週刊エコノミスト Online サンデー毎日
「学歴無用」は名ばかり 横行する大学の〝格付〟 1967(昭和42)年 就職戦線〝指定校制度〟
特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/49
来年春の大卒予定者を対象にした企業のエントリー受け付けが3月1日に始まる。就活といえば校名によって門前払いされる「学歴フィルター」が折に触れて問題となるが、かつて公に存在し、大学間格差を広げる装置だった「指定校制度」の実態を改めて振り返る。
本誌『サンデー毎日』1967(昭和42)年5月28日号にこんなコメントが載る。〈国際競争が激しくなりますから、人材を求める傾向はますます強くなります。一流企業ほど選考はきびしく水準に達しないものはどんどん落としていく〉
話の主は大学生向けの就職情報誌を発行する「日本リクルートセンター」の江副浩正社長だ。後に政官財を巻き込んだ騒動を思うと感慨深いが、当時もグローバル人材の需要が高かったことが改めて分かる。そして江副氏はこう明言する。
〈大学間の格差がかなりはっきり出てくるでしょう。(中略)就職試験以前の段階で大学に対する選別が行なわれることになります〉
大学生の就活では「学歴フィルター」の存在が度々露見する。企業が就活生を校名でふるいにかける行為で、例えば〝入試偏差値〟が低い大学の学生が会社説明会に参加したくても「満席」を理由に断られたりする。半ば常識化しているが、公にする企業はない。しかし、かつては「選別」が堂々と行われていた。
〈大どころの企業に聞いてみると、求人先の大学を指定するところが意外に多い。たとえば朝日麦酒は事務系一〇校、技術一一校に、また勧業銀行が五五校にしぼるといったぐあい〉と本誌同号は伝える。採用試験を受けられる大学を企業側が決める「指定校制度」だ。
同7月16日号は「これでも学歴は無用か 〝求人指定校〟という名の大学格付」と題し、実態を掘り下げた。日経連(現経団連)の調査によると、社員3000人以上の企業では、事務系採用で153社中116社が指定校制度を敷いていた。
記事では旭化成、川崎重工、高島屋、トヨタ、八幡製鉄など「一流企業」15社が国公私立113大学のどこを指定校にしているかを一覧表にして掲載した。東大、京大は全15社が指定。一橋大14社▽神戸大13社▽九州大12社と続き、〈私立で企業にウケのいいのは、まず早大、慶大、ついで中大、上智大、青学大となり、明大、立大、法大はそのあとになるようだ〉とある。
石油危機後には加速する〝独占〟
ただし指定校の中にも濃淡があった。ある都市銀行の場合はこうだ。〈大学によって推薦依頼の人数が違う。国立九大学(旧帝大に一橋大、神戸大)については、人数に制限がない。(中略)そのほかの大学の場合には、それぞれワクが決められている。また試験は筆記と面接だが、国立九大学の出身者は原則として筆記試験が免除されている〉
指定校制度の目的は、さばき切れる範囲内に応募者を収めることだが、もう一つわけがある。化学メーカー(記事では実名)の担当者は〈指定校のワクをひろげてみたことがあるんですが、公平な試験の結果でも、採用されたのは、だいたい、いま指定している大学の出身者に限られてしまいました〉と打ち明ける。これは現在、学歴フィルターが使われるのと同じ理屈だ。
その後、学歴差別だという批判もあって企業が公言することはなくなったが、75年11月30日号は「すさまじい〝指定校〟の独占度」と題して水面下の動きを追跡。早大生のこんな就活体験談を載せている。〈九月一日(会社訪問解禁日)は、某ビール会社。受付に行くと国立、早大・慶大、中大・明大、その他と受付が五カ所に分かれている。(中略)説明する人が、はっきり「ほしいのは国立と早慶までです」と言っていた〉
石油危機後の不況下にあって就職難が叫ばれていた頃だ。記事は指定校を志望する受験生が1・5~1・7倍になったという予備校データを引きつつ、こう結ぶ。〈就職難―指定校制―そしてそこへの進学過熱。異常さだけが増していく〉
(ライター・堀和世)
ほり・かずよ
1964年、鳥取県生まれ。編集者、ライター。1989年、毎日新聞社入社。ほぼ一貫して『サンデー毎日』の取材、編集に携わる。同誌編集次長を経て2020年に退職してフリー。著書に『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)、『小ぐま物語』(Kindle版)など