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7.14開幕 都市対抗野球 史上初?なんと東大野球部OBが4人出場 

2020年の都市対抗野球の1回戦で、横浜市・ENEOSを相手に中前打を放つ名古屋市・東邦ガスの飯田裕太
2020年の都市対抗野球の1回戦で、横浜市・ENEOSを相手に中前打を放つ名古屋市・東邦ガスの飯田裕太
2019年の都市対抗野球で東京ドームの大型ビジョンに映し出された飯田裕太のプロフィル
2019年の都市対抗野球で東京ドームの大型ビジョンに映し出された飯田裕太のプロフィル

 一体、どういうことなのか

 社会人野球の祭典・都市対抗野球が7月14日、開幕する。その登録選手に今回は4人も東大硬式野球部出身者が名を連ねているのだ。「過去最高では」と色めき立つOB。大活躍した先達もいるが、その〝躍進〟の背景を探ると、今の若者が見えてくる。

 全国の予選を勝ち抜いた32チームが集い、社会人野球の頂点を争う「真夏の球宴」は、東京ドームで7月14~25日に行われる。出場選手に登録されたメンバーを見ると、今年は東大硬式野球部(以下、野球部)出身者が4人いる。北から見れば次の通りとなる(かっこ内は出身高、丸数字は社会人野球の年数)。

 宮﨑湧外野手=さいたま市・日本通運(東京・開成)①

 松岡泰希捕手=東京都・明治安田生命(東京・東京都市大付)①

 井上慶秀内野手=岡崎市・三菱自動車岡崎(長野・長野)②

 井澤駿介投手=大阪市・NTT西日本(北海道・札幌南)①

「都市対抗に東大OBが4人も出るのは史上初じゃないか」

 こう語るのは、東大野球部OBで、大学時代は投手として8勝を挙げた西山明彦さん(68)だ。社会人になっても神奈川のクラブチーム・横浜金港クラブでプレー。日本航空などに勤務し、関西外国語大の野球部監督も務めた。少年野球の指導歴も20年あまりで長年、アマチュア球界に携わり、現在は東京六大学野球連盟の常務理事だ。

 今回で94回目になる都市対抗野球だが、残念ながら「各大会に出場した東大野球部OB数」という明確なデータはない。ただ、1978年に経済学部を卒業した西山さんは振り返る。

「私らの世代は2人が都市対抗に出ました。でも、社会人野球の最高峰の舞台に1大会で4人はさすがに思い当たりません。ただ、近年は卒業後も就職先で野球を続けたり、野球と携わる仕事を選んだりする選手は多いです」

東大安田講堂
東大安田講堂

 都市対抗で最も活躍した東大OBといえば、70年の橘谷健投手だろう。川崎重工の所属ながら神戸市・三菱重工神戸の補強選手として出場し、富士市・大昭和製紙との決勝では、互いに途中登板した安田猛と投げ合って延長十四回引き分け。再試合でチームは敗れたが、橘谷は久慈賞(敢闘賞)に選ばれた。なお、安田はその後にプロ野球のヤクルトに入団してエースとなる。

 東大は東京六大学野球に所属するが、今春リーグ戦は50季連続の最下位と苦しんでいる。だが、野球を続ける選手は増えている。

「4人は確かに東大では最多かもしれません。ただ、自分も含め、もっと増えていた可能性はあります」

 こう語るのは、名古屋市の東邦ガスに所属する飯田裕太内野手(30)だ。チームは今回、東海2次予選で敗れて7年連続の本大会出場を逃した。一方、飯田自身は2016年に入社し、19、20年は東邦ガスのレギュラーで活躍し、東京ドームでも戦った。

 飯田は高校時代、今春入試でも11人の東大合格者を出した進学校、愛知・刈谷で2番・二塁手だった。09年の全国高校野球選手権は愛知大会で、その後に夏の甲子園を制する中京大中京に0―5で敗れたが、決勝まで進んだ。1浪で理科Ⅰ類に合格して農学部に進み、野球部では1年からレギュラーで、最後は主将だった。2学年下には投手で18年にドラフト7位で日本ハムに入団し、ヤクルトを経て昨季限りで引退した宮台康平(28)がいた。

 東邦ガスに入社した理由を飯田はこう語る。

「地元の愛知の企業で、野球を継続できる環境だったので入社をしました」

 こうも付け加えた。

「近年、社会人野球の強豪で野球を継続する選手が増えています。昨春の卒業生なら2人、今春なら3人。それに私も加えれば、6人が都市対抗に出ていた可能性がありました」 ただ、本大会に登録された今回の4選手は出場機会に恵まれているとは言えない。2次予選で出場があったのは井上だけで、5試合中2試合に出場して1打数無安打1打点だった。飯田のようにレギュラーを勝ち取った選手は見当たらない。ただ、飯田自身は社会人野球に挑む後輩たちに、次のようにエールを送る。

「自分も出場機会が得られるようになったのは3年目からでした。それまでは特に打撃のほうで持ち味を出せなかった。しかし、レベルの高い社会人野球で鍛えてもらう中、1~2年で自分のバッティングを出せるようになりました。後輩たちも発展途上。まだまだ頑張ってほしいですね」

 変わる「キャリアプラン」の象徴

 昨秋のドラフト会議に向けては東大野球部からは2選手がプロ志望届を出していた。結局、プロからの指名はなかったが、もし指名を受けていたら、グローバル企業への内定を辞退してプロの道を選ぶ覚悟だった選手もいたという。また、今春卒まで2年連続で独立リーグに挑んだ選手も出ている。昨春卒には大手企業の内定を辞退し、プロ野球・ソフトバンクで、データを分析するアナリストになった選手もいた。

 冒頭の西山さんは、現在の選手たちをこう評す。

「自分たちの時代では考えられなかったような進路を選ぶ選手が増えています。むしろ若いうちにしかできない経験をし、その経験をキャリアに生かそうという学生が増えているように感じます。日本で終身雇用制が消えていく中、大企業に就職できても、その後はどうなるか分からない。それは東大生に限ったことではないのかもしれません」

 かつてはエリート官僚の「養成機関」とも言われた東大だが、今春の国家公務員総合職試験では合格者が初めて200人を切った。東大生の進路も多様化しているようだ。難易度最難関の大学野球部の社会人球界での“躍進”は東大生、ひいては若者のキャリアプランの変容を象徴しているのかもしれない。

(本誌・飯山太郎)

「サンデー毎日7月23・30日合併号」表紙
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