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「一匹狼」に活躍の早稲田 「二つの批判の目」の慶應 1979(昭和54)年・サラリーマン早慶戦

早稲田大の創設者の大隈重信
早稲田大の創設者の大隈重信

特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/53

「三田か稲門か、世は正に早慶戦時代である」戦前に発行された書籍の序文にそうある。スポーツはもちろん輩出した著名人、学生気質と、あらゆる分野で早稲田大と慶應義塾大は常に比較され続けてきた。昭和50年代の誌面に載った「サラリーマン早慶戦」を振り返る。

 〈運動王国を自負する早稲田、陸の王者を以て任ずる慶應、(中略)早に非ずんば慶、慶にあらずんば早、正に厳然として天下を二分しているのである。偉なるかな早慶。栄ある早慶〉

 格調高くうたうのは1932(昭和7)年に出された『オール早慶戦』(樫田栄二、樫田信三久)という本だ。同年のロサンゼルス五輪で日本代表選手の大半を早慶出身者が占めたとして両校抜きに日本のスポーツは語れないと断言する。

 早稲田のファイティングスピリットに対し、洗練された技巧の慶應―異なる持ち味の由来を「学風」に探る分析が面白い。〈即ち慶應はその学風において幼稚舎より大学まで一貫せるを誇とし、伝統を継承するに便宜を有することに長所がある。早稲田は広く天下に逸材を求めて、之を一丸として鍛冶せんとするの学風が、スポーツに必然的に最もよく反映している〉

 建学の精神に触れるだけに両校のライバル心は並でなく、例えば野球の早慶戦は応援過熱を理由に06(明治39)年に中止され、25(大正14)年まで行われなかった。同書はスポーツに限らず学術、政治、経済、文芸思想、マスコミなど〝オール〟分野を総覧。著名な人物を列挙しつつ〈両大学の存在は今や正に確然として社会のグラヴィティ(重き)をなしている〉と記す。

 何かにつけて「早慶戦」の構図を当てはめる風潮は戦後も一貫して存在する。試しに国立国会図書館のサイトで検索すると、恋愛早慶戦(54年)▽社会保障早慶戦(60年)▽文学早慶戦(69年)といった書名や記事の見出しが目に留まる。

 本誌『サンデー毎日』は79年、企業での〝出世〟を巡る動向を追った。2月18日号は約40万社を対象にした帝国興信所(現帝国データバンク)の調査をもとに早稲田大出身の社長が最多(9162人)と伝える。経済界は「慶>早」の印象があるだけに意外といった筆致でその背景を分析。経済評論家の梶原一明氏は、西武鉄道の堤義明氏らを例に挙げ「強烈な社長像」が共通しているとしてこう見立てる。〈つまり、個性的で、自我が強く、妥協的でなく、ある意味で猛烈型で、そしてやや単純、ですな〉

慶應義塾大の創設者の福澤諭吉
慶應義塾大の創設者の福澤諭吉

「社長」は早大で「課長」は慶大?

 調査によると同大出身社長は「2代目」が多い。半面、出世して大企業トップに就く例は少ないという。そのわけは〝学閥〟に頼らないから、らしい。あるOBがこう話す。〈閥づくりは実にへたですね。しかしそのために(中略)一匹狼的に活躍し、乱世の時にこそ、その力を最大限に発揮するような社長が多い〉

 一方の慶應大は同調査の社長数ランキングでも3位(6322人)と決して劣らない。だが、むしろ別の秀でた面がある。続く2月25日号では「サラリーマン早慶戦」と称し、上場企業の「課長」となる確率が高いとする渡辺行郎・愛知教育大教授の推計を紹介している。当時42~44歳の慶應大出身者が課長職に就いている割合は約17~18%に上り、〈三年間を通して単独トップ。ライバル早稲田に大きく水をあけ、東大をケ散らしている〉という。

 実務の最前線に立つ中間管理職としてなぜ慶應人材が重宝されるのか。〈慶応人には二つの批判の目が育つんだよ。一つは、肩ひじはって天下国家を論ずる権力志向型の東大に対する批判精神。もう一つは、逆に、野にあって権力に突っかかってばかりいる早稲田型人間像への批判だ〉とOBで政治評論家の今井久夫氏は述べる。日本のサラリーマンには「ドンピシャリの性格」だというのだ。

「人の上に立たず、人の下に立たず」と創立者の言葉になぞらえた記事の見出しに、ややけれんみがある。

(ライター・堀和世)

ほり・かずよ

 1964年、鳥取県生まれ。編集者、ライター。1989年、毎日新聞社入社。ほぼ一貫して『サンデー毎日』の取材、編集に携わる。同誌編集次長を経て2020年に退職してフリー。著書に『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)、『小ぐま物語』(Kindle版)など

「サンデー毎日4月2日増大号」表紙
「サンデー毎日4月2日増大号」表紙

 3月20日発売の「サンデー毎日4月2日増大号」には「2023年入試速報・第5弾 大学合格者高校別ランキング 早稲田は「渋幕」がトップに 慶應は10年連続で開成首位」「ジャニーズが語る 学びを仕事に生かす ジャニーズWEST 中間淳太/Aぇ! group 福本大晴」「岸田軍拡もう黙って見ていられない 河野洋平・元衆院議長、緊急直言!」などの記事も掲載しています。

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