週刊エコノミスト Online サンデー毎日
愛子さま「お相手」報道 スクープではなく臆測 社会学的皇室ウォッチング!/72 成城大教授・森暢平
昨年度、オンライン授業を受けていた愛子さまは、今年4月から学習院大学に通い対面で学ぶことになった。もう4年生で受講する授業は多くはないと思うが、コロナ感染症の蔓延(まんえん)で大学に通えなかった愛子さまが溌溂(はつらつ)と通学できるようになったのは喜ばしい。
その愛子さまの「お相手」報道が昨年来、続いている。例えば『女性セブン』の昨年10月27日号は「独占スクープ」として、初等科時代に愛子さまの同級生であり、学習院高等科時代は「野球部エース」として活躍した男性が「お相手」候補として浮上したと報じた。愛子さまは神宮第2球場スタンドでこの男性の試合を観戦したことがあると詳細まで書かれていた。
ところが、試合観戦というのは愛子さまが高校1年生だった2017年10月に同誌がすでに報じる6年前の出来事だ。その後の進展など新しい情報はなく、「独占スクープ」と謳(うた)っているが、羊頭狗肉(くにく)と言われても仕方がない。
それより困ったことは最近盛んに報じられている旧宮家(賀陽(かや)宮)の系統に属する男性についてである。目立ったのは今年2月21日発売の『週刊女性』(3月7日号)の「愛子さま 旧宮家ご子息と御所で逢瀬(おうせ)」だった。記事のなかで皇宮警察関係者は「感染対策の観点から、御所におこもりになっている間、とある旧宮家の子孫にあたるご子息と束(つか)の間の逢瀬を楽しまれていたようです。愛子さまが、瞬く間におきれいになられたのは、彼の影響が大きいのではないかと、もっぱらの噂(うわさ)なのです」と述べている。この記事も「独走スクープ」と銘打っている。
まったくの虚報であろう。愛子さまは、天皇ご夫妻がコロナに感染することを危惧して、大学にも通わず、御所にこもる生活を選択した。男性と逢瀬を楽しむはずがない。
続いて、3月2日発売の『女性セブン』(3月16日号)は、「愛子さま お相手候補最有力 旧皇族男子は4才年上早稲田卒イケメン」。同誌は、「お相手」候補を4歳年上の「イケメン」としたうえで、第2次安倍政権が「愛子さまのお相手」に関する極秘のヒアリングを行ったという「情報」があると報じた。賀陽家側も、官邸内の皇室制度検討チームから「愛子さまとの〝将来〟について意見が求められた」という「政府関係者」の談話が掲載されている。
虚報である。「第2次」安倍内閣は2012年から14年までで、この間に男系男子継承の検討はされていない。安倍氏が第4次内閣で退任したあと、菅政権と現岸田政権のもとで確かに皇位継承を議論する有識者会議があった(21年)。しかし、事務方の内閣官房皇室典範改正準備室は国会各会派への説明のなかで、旧宮家への聞き取りなどは実施していない旨を述べている。『週刊女性』の記事のとおり、賀陽家に対するヒアリングを実施していたとしたら、国会に対し嘘をついていたことになる。
虚報に反応する国会議員
さらに、3月9日発売の『週刊新潮』(3月16日号)は、「『愛子さま』御所でお見合い!? お相手は…」という記事を掲げた。このなかで「皇室ジャーナリスト」は、「賀陽家の兄弟は愛子さまとの交流が始まったと聞いています。とりわけ弟さんは愛子さまと4歳しか違わず、年代が近いこともあってことのほかお話が盛り上がり、最近も御所で面会していたというのです」などと述べている。
基本的に先行記事の焼き直しで、新しさはない。『女性セブン』と同様、「政府は、すでに意思確認のため賀陽家とコンタクトをとっており、好感触を得ているといいます」(宮内庁関係者)とも書いている。本当であれば大変なニュースである。しかし、皇室をまともに取材する者のなかで、これを真実と考えている者はいないだろう。
困ったことに、こうした記事に対して、自民党のある国会議員が「もし事実なら、皇室の持続的安寧のためには正(まさ)しく吉報に違いない。静かに見守らせていただこうと思う」などとツイッターでつぶやいている(3月8日)。男系男子継承論者には、愛子さまと縁組した旧宮家男性が皇室に復帰するシナリオを期待する声があり、この国会議員もこうした希望を述べたものだろう。『週刊新潮』記事は、旧宮家という名家との縁組によって「悪い虫」を近づけない目的があるのだとも踏み込んでいる。こうしたことまで書かれ、婚姻の自由を踏みにじられる愛子さまが気の毒で仕方がない。
週刊誌報道には、男系男子継承の継続を望む有識者からも批判が出ている。徳島文理大教授で評論家の八幡和郎氏は「ここ3年間ほぼ外出もされていない愛子さまにどうしてこんな話が浮上したのか、根拠を何も示さずに、大きな動きがあったがごとく印象操作をしている」と「お相手」報道を「無責任」と批判する(プレジデント・オンライン3月18日)。
「たとえ、そういうご縁の可能性があったとしてもこういう報道があると進めにくくなる」「賀陽氏のような男性が存在することを報道するのはかまわないが、具体的に会ったとか話が進んでいるとか、確実なニュースソースもないのに書くのはいかがなものか」と八幡氏は厳しい。
メディアの餌食になる皇室
私は、女性・女系天皇の推進論者であり、愛子さまが結婚するとするなら、ご自身の意思で自由に相手を選ぶべきだと考えている。そのため旧皇族復帰論者の八幡氏とは立場をまったく異にする。しかし、八幡氏の週刊誌の臆測報道批判はもっともだと思う。
週刊誌メディアは紙媒体よりネット配信による購読を重視する方向にシフトしている。結果として、真実性よりどれだけ読まれるかに重きを置くようになった。1クリックごとのページビューが比例的に売り上げに貢献するのだから、読者が食いつきやすい記事が書かれるようになり、本当かどうかは二の次になりがちだ。
皇室は残念ながら、そうしたメディアの餌食(えじき)になってしまっている。
もり・ようへい
成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など