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2023年大学入試:河合塾・駿台・東進・ベネッセ エキスパート「完全総括」座談会 女子の志願動向に変化の兆し

東京大安田講堂
東京大安田講堂

 新設相次ぐ情報系は人気継続

 2023年度大学入試(23年4月入学)は、どんな特徴があったのか。これを総括すると志願動向などから受験生が思い描く「将来像」など、さまざまなものが見えてくる。そして、24年度入試に向けて注目点は? 大学受験のエキスパートである河合塾教育研究開発本部主席研究員・近藤治氏、駿台予備学校入試情報室部長・石原賢一氏、東進ハイスクール東進コンテンツ本部教務制作部部長・島田研児氏、ベネッセコーポレーション学校カンパニー教育情報センター長・谷本祐一郎氏の4人が存分に語り尽くす。

―今回が導入3年目となった大学入学共通テスト(共通テスト)の結果から見ていきたいと思います。23年度は、前年に大きくダウンした数学ⅠA、数学ⅡBの平均点が大幅に上昇しましたね。

谷本 志願者数は51万2581人で、前年より1万7786人減少しました。特に、既卒生が5143人減の7万1642人と過去最少となりました。現役中心の入試が展開されたと言うことができます。

 23年度も理科で得点調整が行われ、生物で最大12点、化学で最大7点加点されるという結果になりました。得点調整も加味したベネッセと駿台予備学校が集計したデータネットの推定値では、5教科900点満点の予想平均点は文系が532点で前年比プラス24点、理系は551点でプラス38点と、共に上昇しています。ただ、22年度入試の平均点が大きくダウンしたことを踏まえると、21年度以前に比べて高い水準に戻ったわけではありません。基本的に各教科とも6割弱の平均点となっていることからも、前身の大学入試センター試験ほどの得点には至らず、今後もこれくらいのレベルで推移するのではないかと捉えています。

 科目別の平均点を見ると、前年低下が目立った数ⅠA、数ⅡBが大きく上昇、数ⅡBが60点を超えるというのは、01年度入試以来のことです。数学については、実際の場面を想定して、読解力や情報整理力が求められているという共通テストらしい出題でしたが、前年のように受験生に過度の負担がかかる問題でなかったことが、平均点アップにつながったと思います。

 理系で機械や電気に女子が進出

―23年度入試の学部系統別の出願状況はどのようなものでしたか。

島田 国公立大の文系は、多くの系統で志願者減となる中、唯一、経済・経営・商学系だけが前年を100とした志願者指数で104と増加しています。

 その他の系統は多くが志願者を減らしており、語学系は87、国際系も84と23年度も人気は戻っていません。一定の人気がある文・人文学系も23年度は89と志願者減少幅が大きいです。前年に志願者数を伸ばした法・政治学系については99、教員養成系も101とほぼ横ばいでした。

 国公立大の理系は、23年度もメディカル系が高人気です。医学系105、歯学系109、薬学系102といずれも志願者増です。医療技術系も109と志願者数を伸ばしていますが、看護系は97と微減です。

 前年に人気回復が見られた農・水産学系は23年度も103と増加しています。獣医人気に加え、食糧危機や食の安全などがグローバルな問題として注目度が高まっていることが、人気復活の背景にありそうです。

 理工系は、理学系が99とほぼ前年並み。東京工業大・理119、大阪公立大・理の前期が121など、志願者大幅増となった大学も見られました。工学系は97と微減ですが、東大・理Ⅰ95、東北大・工89、名古屋大・工95、大阪大・工93など、旧帝大での志願者減が目立ちました。

 情報学系は23年度も119と人気は高くなっています。注目を集めた一橋大のソーシャル・データサイエンスは前期が志願者数182人、倍率6・1倍と予想通りの人気となりました。さらに、後期は25人の募集人員に対して644人の志願者を集め、25・8倍の高倍率となりました。

 私立大の学部系統別は文系が全体的に低調で「理高文低」傾向が顕著です。文・人文学系95、語学系95、国際学系96。国公立大ではほぼ前年並みだった法・政治学系も91と志願者減。経済・経営・商学系は私立大も志願者は増えましたが、指数101で国公立大ほど伸びてはいません。教育・教員養成系も92と減少幅が大きくなっています。

 理系は国公立大と同様にメディカル系の人気が高く、医学系103、歯学系104と堅調。ただ、薬学系は98と微減、看護系は91、医療技術系も88と減少幅が大きくなっています。農・水産学系は指数103で、国公立大と同じく志願者数がアップしています。理学系は101、工学系は98で、理学系は微増、工学系はほぼ横ばいと捉えています。人気の情報学系は、私立大も105と人気を維持しています。

近藤 理系は工学系ではなく、どちらかというと理学系や農・水産学系に人気が集まっています。一方、全体としての割合はまだ少ないものの、工学系の機械や電気などに女子が進出し始めている。まだ集計段階ですが、恐らく理系の女子の割合は各大学でアップしていると思われます。

京都大
京都大

 薄れる「地方→都市」の敬遠傾向

―私立大全体の状況はどうだったでしょうか。

近藤 まず私立大は今や、入学者の6割近くは学校推薦型や総合型選抜の「年内入試」で入学しています。ですので、本来は年内入試も含めて分析したいのですが、年内入試はなかなか詳細な分析が難しい状況です。そのため年明けからの一般選抜をベースに分析していくことにします。

 4月21日現在で集計した数値によると、受験人口自体が全体で2%減少しています。これとの比較で見ていくと、私立大全体の一般選抜の志願者が前年比97%なので、受験人口の減少とほぼ連動した減少幅になっていると言えます。一般方式と共通テスト利用方式を比較してみると、前者は96に対し、後者は99で、共通テスト利用方式の方が減少幅は小さかった。

 難易度グループ別に見ると、首都圏は早慶上理(早稲田大、慶應義塾大、上智大、東京理科大)が99。MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)、成蹊大・成城大・明治学院大・國學院大・武蔵大のグループ、日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)の各グループはいずれも指数98と、ほぼ前年並み、あるいは受験人口の減少幅と同じような数値でした。これに対し、芝浦工業大、東京電機大などの「理系10大学」は103と増加しており、やはり理高文低の傾向が表れていると言えます。女子大は13大学をグルーピングしているのですが、指数93と落ち込みは大きくなっています。

 西日本に目を向けると、関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)は104、産近甲龍(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)は101で、近畿エリアでは難関私立大は堅調に志願者を集めています。一方、地方の各地区の拠点大、例えば北海道の北星学園大や北海学園大は86、愛知の南山大・愛知大・中京大・名城大は95。首都圏・近畿圏に比べ、それ以外の地域にある私立大は減少率が著しいです。

 個別に大学を見ていくと、早慶上理のグループでは、上智大が国際教養を除く全学部で共通テスト利用方式に新たに3教科型を導入。この方式の志願倍率が80倍台後半という、とてつもない数値になりました。その分、従来からある4教科型は減少していますが、トータルでは「共通テスト利用3教科型」の人気もあり、118と大幅にアップしています。慶應義塾大は99と安定した志願者を集めています。東京理科大は94と理系人気に反した減少率となっています。前年に大きく志願者を減らした先進工は志願者が戻ったものの、理工から名称変更した創域理工があまり受験生には受け入れられなかったようで、79と大きく志願者が減少したことが響いたと言えそうです。早稲田大は、共通テスト利用方式は110と増えましたが、一般方式が94と減少幅がやや大きかったため、全体は97の微減となっています。

 MARCHも大学によって増減があり、増加したのは明治大と中央大でともに105。立教大(93)、青山学院大(92)、法政大(91)の3大学は志願者を減らすというように、大学によって少し明暗が分かれる結果となりました。

 関関同立はグループ全体では増加していますが、関西大だけは98と減少しています。最も志願者が増えたのは関西学院大で115です。同志社大は109、立命館大は103と安定して志願者を集めています。

―国公立大全体の状況についてはどうでしょう。

石原 前年の入試でわずかに増えた国公立大志願者ですが、23年度は再び減少となりました。国立大は前期・後期とも減少。公立大は前期・中期が増え、後期は減となりました。共通テストの平均点がアップしましたが、前年の反動で易しくなったと言っているだけで、センター試験と比べればかなり難しい内容です。公立大前期日程の志願者数がプラスとなっているのは、一般的に公立大の目標ラインの方が低いため、成績下位層が安全志向で流れてきたものと見ています。

 地域別の志願動向は、前期で増加したのは北関東、首都圏、東海、中国で、近畿はほぼ前年並みでした。都市部で増えているのは、地方受験生の都市部への極端な敬遠傾向が緩和され、都市部の難関大に受験生が戻ってきたからと言えそうです。後期は北海道が最も増えており、募集人員が多い北海道大に受験生が流れたことが大きい。首都圏、近畿もやはり増えている。東海はほぼ前年並みなので、後期も都市部の大学を受けようという受験生が増えてきたと言えるでしょう。

 難易度グループ別では、共通テストの得点率65%未満~85%以上を5%ごとに6グループに分け、データネットのB判定(合格可能性60%)となる大学を見てみると、最も志願者が減ったのは「65%未満」のグループ。これらの大学を目指す受験層は国公立大受験を諦めたり、年内入試で別の私立大を確保していたりしていたと考えられます。一方「75%以上」はグループ全体として大きな増減はなかった。医学部医学科も含め難関大志望者は強気の出願をしたと思われます。

 旧帝大に一橋大、東京工業大、神戸大を加えた「難関10大学」で志願者が増えたのは、前期は東京工業大、一橋大、京大の3大学。東京工業大は東京医科歯科大と統合して「東京科学大」となること、24年度から総合型・学校推薦型選抜に女子枠を設けることが注目を集めました。一橋大はソーシャル・データサイエンスの新設が要因。京大は同じ京阪神地区にある大阪大、神戸大が共に減少しているので、受験生が強気だったことが見て取れます。後期は一橋大が4割増、名古屋大は倍増しています。しかし、名古屋大は医(医学科)のみの募集ですが、地域枠を一般枠に変更したことが今回、志願者の大幅増につながりました。

 東大は全体で2%減でしたが、文科類でややアップダウンがあり、理高文低の傾向になっている。文Ⅰは難関大法学部の人気の低さを反映して4%減少しています。文Ⅱは微増、文Ⅲも5%減。文Ⅲは第1段階選抜の基準を少し超えましたが、東大としては珍しく基準を緩和して第1段階選抜が実施されませんでした。理系は理Ⅰが減少し、10年ぶりに2900人を割りました。前年に志願者を増やした理Ⅱは23年度もさらに増加。農・水産系や薬学系の人気の反映でしょう。理Ⅲは今回から第1段階選抜の基準が厳しくなったことや、前年の志願者増の影響を感じさせず、ほぼ前年並みの志願者を集めました。

 国公立大の医学部(医学科)全体は、前期が873人増えて106、後期は294人増の104で、人気を維持しています。現役合格者も増えており、医学部も現役中心の入試となったと言えるでしょう。

東京工業大
東京工業大

 24年入試「18歳人口」特に少なく

―24年度入試に向け、志願動向や学部・学科の改組で注目点はありますか。

谷本 まず24年度入試に挑む受験生は(合計特殊出生率が過去最低を記録した05年生まれが中心で)18歳人口が極端に少ない年度となり、チャンスは大きいと見てよいと思います。

 学部・学科では情報系で文系からもアプローチできる形で長崎大・情報データ科学が文系型と理系型の二つの募集方式を設けます。文系からもデータサイエンスにアプローチし、よりよい社会の創造に向けて考えていくという方向性が感じられます。岡山大・医の看護学科も前期で文系・理系の2方式で入試をします。両方式とも2次試験で理科を廃止し、英語と面接のみにするなど文系、理系の双方からアプローチできるよう入試変更や科目負担減の動きも出ています。

 一般選抜では理高文低の傾向は継続していくと思われます。語学系や国際系は新型コロナウイルスの感染拡大前ほど、志望者が回復することは難しいのではないでしょうか。情報系は24年度も引き続き国公立・私立とも新設ラッシュです。しかし、多くの大学で学部・学科という形でなくても、全学共通の教養科目としてデータサイエンスを学ぶという流れも見られるようになっているので、飽和状態に近づいていくのではないかと見ています。

島田 千葉大の情報・データサイエンスや宇都宮大のデータサイエンス経営、熊本大の情報融合など学部・学科の新設もあり、24年度も情報系人気は衰えないと見ています。さらに理工系の女子への門戸拡大もあり、農・水産学系を含めた理系人気は継続すると予想しています。また、順天堂大に薬、大阪歯科大に看護が新設され、久留米大も医に医療検査学科を設けます。このように私立大ではメディカル系の領域を広げていく動きも見られます。

石原 当面、医学部の人気が続くことは間違いないでしょう。まだ、理系上位層に対して医学部に代わるところはないからです。

 大学から「近づいてきてくれる」

近藤 受験人口の推移を見ても、大学入試は年を追うごとに易しくなることは疑いないところです。先輩よりも自分たちの世代の方が第1志望に近づける、大学の方から近づいてきてくれるということを、まず認識してほしいです。

 国際系や語学系は3年連続で約2割の志願減となっています。そろそろ下げ止まってもおかしくない。なぜなら、各大学とも非常に入りやすくなっているからです。確かに、まだ留学できないかもしれないなどのデメリットもあるかもしれません。しかし、そうそうたる大学が以前に比べれば入りやすくなっており、グローバルや外国語を学ぶことは必ず将来にプラスに働くはずです。期待も込めて復活を望みたいです。

 ピンポイントでは東京工業大ですね。女子枠に挑む受験生がどれぐらいいるのかに注目しています。

石原 今後はクリエーティブな学部・学科が伸びていくと考えています。近年、芸術系志望者が増えつつあり、23年度も国公立大が対前年比指数104、私立大が103です。無から有を生むようなことのベースとなる基礎的な思考力、表現力を磨くことのできる大学が生き残ると思います。この点が昭和・平成の大学の選び方から大きく変わるターニングポイントになっていくと思っています。

 新設はお茶の水女子大・共創工がどうなるか。東京海洋大は英語外部試験必須を取りやめます。入試に英語外部試験を取り入れる動きは過熱気味でしたが、少し熱が冷めてきたような気がします。「勇気ある撤退」ではないでしょうか。

近藤 最近のトレンドとして、文系のイメージの強い私立大が理工系学部を新設する動きが目立つようになっています。来年度も麗澤大に工、明治学院大に情報数理、金沢学院大に情報工がそれぞれ新設される予定です。大学も特定の偏った分野だけでなく、文理にまたがった学部構成にしていく必要があるという判断なのかもしれません。どうなるのか注目してます。

石原 24年度入試は共通テスト4年目となります。過去の共通1次試験やセンター試験の立ち上げ時を振り返ってみると、実施3年目くらいの難易度で推移していくので、今後は対策が立てやすいと思います。受験生は慌てることなく、腰を落ち着けて勉強に取り組んでほしいですね。

 それとともに、コロナ禍が続き、ウクライナ紛争をはじめとして世界の情勢も不安定になっている中、先行きを見通すことは非常に難しいです。だからこそ受験生には、今の時点で自分の好きなことに取り組んでほしい。そのためには、どの大学が最適なのかを考えながら、志望校を決めていくことを大切してほしいです。

 6月14日発売予定の「サンデー毎日増刊 2023年度版 大学入試全記録」では、座談会の模様を、さらに詳しくお伝えします。

「サンデー毎日5月28日・6月4日合併号」表紙
「サンデー毎日5月28日・6月4日合併号」表紙

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