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田原総一朗が迫る「ココがダメなんだ」 立憲民主党の泉代表とガチンコ激論!
倉重篤郎のニュース最前線
野党第一党としての存在感を維新に奪われた感のある立憲民主党。「それはメディアが作り上げた物語にすぎない」と語る泉健太代表に、田原総一朗が容赦なく突っ込んだ。怒号すら飛び交う白熱討論のなかから、立憲の現在とビジョンが見えてくる――。
田原「万年野党になる気か」
泉「中道リベラルのビジョンを見せる」
立憲民主党は一体どうなっているのか。先の統一地方選では、総議席は増やし、国政5補選でも接戦を繰り広げたものの、その後は維新「躍進」の陰に隠れ、野党第1党としての存在感が伝わってこない。直近世論調査でも、政党支持率では立憲9%、維新17%、「野党第1党としてどちらがふさわしいか」との設問には立憲25%、維新47%だった(5月20・21日、毎日新聞実施)。解散風がどこに落ち着くかは別にして、中道リベラルの雄として打倒自公政権を呼号してきた立憲にとっては由々しき事態ではなかろうか。
当欄では、安倍晋三政権以来の二つの基軸政策、つまり、外交・安保政策では外交なき軍事抑止力至上主義、経済・財政政策では出口なき異次元金融緩和の泥沼化がいずれ行き詰まり、その時には二つの政策に取って代わるオルタナティブ(包括的代案)を持った政治勢力がその受け皿的役割を果たすだろう、果たしてほしい、という楽観的見通しを基調に、その政治勢力の中軸に立憲を想定し、さまざまなことを論じてきた。
だが、ここに一つの疑問が生じている。果たして立憲という政党がその任に堪えられるのかどうかである。ジャーナリストの田原総一朗氏が立憲代表・泉健太氏に迫る。
田原 維新躍進なぜ?
泉 全国発展途上の維新は白地の選挙区が多く、地方では票が増える「伸びしろボーナス」がある局面だ。恐らく(目標にした)600議席は見えている数字だった。メディアの問題もあると思う。国政補選で維新が1勝4敗とはどこも書かない。現段階では、タケノコのように伸びる維新の成長を盛り立てるという機運があるのではないか。
田原 作られたイメージ?
泉 残念ながら、僕らはメディアの大きなストーリーの中にある。例えば今回の統一地方選で立憲は全国トータルで議席を伸ばしたにもかかわらず、ネガティブに書かれる。「立憲は伸ばしたものの……」と。
田原 僕はもっと単純に見ている。同じ野党でも立憲は共産と組み左翼と思われ、右の維新に票が流れた。
泉 それもある。旧立憲は結党の2017年のイメージは左派だから、20年に旧国民民主と合流してできた新立憲の中道リベラル政党としての認知がまだ不十分だという面がある。
田原 17年に立ち戻ると、僕は旧立憲を立ち上げた枝野幸男さんに同情している。枝野さんも前原誠司さんも一緒でよかったのが、希望の党を作る際に小池百合子さんが枝野さんを排除、その枝野さんが党を作ったら第1党になってしまった。基本戦略がないままにだ。
泉 枝野さんは旧立憲ができた時、時間をかけて新党を作り上げると言っていた。でも野党第1党に対し、世の中が政権交代選挙をやらないことを許さなかった。合流に次ぐ合流という選択をせざるを得なかった。この数年で枝野さんがそこにまでたどり着いたことは凄(すご)い。他の政治家ではなかなかできない。ただ、その先の最後の一手ともいえる(共産党との)閣外からの協力という合意は、残念ながら国民にプラスのメッセージとしては届かなかった。
田原 21年10月の衆院選だ。「立憲共産党」と批判され敗北、泉代表になった。
泉 そこからの再生は時間がかかると思った。議席減のダメージが大きかったことと、国民民主の離脱など野党共闘の構図が壊れたためだ。世間から求められているものと我々の戦い方にズレが生じていた。どこと組めば何万票という発想になっては、比例は立憲と言えず、自分たちの政策が隠れてしまう。まずは国民に立憲の綱領と政策を伝える。そこからの再生だった。
維新に煽られた立憲、再興は可能か?
田原 22年参院選は共産党との野党共闘が後退した。泉 国民民主と維新以外の党による野党共闘では、国民には中道リベラルとは見られない。
田原 路線へのこだわりもいいが、大きな政策を出すべきだ。それが見えない。
泉 僕はまさにそこを変えようとしている。教育の無償化など人への投資、雇用環境の改善による所得向上、新技術による成長などを前面に戦うべきだ。国会審議もスキャンダルが出てくると政策論が脇に置かれてしまう。立憲が何をしたい党なのかわからなくなる。
田原 スキャンダルをやるとメディアが取り上げる。
泉 いかにメディアに乗るか、だけを考えるのではなく、立憲としてやりたいこと、やらねばいけないことを訴えるべきだ。
田原 泉体制の成果は?
泉 党においては「女性の参画」だ。執行部内の女性比率を上げ、22年参院選では候補者も当選者も女性が5割になった。今後党を変えていく力になるだろう。まだできていないのは党内改革だ。立憲を前向きな政策提案の党に変えることだ。
田原 批判さえしていればいいというイメージがある。
泉 政権監視が野党第1党の役割だと自負してきた結果だ。間違いではないが、見せ方、見え方が変わっている時代に、国民の意識の変化の波に乗れず、旧来型の批判を繰り広げているとみられている。ここは改革しなければならない。
田原 統一選の総括は?
泉 2月の党大会で、若手議員(45歳以下)を50人に増やすという目標を立て90人が当選した。女性議員は60人増えた。国政補選は全敗だが相当与党候補を追い込み接戦となった。全然負けてはいない。もう一つは、カウントするつもりはないが、民進党が壊れて以降は無所属で活動している仲間も多い。そういう議員も含め仲間は広がっているトレンドにある。立憲の反転攻勢は既に始まっている。そのように見たいし、それはやれると思っている。
田原 泉さんそれは違う!
泉 違いません。
田原 統一選までは立憲は断然野党第1党で、はっきりいえば気が緩んでいた。今回維新にやられて、少なくとも泉さんの気は引き締まったのではないか。だからこそ、「150議席」という次期衆院選の議席獲得目標も泉さんの口から出てきた(5月10日の両院議員懇談会で)。
泉 それはかならず達成します。本来の意味での中道リベラルが立ち上がればこの数字は不可能ではない。
田原 言わされた感じ?
泉 ではない。あの場で言ってむしろ驚かれた。でもそれくらい一つ一つの答えを出し、党全体が前に向かっていかねばならない。今はそういう局面だ。前に向かって闘っていかねば、敗北感ばかりでは何も変わらない。まさに田原さんが言ったように私はやる気だ。もちろんやる気は前からあるが、ここは明確に変わるチャンスだと思っている。
田原 いいことだ。やる気になり、さあ何をやるか。国民に何を示すかが大事だ。
泉 外交も安保も経済もある程度、継続性が必要だ。何でも急激に転換するものではない。まず変えるべきは予算のバランスだ。
田原 どういうこと?
泉 今の国難は少子化であり教育力の低下だ。国家予算は教育分野を徹底的に増やさなければならない。そして少子化を反転させる。
問題意識のある自民議員を誘い込め
田原 日本経済どう再生?
泉 立憲は国民の活力を最も引き出せる「人」に着目している政党だ。日本経済はバブル崩壊後、新自由主義政策により格差が拡大、一部の勝ち組と同時に、非正規を含めて大量の負け組、伸び悩み組を作ってしまった。女性や外国人やLGBTなど生きづらさを抱えたり、能力を発揮しにくい人が増えれば増えるほど、社会の活力も落ち、成長も望めないことになる。そこを抜本的に変える政策を一番前に進められるのが立憲だと言いたい。
田原 外交・安保政策は?広島サミットはどう評価?
泉 広島開催の意義はあったが、ゼレンスキー大統領来日で、核軍縮というテーマがかすみ、ウクライナ支援で新しい東西対立という局面に変わってしまった。
田原 西側が結束を誇示した。
泉 衆院予算委で岸田首相に対し「被爆者が失望している。せめて広島ビジョン具体化のために行動すべきだ」と核兵器禁止条約会議へのオブザーバー参加を提唱したが「核保有国が一つも入ってない」と前向きな答えは返ってこなかった。
田原 ドイツはオブザーバー参加している。
泉 唯一の被爆国として情けない態度だ。オブザーバー参加で核保有国と非保有国の両方をつなぐ役回りを果たせる。各国首脳が反発するとは僕には思えない。
田原 岸田さん何恐れる?
泉 米国の拡大抑止政策、核の傘に変化が出るのが怖い。かつてオバマ政権が核の先制不使用を言い出した時に英仏日が反対した。英仏はまだしも何で被爆国が反対するのかという話だ。
田原 それは日本側の全くの勘違いだ。米国は日本に核を持たせないために核の傘を提供している。何を怖がっているんだと思う。
泉 核の傘の抑止力を否定するわけではないが、ウクライナ戦争を見ていると、核保有国だからといって通常兵力による戦争を防げるか、というと難しい。それに加えて、日本という被爆国が核攻撃された時、米国に対し、反撃の核を撃ってくれと果たして言えるのかという疑問も僕にはある。
田原 世界の多くの国が、核を持っていたら戦争が起きないと思い込んでいた。
泉 核は戦争を起こさせない最終兵器にはなり得ない。対抗兵器になるかもわからない。だからこそ核兵器禁止条約に日本が関わることが大事で、核の傘という呪縛について被爆国として考え抜かなければならない。今までのような単純計算は成立しなくなっている。
田原 5年間で43兆円と言う防衛費倍増問題も聞きたい。背景には、米国が世界の警官の役回りを継続できず日本に協力を求めてきたことがある。協力するからには、日本も米国に言うべきは言う。一番言うべきは、日米地位協定の改定だ。日米合同委で決めたことは首相でも変えられない。
泉 地位協定改定は、何度も主張してきた。在日米軍基地がコロナの感染源になった時も、有機フッ素化合物(PFAS)による基地周辺汚染の時も、健康・環境問題からでもいいから、と言ってきたが、自民党も外務、防衛両省も変えようという気は全く見られない。
田原 岸田さんにその発想はない。ただ、岸田は駄目だと言うのでは万年野党だ。問題意識のある自民党議員を誘い込まなければ。
泉 自民党安保族における地位協定の位置付けが低すぎる。沖縄の人たちの人権を考えた対米交渉は全くできていない。我々がやるとしたらその視点を持ちたい。ただ、今回の防衛費倍増と地位協定をトレードするわけにはいかない。日本の自衛隊の現状を鑑みて、5年で43兆円ではなく、もっと落ち着いた防衛力整備をしろというのが条件闘争だ。
立憲アイデンティティーの確立が先決
田原 包括的代案は?
泉 防衛費だけを急激に増やし過ぎている。子育て、教育予算をちゃんと増やさなければそれこそ国の安全が危うい。
田原 そんなくだらないことを言ってるんじゃない!
泉 くだらなくない! 大事なことだ。
田原 なぜくだらないか。今は日本の安全保障政策の重大な転機で、防衛自体への深い思考が必要だからだ。それが全然見えない。対米全面依存が一転、日本が主体性を持たざるを得ない局面だ。自民党は対米依存から抜けられない。フリーハンドの泉さんたちがそこを考えないと、下手すると危険なことになる。
泉 その認識はある。だから日本の防衛力は整備する。だが好戦的になってはいけないし抑制的でなければいけない。そこは程度の問題になるかもしれないが、立憲は国民の平和と戦争をしないことに責任を持つことをもっと訴えていきたい。
田原 解散風はどう?
泉 いま自公内でもブレーキがかかっている。水をかけておさまるのか、燎原(りょうげん)の火へと広がるのか。我々としてはともかく準備を急ぐ。田原 野党共闘どうする?
泉 どの党と言える状況ではない。それくらい立憲は自らの政策アイデンティティーを国民に伝えねばならない。こちらのほうが先だ。
田原 地域別に事情がある。
泉 私は本部として大方針を示すし、政党同士の関係性でいえば、党本部の考え方に抵触する協定を結ぶことはできない。だが、それぞれの地域で政党同士や政治家同士が様々なやり取りをすることに党本部が全て目くじらをたてるものではない。集会などで政策を共通で訴えることもあるだろうし、様々な形で信頼関係が深まる地域もあるだろう。そこは政治だと思う。
◇ ◇
立憲とは何者か。まずは政党としてのアイデンティティーを固め、世に知ってもらう、との泉戦略。理解できる。野党共闘ありきではない。中道リベラルに分厚い世のニーズがあることも事実だろう。ただ、いつまでも自分探しをしている余裕もない。基軸政策の代案作りも待ったなしである。
たはら・そういちろう
1934年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。タブーに踏み込む数々の取材を敢行し、テレビジャーナリズムの新たな領域を切り開いてきた。著書に『堂々と老いる』『さらば総理』ほか
いずみ・けんた
1974年北海道生まれ。立憲民主党代表。民進党組織委員長、希望の党国対委員長、国民民主党国対委員長、同政調会長、立憲民主党政調会長などを歴任。中道リベラルの政策提案型野党を目指す
くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員