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2023年中学入試:エキスパート座談会 今春の首都圏中学入試を振り返る 受験生数も受験率も最高に 「コロナ後」も衰えない人気

「サンデー毎日5月7・14日合併号」表紙
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 2023年首都圏中学入試は、受験生数と受験率がともに過去最高だった。先行き不透明な時代に対応が可能な私立校の教育に期待が高まっているのだ。今年の入試総括と今後の展望について、日能研本部ディレクター『進学レーダー』編集長・井上修さん、四谷大塚情報本部本部長・岩崎隆義さん、市進学院学校情報室・野澤勝彦さん、サピックス教育情報センター本部長・広野雅明さん、安田教育研究所代表・安田理さんのエキスパート5人に話を聞いた。

――23年首都圏中学入試はどのような状況でしたか。

岩崎 22年の1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の小6生数は29万4574人で21年より減りましたが、中学入試の受験生数は増加しました。四谷大塚の集計では、前年比約1200人増の約5万4700人。受験率も0・5ポイントアップの18・6%で、受験生数・受験率ともに、過去最高記録を更新しました。

井上 日能研では、公立中高一貫校を含めた受験生数を約6万6500人とみています。受験率は過去最高の22・6%。主に私立校の受験生が増えました。

岩崎 受験生が増えたのは、低学年から塾に通う人が増えていることも理由の一つです。また、コロナ禍での公立校の対応への不安から私立校が注目を集め、その期待感が続いていることも、私学人気につながっています。

安田 今はSTEAM(Science Technology Engineering Art Mathematics)教育やグローバル教育、探究学習、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みなど、多くの保護者が公立校にはない教育を求めて私立校を選んでいます。ただ、同じように塾通いをしていても、早くから大手受験塾に通って難関校を目指す人もいれば、習い事を小6まで続けた上で、無理せずに合格できる学校を選択する人もいます。受験スタイルが多様化してきましたね。

野澤 市進教育グループには集団指導と個別指導の両方があり、中学を受験する児童の多くが集団指導部門に所属しています。ところが、23年入試では個別指導部門でも中学受験する児童が増えました。彼らは、一般的な併願スケジュールを組まず、自分に合ったスタイルで受験する傾向がみられます。例えば12月1日から始まる千葉の第1志望入試を目指して勉強し、1月以降の一般入試は受けない人もいます。

広野 比較的合格しやすい第1志望入試しか受験しない子どもも増えていますね。なかでも、二松学舎大付柏や西武台千葉などのようにキャンパスが広く、雰囲気が良い学校は一定の人気があります。

安田 受験スタイルが多様化する中、大手塾の模試を受けない子どもも増えています。そのため学校の中身をよく知らないまま志望校として選択するケースもあるようです。話題校ばかり受け、残念な結果で終わる子どももいます。

広野 今回は、午後入試の受験率がさらに高まりました。数年前までは女子校や共学校で実施校が多く、女子の受験率が高かったのですが、男子校でも実施校が増えて男女差がなくなってきました。最近は、2月前半日程入試で合格者の歩留まりが良く、後半日程では合格者数が絞られて厳しい入試になる傾向が顕著です。早く合格を得るために午後入試を併願する人が増えています。

――1月入試の状況は?

野澤 コロナ禍で東京や神奈川からの受験生が減っていましたが、人気校を中心に戻りつつあります。埼玉の栄東は前年比約1650人増の約1万3800人の志願者を集めました。また、ここ数年東京と神奈川が中心の2月入試で厳しさが増していますので、1月入試では確実に合格できる学校を選択する安全志向が強まりました。開智では、1月10日の先端1入試の志願者は増えましたが、上位学力生が受ける同11日の先端特待入試は減少しました。浦和実業学園などの中堅校も人気を集めました。

岩崎 埼玉栄も志願者が増えて難化しました。栄東や大宮開成、千葉の専修大松戸などは東京からの通学生が増えています。上位校に限らず、東京から通いやすい地域の学校は人気が高まっています。

安田 立教新座や淑徳与野、武南、西武台新座もそうですね。

野澤 コロナ禍で減少傾向が強かった千葉の学校は、全体的に志願者が増えています。市川の人気が復活しました。

安田 市川はグラウンドや体育館などの施設が充実しています。進学校でありながら、哲学など教養を深めるセミナーを行っており、教育の総合力が高い学校です。

井上 麗澤も人気を集め難化しました。先進的な取り組みをしているSDGs研究会など、バランスの良い教育が評価されています。

野澤 光英ヴェリタスは21年に共学化した学校改革以降、志願者が増加していましたが、今年は減少しました。ただ、特待生狙いの受験生が減っただけで、変わらずに高い人気があります。

広野 キャンパスが広く、部活動もしやすいですし、礼法など伝統的に受け継がれてきた良質の教育も受けられる。そういう環境を求めている家庭にとって、志望順位が高い学校ですね。

野澤 今年4月に中学校を開校した流通経済大付柏は、827人の志願者を集めました。さらに周辺地域でも、志願者が増えた学校が多くありました。中学受験率が高くないエリアに開校しましたが、中学受験への意識を高める効果があったようです。

井上 流通経済大付柏の校舎はラーニング・コモンズや生徒同士が学び合う図書館など、千葉ではあまり見られなかった最先端の施設が充実しています。周辺には東大や千葉大、東京理科大のキャンパスがあるアカデミックタウンにあります。人口が増えているつくばエクスプレス沿線の柏の葉キャンパス駅からもスクールバスで通いやすい立地なので、今後も人気が続きそうです。

岩崎 地方にあり、寮を持つ学校の首都圏入試では、盛岡市の盛岡白百合学園の志願者が増え、難化しました。

井上 寮のある学校を進学先として選ぶ家庭も増えていますね。不二聖心女子学院(静岡県裾野市)や静岡聖光学院(静岡市)、北嶺(札幌市)も安定した人気があります。

 新校舎や新たな教育でイメージ刷新の伝統校

――東京や神奈川で伸びた学校はどこでしょうか。

広野 男子は開成や海城、早稲田の志願者が増えました。これらの学校の共通点は新校舎です。最新の設備がある理科室や生徒が自由に使えるスペースなどを備えた新校舎は、今の保護者にとって注目度が高い。予測不可能な時代でも活躍できる力を身につけられると期待を寄せています。

安田 コロナ禍では安全志向が強かったですが、今年は東京・神奈川とも、より上位の学校を目指す傾向が見られました。神奈川では聖光学院、栄光学園、逗子開成の志願者が増えました。

広野 逗子開成は海が目の前にあり、遠泳実習などの独自の海洋教育を行っています。校内は開放的な雰囲気があります。コロナ禍で閉塞(へいそく)していた状況を経験し、そういう環境に魅力を感じる人が多かったのでしょう。また、本郷や巣鴨、城北など、堅実な教育を行う学校の人気も続いています。

岩崎 難関女子校では、桜蔭の志願者が増えました。女子学院はやや減少。渋谷教育学園渋谷などの共学校を選択した受験生が多かったのだと思います。

井上 豊島岡女子学園も微減でしたが、チャレンジ層が減っただけで、難度はむしろ上昇傾向です。

岩崎 共学校では、広尾学園小石川は22年より志願者が減ったものの、依然として人気があり、難度もアップしています。

――注目を集めた学校は。

広野 東京都市大付が入試日程を変更し、2月1日の午前入試を新設しました。トータルの志願者数は減りましたが、レベルの高い受験生が集まりました。また、東京都市大付が抜けた同2日は多くの男子校で志願者が増えました。

野澤 足立学園が入試回数を増やし、志願者が大きく増えました。実際に学校に行くと雰囲気の良さが伝わりますし、最寄りの北千住駅から徒歩1分と駅から近いのも魅力です。

安田 佼成学園も人気がアップしています。グローバルコースの生徒が校外のさまざまなコンテストで入賞するなど、生徒の活躍も目覚ましいものがあります。

岩崎 山脇学園や三輪田学園、実践女子学園などの伝統女子校はイメージが刷新され、今の時代に合わせた教育を工夫しながら行っていることが伝わり始め、人気が続いています。

安田 光塩女子学院や晃華学園、湘南白百合学園、カリタス女子など、多くのカトリック系の女子校の志願者が増えたのも、教育内容が変わってきたことが知られてきたからだと思います。説明会に参加し、他校では聞けないような校長先生の話が心に響くこともあるようです。

井上 校内に生徒が自由に使える学びの場がある学校や、広報活動にSNSを活用し、さまざまな内容を発信している女子校は人気を集めています。

岩崎 共学校では、駒込や日本工業大駒場、横浜創英などの人気が上がっています。

広野 今年4月に共学化して東京女子学園から校名変更した芝国際は志願者が殺到しました。

井上 同様に目黒星美学園から校名変更し、女子校から共学校に移行したサレジアン国際学園世田谷も多くの志願者を集めました。

岩崎 26年に明治大の付属校となり、共学化して明治大付世田谷に校名変更する予定の日本学園は、23年の入学者から明治大への内部進学の対象になるため、志願者が大幅に増えました。

野澤 十文字も志願者が増えました。地道な広報活動の効果が出てきましたね。女子サッカーの強豪校でもあり、元気がある校風も魅力です。また、京華女子も全部の入試回で志願者が増えました。24年から京華、京華商業との3校合同キャンパスがスタート。注目が集まりそうです。

広野 コース制を廃止した安田学園も志願者が増えました。コース改革も、人気アップのキーワードのひとつになっています。

野澤 安田学園は下町情緒が残る場所にあり、旧安田庭園や両国国技館など、緑と文化施設に囲まれています。周辺環境がいいことも人気に結びついています。

岩崎 安田学園に隣接している日本大第一も人気でした。人口が増えているエリアが近いので、その影響があります。

井上 かえつ有明は帰国生が多く、教育プログラム全体がアクティブラーニング形式で生徒同士が自由に勉強する環境が整っています。学校全体がラーニングコモンズのような雰囲気があります。

広野 海城や東京都市大付などもそのような雰囲気があります。一般的に帰国生が多い学校は、学校全体が活性化している印象です。

 文理で縮む男女の「差」 「高大連携」も選択肢に

――理系に強い学校や、高大連携に積極的な学校が人気です。

安田 日本はデジタル化が遅れており、理系に強い人材が求められています。我が子を理系に進ませたいと考える保護者が増えているのも、そういう時代状況を肌で感じているからだと思います。

井上 東京都市大や芝浦工業大、東京電機大、工学院大といった理工系の大学は施設が充実していますし、就職実績も好調です。これらの大学の付属校は、軒並み人気が高まっています。

岩崎 今のところ、入試の難度が高すぎず受けやすいことも、選ばれている理由のひとつです。

広野 理系の進学先として、医学部だけでなく、理学や工学を選択する女子が増えています。文系・理系の男女差がどんどんなくなってきています。

安田 理工系に進学する女子は、以前は桜蔭や豊島岡女子学園、鷗友学園女子など難関校の生徒が多かったのですが、最近は普連土学園、田園調布学園、山脇学園など多くの女子校で増えています。

野澤 女子は、算数は苦手でも理科が好きなら、理系に進む傾向がありますね。

広野 算数はひらめきの要素も強いので向き不向きが分かれますが、数学は日々の勉強の積み重ねが重要です。中学になると、こつこつ勉強する女子は男子に比べて数学が得意になる生徒が多い。

井上 三輪田学園は数学の先取り学習を重視するのではなく、じっくり時間をかけて数学に取り組むことを大事にしています。これからの世の中では、数学嫌いにならないように指導することはすごく大切です。

安田 三輪田学園は法政大との連携を見直し、大学のデータサイエンスの授業を生徒がオンライン聴講できる制度をつくりました。

野澤 法政大への推薦枠が30人あることも人気を後押ししています。

安田 他にも高大連携に力を入れている進学校が増えています。大学付属校でなくても大学の授業を受けたり、実験室を見学できるようになると、進学先が併設大に限られる大学付属校より、選択肢の幅が広い進学校のほうがいいと考える家庭は多いかもしれません。難関大付属校の人気も、落ち着いてきました。

井上 現在も高大連携を進めている学校がありますので、今後の発表に注目したいと思います。

――大学入試では、一般選抜の募集人員が減り、推薦等の年内入試が増加するなど変わってきています。これからの中高一貫校の進路指導はどうなりますか。

岩崎 私立校ではキャリア教育を重視し、大学で何が学べるのかを理解した上で、進学先を選択するように指導しています。これまでのような東大を頂点とした序列で大学を選ぶことは減るのではないか、と思います。中学受験では学校選択の多様化が進んでいますが、大学選択でも同様の状況になっていくのではないでしょうか。

広野 何も考えずに偏差値上位の大学を目指す人は減るでしょうね。海外大学に進学する人もいれば、自分が研究したい内容に合った大学を選ぶ人もいるというように、大学の選び方は多様化していくと思います。

井上 中高一貫校では高校受験がない分、時間をかけて自分に合う大学を探すことができることは大きなメリットです。今後、さらに人気が高まりそうです。

安田 年内入試で大学に入学する生徒が増えています。入学後に自分が困らないために、進学先が決まった後も勉強を続け、基礎学力をしっかり身につけた上で進学してほしいです。

 変化が多い時代を迎え安易な志望校選び禁物

――24年入試の変更点や注目校、志望校の選び方について教えてください。

岩崎 24年4月、埼玉に開智所沢中教(仮称)が開校します。私立校が少ないエリアに開校する上、最寄り駅から徒歩で通える立地も魅力的で、注目が集まりそうです。

広野 横浜雙葉が2月2日の入試を新設し、1日と2日の2回入試になります。受験チャンスが増えて志望者が増えそうです。今後も、入試変更の情報が出てきますから、しっかり調べて志望校を決めてください。

野澤 今春、相鉄と東急の新横浜線が開通しました。乗換回数が減って通いづらかった地域から通いやすくなるなど通学範囲が拡大し、志望校選択の幅が広がります。

井上 変化の多い時代を生きる今の子どもたちにとって大切なのは、将来自分が何をしたいのか考えながら学ぶことです。中学入試、大学入試に限らず、志望校選択をする際は、先を見通して子どもに合う進路を選んでほしいです。

安田 最近は1回分の受験料で何回でも受験できる学校が多いため、とりあえず出願しておくというケースが増えています。そのため安易な志望校選びが行われている場合もあります。事前にきちんと学校を調べ、親子で十分に検討した上で志望校を選んで、周りに左右されずに落ち着いた受験をしてほしいと思います。

 4月25日発売の「サンデー毎日5月7・14日合併号」には、「有名私立650高校179大学合格者数」も掲載しています。ほかにも「ニッポン経済大論争! 『経済敗戦30年』本当の原因は何なのか! 金子勝×田原総一朗×倉重篤郎」「フィギュアスケート特別インタビュー 高橋大輔・村元哉中 かなだい結成から成長の日々を語る」「GWスペシャル読み物 あの俳優のあのシーン… 知られざる大河ドラマ事件簿(トリビア) 昭和編」などの記事も掲載しています。

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