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2023年大学入試:速報第1弾・東大「推薦」京大「特色入試」合格者出身高校一覧 中高一貫校優位の中、健闘の3年制高校も
難関国立大の総合型選抜と学校推薦型選抜の高校別合格者数がまとまった。コロナ禍で課外活動や留学などが制限される中でも、難関大に合格者を輩出できる学校はどこが違うのか。東大と京大の状況から検証してみた。
2023年度入試(23年4月入学)に臨む高校生は、入学時から一斉休校になるなど、3年間をコロナ下で過ごした。コロナ禍の弊害を最も大きく受けた世代といえよう。さまざまな活動が制限された高校生にとって、課外活動や探究活動など高校時代に取り組んだ成果が問われる総合型選抜や学校推薦型選抜(推薦入試)のハードルは高かったろう。その影響を東大の推薦型選抜の出願状況に見るのは、駿台予備学校進学情報事業部長の石原賢一氏だ。
「23年度は経済学部の志願者が大きく減りました。経済学部は出願要件に留学を含むさまざまな国際活動など、国際的な活躍を挙げています。コロナ禍で海外との往来が止まる中、要件を満たす生徒が少なかったことが、志願者減の要因と見ています」
東大の推薦型選抜の志願者が前年の240人から253人に増加する中、経済学部は22人から8人に激減。東大は志願者の減少について「慎重な分析が必要だと思っている」としたが、コロナ禍が大きく影響していたようだ。出願要件にグローバル色が濃い法学部も27人から14人に減少。志願者が増えているのは、比較的にグローバル色が薄い教養学部や、理系人気を背景とした工学部、理学部、農学部などだ。
さらに、駿台の石原氏は出願要件のハードルが高い難関大の推薦入試で、新型コロナウイルス感染拡大による学校間格差が生じている可能性を指摘する。
「高校入学時からの一斉休校で教員との人間関係がうまく作れない生徒が多かったことは、総合型選抜や推薦型選抜を目指すにあたって大きなマイナス要因。その点、中高一貫校の生徒は中学時代に教員との人間関係ができていて相談しやすい分で優位だった。コロナは、特に地方の公立校の生徒に影響を与えていると思います」
東大の推薦型選抜の合格者数は、前年と同じ88人。そのうち、一貫校が充実している東京は前年を3人上回る27人で過去最多となった。東京以外の関東は4人減って14人、その他の地域は1人増で47人。この状況について東大は、その他の地域が全体の53・4%を占めていることから、推薦型選抜が目指す「学生の多様性」は確保できているとしている。
23年度入試の合格校を見ると、最多は3人の小石川中教、早稲田、灘といった一貫校。東大の学校推薦型は、1校あたりの推薦人数が4人で男女3人が上限。男子校と女子校はそれぞれ3人ずつとなっている。早稲田と灘は男子校としての上限いっぱいの合格者を輩出した学校となった。
2人合格者がいる学校は立命館慶祥、八戸、秋田、千葉・県立、日比谷、麻布、渋谷教育学園渋谷、広尾学園、聖光学院、金沢泉丘、藤島、岐阜、神戸大付中教、広島。
一貫校優位の中、3年制で複数の合格者を出した秋田は、コンスタントに東大合格者を輩出する高校でもある。進路指導主事教諭が、その背景を語る。
「来年度に150周年を迎える当校は、勉強や課外活動、学校行事など全てに全力で向き合い、そこに楽しみを見いだす精神が『蔵付きの酵母』のように受け継がれています。こうした気風と学校のシステムが、東大に連続で合格できる要因。先輩が合格することで後輩も頑張れるという循環も大きい」
同校の進路指導副主任で、学校推薦型総合型選抜対策室長の教諭が続ける。
「特別な対策をしているわけではなく、東大が求める学生像と合致する生徒が自然と育成され、評価されている結果だと思います。今年の医学科合格者は臨床医志望でしたが、課題研究の授業で研究の面白さに目覚め、主体的に研究を進めていく中で、研究医の道を選びました」
コロナ禍で移動が制限される中でも、自前で東大の選抜に耐えうる生徒を育むフィールドを用意できることが強みとなっている。
16年度に始まった東大の推薦型選抜で、秋田は17年度を除き毎年合格者を出している。途切れることなく、8年連続で合格者を出している学校は、日比谷と渋谷教育学園渋谷の2校。8年間の累計合格者数は、日比谷と渋谷教育学園渋谷が14人で最多。11人が秋田と広島、9人が筑波大付、麻布、海城、灘となっている。
次に京大の特色入試(後期日程の法学部を除く)を見ると、定員が145人から152人に増えているにもかかわらず、志願者数は494人から486人に減少。代々木ゼミナール教育総合研究所主幹研究員の坂口幸世氏が、要因を解説する。
「学校推薦型の大枠を変えない東大とは対照的に、京大は学部ごとに最適な募集形態を模索しているようです。工学部が募集人員を増やしたことで志願者が増加した一方、経済学部は、総合型選抜から学校推薦型に変更したことで志願者が激減し、全体の志願者数を押し下げました」
23年度入試で京大の合格者が多い学校は、開明7人、洛北5人、西京と大阪桐蔭各4人など。また、初年度の16年度から8年間途絶えることなく合格者を出している学校には、西京、洛北、洛南、大阪桐蔭、開明の5校があり、8年間の合計の合格者数は、大阪桐蔭29人、開明26人、西京25人、洛北22人などが多い。西京の進路指導部主任実習助手の教諭に、多くの合格者を輩出できる要因について聞いてみた。
「一般選抜で合格できる学力がありながら、課題研究やグループ学習などの成果を評価してほしいと考える生徒が多くいます。数学や物理オリンピックなど、生徒がやりたいと望む活動を教員がサポート。そうした取り組みの中で生まれる、先輩が受かったなら自分もできるという強い思いが、合格者が途切れない一因です」
ところで、東大の学校推薦型と京大の特色入試により、優秀な学生が入学していることに疑う余地はないが、8年目を迎えて気になるのは、その原石の行方。代ゼミの坂口氏は言う。
「在学中のパフォーマンスについて大学は分かっていると思いますが、大事なのは卒業後の活躍具合。卒業生の状況はまだ追い切れていないと思いますが、今後の調査に注目したいですね」
卒業後の状況はこれからとしても、まずは優秀な人材がどの学校から合格しているのかを知りたいところ。東大、京大以外の難関国立大に関しても、「難関国立大 学校推薦型・総合型選抜高校別合格者数」で確認してほしい。