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2023年大学入試:「リーガル女子」台頭の理由 東大は文Ⅰで3割突破 早慶・明治・中央は女子校が首位

法学部が移転した中央大の茗荷谷キャンパス
法学部が移転した中央大の茗荷谷キャンパス

〝リーガル女子〟の時代到来か? 2023年度の大学入試(23年4月入学)で難関私立大の法学部合格者の出身校を見ると、女子校が上位にきているのが目立ち、法学部への入学者は女子が男子を上回る大学も出始めている。今、女子の意識がどう変わっているのか。

 首都圏の難関私立大である早稲田大、慶應義塾大、明治大、青山学院大、立教大、中央大の6大学には、23年度入試である共通点がある。本誌と大学通信の調べでは、各大学の法学部の合格者数の高校別ランキングで23年度は、女子校が首位に立った点だ。

 ちなみに各大学の法学部トップの女子校の顔ぶれは次の通りだ。早稲田=桜蔭(東京、合格者31人)▽慶應=頌栄女子学院(東京、31人)▽明治=浦和第一女子(埼玉、34人)▽青山学院=フェリス女学院、洗足学園(ともに神奈川、12人)▽立教=頌栄女子学院(36人)▽中央=豊島岡女子学園(東京、43人)。過去5年で見れば、慶應は全て頌栄女子学院が首位だが、明治は前年の首位が男子校の浦和・県立(埼玉)。中央は浦和・県立と学芸大付(東京)で、これらから女子校がトップの座を奪った形になった。

 そこで本誌は6大学に23年度入試の法学部合格者の女子の割合を聞いた。表にある通り、回答の仕方は合格者の割合だったり、入学者の割合だったり、立教のように23年度の割合と過去5年の平均を回答したケースもあった。

 そして早稲田、明治、青山学院、中央は合格者・入学者の女子割合が過去5年で最多になった。立教も過去5年の平均より23年度が上回っている。法学部といっても、特に政治学については学部編成の在り方に差がある。早稲田と明治は別に政治経済学部があるが、慶應や中央は法学部に政治学科がある。しかし、法学部に女子が進出しているのは確かなようだ。

 また、この現象は幅広い大学で進んでいる。23年度入試で女子の合格割合が過去最高になり、大学全体では「2割の壁」を突破した東大は、法学部に当たる文科Ⅰ類の女子合格割合が30・5%。過去5年で最高であるとともに「3割の壁」も超えた。一方、取材に協力いただいた近畿大も23年度入試で法学部の女子合格割合は31・6%で過去5年で最高だった。

明治大の駿河台キャンパス
明治大の駿河台キャンパス

〝ロンキャリ志向〟の急増が要因

 では、法学部の女子の進出の要因をどう見ているか。中央大は今春、法学部が東京都八王子市の多摩キャンパスから、同文京区の茗荷谷に移転した。司法試験の合格率の高さも含め、「看板学部」の都心回帰は注目も浴びたが、「女子の法学部志向に加えて、本学の場合は茗荷谷キャンパスに移転し、首都圏の学生にとって交通の利便性を含めた本学法学部の魅力を訴求できたことが要因と思われます」(入試課)としている。また、明治大は「法学部の卒業生は法曹界に限らず、公務員を含めてさまざまな業界で活躍しています。各業種に進んだ多くの女子卒業生が活躍していることも、受験生からの評価につながっていると思われます」(広報課)と分析する。

 メディアでは理系女子、「リケジョ」が注目されて久しい。だが、ここまで法学志向の女子が増えたとなると〝リーガル(法学)女子〟と呼べるのではないだろうか。ただ、リクルート進学総研の小林浩所長は「この傾向は今に始まったわけではない」と語る。

「15年に弊社が発表したトレンド予測で、進学領域における新たな傾向として『ロンキャリ女子』という名称で提示しました。ロンキャリとはロングキャリアのことです。調査して分かったことは『仕事か家庭か』ではなく『仕事も家庭も』諦めない女子高生たちの姿でした」(小林氏)

 小林氏によると、これまでの女性の多くは結婚・出産したら仕事を辞め、専業主婦になりたい〝寿女子〟が多かった。そのため短大や人文系、家政系の学部に進学し、就職するパターンが多かったという。だが14年の調査で女子高生たちは「専業主婦になりたい」が27・3%であるのに対し、「結婚・出産しても働き続けたい」が倍以上の59・9%、約6割に達していた。

 この意識の変化の背景にある社会状況の変化を小林氏はこう解説する。

「母親世代の就業経験が挙げられます。1986年に男女雇用機会均等法、92年に育児休業法が施行しました。でも、相変わらず女性は仕事か家庭かの2択しかなかった。ところが、96年になると共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回る。母親が働くことが子どもにとって身近になったのです。加えて、政府主導の女性活躍の推進、大学での女性キャリア支援制度の整備が進んでいった。そのため、仕事も家庭も諦めない人生を形成していきたいと考える女子高生が増えたのです」

 さらに、小林氏は大学入学者の学問分野の分析も実施。文部科学省の学校基本調査を基に、女子の入学者シェアを「人文科学」「社会科学」「理学」「工学」「農学」「保健」「家政」「教育」「芸術」の9分野で2005年と14年で比較した。すると「社会科学」「工学」「農学」「保健」の4分野で女子の入学者が3ポイント以上増加していることが分かった。法学部は社会科学に属する学部で〝リーガル女子〟の増加につながっていたのだろうと読む。

 しかも就職に目を向けると、コロナ禍で飲食業や旅行業が敬遠されがちで、地方公務員など安定した職業が人気となっている。資格取得を含め「つぶしが利く」学部の代名詞だった法学部。女子の進出は仕事も家庭も諦めず、自立して確実に人生を描いていく、女性の増加を示しているようだ。

ジャーナリスト・山田厚俊

「サンデー毎日6月25日号」表紙
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