事が起きた際にどうするかと言われても日本は逃げるわけにもいかない。
田原 バイデンも本音では戦争したくない。戦争しなくて済むよう日本に一肌脱いでくれと依頼した?
軍拡路線の説明は俺にもなかった
二階 それは私にはわかりません。ただ、そのための努力は外交にある。外交と同時に国民同士の交流を頻繁にしていく必要がある。ネットを広く張って、有事、異変ということに対して早々に察知する能力を日本自身が身に付け、米国に教えてもらわなくてもわかるようにしなければならない。そういう努力は国民を挙げてやっていく必要がある。
田原 それを言えるのは二階さんしかいない。
二階 そんなこともないでしょうが。そのうちにまた(中国に)行かねばならないね。顔と顔を合わせ話をする必要がある。まさに国民外交というか、自民党が担わなければならない大きな責任だ。他のことはちょっと遅れてもいいということもある。間違ったらやり直せばいいという問題もある。外交、国と国との問題ではtoo lateは許されない。この点はしっかりしなければならない。ここが与党と野党との違いですよ。
田原 どう違う?
二階 与党にはそれだけの責任があるということを自覚しなければならない。野党の皆さんにもそういう気持ちがあるのだろうがね。
田原 そういう意味で、与党は責任を果たしている?
二階 まあ、果たそうとしていることは事実だが、その努力をもっともっと一生懸命やらなければいけない。
田原 要人往来が少ない。
二階 もっと努力が必要だ。外交努力で戦争させないことを考えると、国会も相当責任を担っていくべきだ。なのに政府の側から自民党に、どうですか、と言ってくる気配がないんだから。
田原 ないですか?
二階 そりゃないよ。政府がそんなにしっかりしてるか。政府というのは、自民党であろうと野党であろうと使えるものはどんどん使い、自らやるものは自らやる。政府でできないものは、自民党にやってくださいよと、また野党にもお願いするくらい八方への配慮が必要なのではないか。十分されているというならば結構だが、私にはそうは感じられない。
田原 大きな政策転換をする時は国会を開いて堂々と国民的な議論をすべきだ。
二階 国会もそうだが、自民党の有力政治家には事前説明と相談があるべきだ。
田原 二階さんに相談ない?
二階 もちろんないよ。勝手なことするんじゃないよ、と言いたいね。
田原 それは驚きました。野党に相談がないだけではなく自民党の有力者にも相談がないとは。
二階 私が有力者かどうかはわからんが……やはり相談して進めるべきだ。相談していると言って時間稼ぎしながら熟慮しなければだめだ。相談しているということが抑止力にもなるんだよ。代理人を使ってもいいし、電話でもいい。いろんなことができる。こっちに来いとは言わない。
田原 日本は米国にも言うべきことを言ってない。
二階 米国は世界の最強国として厳然と存在し、日本は最重要国であることは違いない。米国とは相談しながら対応していくことはあっていいと思う。私はできるだけ早いうちに米国、そして中国に行きたい。
田原 米国には何を?
二階 日本に対して何を期待しているのか、日本も米国にどういう願望を持っているのか、率直に話し、新たなステージで話し合っていくことが重要だと思う。
政治への不満、批判にも目を向けよ
田原 台湾有事については武力行使を慎んでくれと?
二階 武力は準備の必要はあるが、簡単にこれを行使してもらっては困る、と。
田原 外交も最後は政治家だ。戦争を知っている政治家が激減、二階さんらごく少数派になってしまった。
二階 全くね。戦争ほど悲惨なものはないんだから、知らんといっても、常識あればわかっているはずだ。だけどもうちょっと勉強を皆でしておく必要はある。
田原 かつて田中角栄が、戦争を知っている人たちが権力中枢にいるうちは大丈夫だが、そうでなくなると危ういと言っていたが、今はそんな空気が漂っている。
二階 そういう空気があってもそれをちゃんと抑える良識派が必要だ。戦争をやっていいわけがない。
田原 戦争の悲惨さを知った長老の出番だ。
二階 自分を長老と思ったことはない。否応(いやおう)なく一番年長者になってつまらんなと思っている。やはり政治はフレッシュな考えを持っていないとね。自分は隠居しているが代わりに考えてやるよというやり方ではだめだ。外国の政治家を見ると、年齢に関係なく最前線に立っている。政治家に年齢は関係ない。時代への感覚があるかどうかだ。若くてもボケてるのはいる。
田原 むしろ、官邸(岸田首相)のほうが硬直して、しなやかさを失っている?二階 俺が言う必要はないが、官邸はそこまで手が回らないんだろうが、国政を進める上で、国会議員のみならず、多くの経験者がいっぱいいるんだから、それを巡回して意見を聞く係が1人や2人必要だ。いろんな意見、不満、批判にも注意しておく必要がある。その中に放っておけない問題があるかもしれない。
◇ ◇
80代渾身(こんしん)対談いかがか。米国との関係を重視しながらもそれにすべてを縛られない。一定の距離を置く。何よりも日本の国益、国民益に沿って「政(まつりごと)」を営む。その最上位概念に「非戦」を置く。今この局面で、何から何まで米国の戦争についていくのが日米安保ではなかろうと言い切る。戦争を体験したことのある保守本流政治家のいぶし銀を久々に感じたのは私だけだろうか。対談中たまたま、やはり戦争の悲惨さを知る古賀誠元自民党幹事長が挨拶(あいさつ)に立ち寄った。首相が彼ら長老の叡智(えいち)たる平和外交路線に耳を傾けられるか。秘策「二階訪中」カードを切れるか。政策、政局両面で大きな転換点となろう。
にかい・としひろ
1939年生まれ。衆院議員。国土強靱化推進本部長。運輸相、経産相、自民党国対委員長、自民党幹事長などを歴任。戦後保守政治のアジア平和外交を引き継ぎ、日中関係に尽力する
たはら・そういちろう
1934年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。タブーに踏み込む数々の取材を敢行し、テレビジャーナリズムの新たな領域を切り開いてきた。近著に『さらば総理』
くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員