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2023年大学入試:前法政大総長・田中優子が明かす 東大女子合格率過去最高のワケ 女子難関大志向は親の意識変化も

東大安田講堂
東大安田講堂

 2023年度の大学入試(23年4月入学)は、東京大で女子の合格率が過去最高となった。ジェンダーギャップ指数が先進国の中で極めて低い日本で、今後さらなる〝女子の躍進〟には何が必要か。前法政大総長で同大名誉教授の田中優子さんに聞いた。

――今春の東大の入試は、全合格者に女子が占める割合が22・7%と、過去最高だった21年度の21・1%を更新しました。どのように受け止めていますか。

 当然のことだと思います。自分の将来像をしっかり考えていて、結婚すれば何とかなると思っている女子はいないでしょう。

 社会が変わり、男性も非正規社員が増え、正社員でも給料が上がらない。大企業に就職してもいつ辞めることになるか分からない不安定な社会だからです。だから女性も自分で稼ぐ道を早くから考える。誰かに頼るより、キャリアを積んでいく方が安心なのです。

 私は1970年に大学に入学しましたが、高校生の頃からこの考え方でした。だから決して急に女性たちの意識が変わったわけではないと思います。

 しかし、これまで長く短大や女子大に女子の目が向いていたのは「親の反対」が大きな要因の一つだったと感じています。4年制の総合大に入学したら女性として見られず、結婚できないのではないか。そんな不安があって娘の進路に口を出していた。ところが、今の親たちの意識が変わってきて、娘の希望を応援するようになった。親の後押しがあって、難関大への挑戦がしやすくなり、東大への合格者も増えていったと感じています。

――大学全般を見渡すと文や国際系の学部だけでなく、法や経済などにも女子合格者が増えています。

 その通りですが、まだ一つ変わらないのが理工系の分野です。その中でも、例えば医や薬のような資格を取得できる学部は女子にも人気で、生命科学やデザイン系、建築系の学部も女子は増えています。

 しかし、工学系などは依然として変わらない。女子がどのような企業に就職できるのか、就職してもキャリアアップにつながるのかが見えないからです。

 かつての日本を支えてきた「重厚長大」と呼ばれる大企業では、今なお男性ばかりが役員に収まり、経団連の面々を見ても女性は皆無です。同じスタートライン、同じ条件で研究職でも技術職でもキャリアを積み重ねられ、結果として女性社長が誕生すれば、工学部でも女性が活躍できるというモデルケースが成り立ちますが、今はそうなっていません。つまり、社会の仕組みとか考え方が変わらない限り、女子の志望傾向は変わっていかないということです。さまざまな業種の企業が女性を受け入れ、重要なポストに就かせていく社会になれば、多くの女子はより一層、東大や京大などの難関校受験をしていくのではないでしょうか。

――田中さんは2014年から7年間にわたり法政大の総長を務めました。そのことによって何か変わったことはありましたか。

 私の場合、〝法政大のイメージ改革〟が大きな役割でした。法政大は国際化が進んでいるのに「バンカラで男くさい大学」というイメージがありました。私が積極的に外に出ることによって「女性が能動的に学べる大学」だという現実に気づいてくれました。 だからといって、女性が入りやすい入試など存在しません(笑)。ただ、国立大と違って私立大の場合、入試がとても多様化しています。例えば、英語では英検やTOEIC、TOEFLの成績やスコアを利用する外部試験でも受験可能な学部がいくつもあります。

 女子には国際系の学部が人気です。国際志向が大変強いからです。これは今に始まったことではなく、国際系の学部が無い時代には英文科が人気でした。

――しかし、20年に新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)して以降、女子の間でも国際系や人文系の人気に陰りが見えたのではないですか。

 コロナだからといって、国際系学部の人気が著しく落ちることはありません。直接留学ができなかったことは事実ですが、インターネットを通じての留学という形式もありました。

 コロナは学生たちの人間関係に大きく影響を与えました。サークル活動もゼミ合宿もできず、授業の多くはリモートになった。人間関係の構築ができにくく、教育効果も薄れていきました。非常にかわいそうな3年間だったと思います。

 学びながら子育てできる社会に

――先ほど、企業が変わらなければいけないという指摘がありました。政治ももっと変わらなければいけないのではありませんか。

 政治はひどいと思います。自民党の改憲草案を見ると、家庭に女性を閉じ込める価値観がいまだにあります。これでは国は変わらない。社会全体で、女性が本気で働ける社会をどう構築していくかという重大な問題に真剣に取り組まない限り、少子化は止まりません。

 21年1月に動き出した「こども庁」は、同年12月に「こども家庭庁」と名称が変更されました。政治家たちの頭の中は「国家の基本は家庭」という考えに凝り固まっているからです。選択的夫婦別姓も最初の議論から27年を経ても制度化されていません。そんな女性を縛りつける法律がなかなか改正されず、晩婚化や少子化は個人の責任のように語られてしまっています。

 大学無償化が叫ばれて久しいですね。保育から大学までの無償化は、約5兆円の予算があれば実現する。しかし、政府は防衛費倍増は積極的に進めようとしていますが、大学無償化は実現していません。そんな〝大人社会〟を10代の若者たちはしっかり見ています。教育費の負担を無くし、若くても子どもを産み育てられる仕組みを作ればいい。

 例えば、一部の大学に保育園が設置されていますが、教職員たち向けのもので、学生が産み育てられる環境にはなっていません。学生でも学びながら育児が普通にできる社会になれば、変わるはずです。

(構成/ジャーナリスト・山田厚俊)

たなか・ゆうこ

 1952年、横浜市生まれ。法政大大学院博士課程(日本文学専攻)修了。『江戸の想像力』(ちくま学芸文庫)で芸術選奨文部大臣新人賞、『江戸百夢』(ちくま文庫)で芸術選奨文部科学大臣賞、サントリー学芸賞受賞。2005年紫綬褒章受賞

「サンデー毎日5月21日号」表紙
「サンデー毎日5月21日号」表紙

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