週刊エコノミスト Online サンデー毎日
2023年大学入試:全国79進学校、海外名門大合格実績 コロナ禍も高まる進学意欲、海外の名門に強い学校は?
コロナ禍で停滞していた海外との交流が活発化している。グローバル教育への関心の高まりもあって、国際的な環境へ飛び出すためのルートは多様化の一途をたどる。児童・生徒がこれから海外で学ぶための選択肢を探ってみた。
多くの大学が今年度から、海外留学に関する制限を解除。オンライン留学だけでなく、実際に異文化の中で学ぶ機会が戻ってきた。
一時的な小休止を挟んだものの、グローバル化が今後も加速度的に進行していくのは間違いない。コロナ禍で志願者を減らした国際系学部の新設が、多くの大学で続いているのはその証左だろう。2024年度には、実践女子大・国際や大阪経済大・国際共創、甲南大・グローバル教養、ノートルダム清心女子大・国際文化などの開設が予定されている。
近年は大学よりも早い段階で〝グローバル〟を意識する機会も増えている。小学校では20年度から英語教育が必修化。中学、高校においても、世界共通のカリキュラムでグローバルに生きるためのスキルを育成する「IB(国際バカロレア)校」の設置が進む。日本の高校の卒業資格と合わせて、国際的な大学入学資格が取得可能な「DP(ディプロマプログラム)認定校」は、23年3月末時点で44校。仙台二華(宮城)、横浜国際(神奈川)、水都国際(大阪)、広島叡智学園(広島)など、公立のIB校も増えている。また、文化学園大杉並(東京)や大阪学芸(大阪)のように、日本と海外、両方の国の卒業資格を得られる「ダブルディプロマ制」が選択可能な学校も出てきている。
グローバルな環境で学んだ生徒は、自然と国内と海外の大学を比較して進学先を選ぶようになる。それでは、海外大進学に強い学校はどこなのか。本誌と大学通信は、全国の高校を対象にアンケート調査を実施。「全国79進学校 海外名門大合格実績」で、海外の名門大と、日本の東大、京大、早稲田大、慶應義塾大の合格状況を一覧にまとめた。
海外大合格者数トップは、3年連続となる148人の広尾学園(東京)。中学3年間で英語力の土台を作り、高校では帰国生と同じクラスで主要科目を英語で学ぶことで、日本で育った生徒も海外大を目指せる学校だ。海外大の見学ツアーや学内でのカレッジフェアなど、海外大を知る機会も多い。
2位は119人の茗溪学園(茨城)。その後は▽73人の北豊島(東京)▽58人の立命館宇治(京都)▽53人の国際(東京)と三田国際学園(東京)▽43人の学芸大付国際中教(東京)▽42人のN(沖縄)―と続く。
これらに次ぐ37人が合格した白鵬女子(神奈川)は、22年に「グローバルアドバンスコース」を開設。海外大の合格者数が昨年の15人から、今年は37人と約2・5倍に増加した。玉川匡彦校長は背景として、担任を全員ネーティブ教員にしてホームルームを英語で実施するなど、異文化の中で学べる環境を作ってきた点を挙げる。
「多くの留学生が一緒に学ぶほか、横浜という立地から外国にルーツを持つ生徒も多く、教室や職員室で英語が飛び交っています。日常的に英語に触れるので、自(おの)ずと海外大も視野に入ってくるのです」
1年間の海外留学制度を用意するなど、多様な経験や、やりたいことの追求を学校が後押し。留学から帰った生徒同士が刺激し合う好循環も合格者増につながった。
受験生が海外大進学を目指すのは、日本の大学に比べて評価の高い大学が海外に多数あることも一因だろう。英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)発表の「23年版世界大学ランキング」を見てほしい。トップは昨年に引き続きオックスフォード大。2位にハーバード大、3位にはケンブリッジ大とスタンフォード大が入った。教育ジャーナリストの小林哲夫さんはランキング上位のうち、スタンフォード大やカリフォルニア工科大など米西海岸の大学に注目する。
「シリコンバレーがあるので、IT人材や起業家が集まります。自然科学系分野の研究に強い大学が多く、ノーベル賞受賞者も多数いるので、今後も順位を上げてくる可能性があります」
海外進学にも広がる民間資金での奨学金
日本の大学でトップ100に入ったのは39位の東大と68位の京大だが、いずれも昨年から順位を下げた。ちなみにアジアのトップは16位の清華大。2位は17位の北京大で、いずれも中国の大学だ。トップ100に入った大学数でも中国はアジア1位(7大学)。2位は5大学の香港で、3位は3大学の韓国。日本は2大学で、シンガポールと同数の4位だった。
評価項目を詳しく見ると、日本の大学は「論文の引用数」と「国際性」の面で海外の大学に比べて著しく評価が低い。日本を牽引(けんいん)してきた世界トップレベルの研究者の退職による研究力の低下や、国際的な人材獲得競争など、大学を取り巻く課題が垣間見える。
日本の大学の国際的な評価が低迷する中で、優秀な生徒の中には海外トップ大を目指す動きも見られる。今春、世界大学ランキング上位15校に合格者を輩出したのは、立命館慶祥(北海道)、渋谷教育学園幕張(千葉)、国際、日比谷、開成、渋谷教育学園渋谷、女子学院、広尾学園、武蔵(いずれも東京)、立命館宇治。公立校は帰国生や外国人が多い国際と、東京のトップ校である日比谷のみで、大半は私立校だ。
世界のトップ大学で学ぶためには、飛び抜けた能力や才能が求められるのはもちろん、費用面のハードルをクリアする必要もある。海外大は日本の大学よりも学費が高く、インフレや円安も重荷に。留学費用は一般家庭が負担するのは難しい水準に達している。
それでも、優秀な人材が学びを諦めることがないように、民間資金による奨学金制度が日本でも少しずつ増えている。大企業創業者が設立した「孫正義育英財団」や「柳井正財団」は、選考を突破できれば返済不要の支援金が年間1000万円近く給付される。近年は地方公立校からの受給者も増えているという。また、海外の大学では、各大学が用意する給付型の奨学金も充実している。競争は厳しいものの、海外で学ぶための選択肢は用意されているのだ。
海外の情報がインターネット経由で入手できるようになり、地方と都会の情報格差は確実に縮まった。それでも、海外大志望者や海外大をよく知る先生が身近にいる受験生との差は大きい。一般的な高校に通う生徒が海外大を目指すにはどうすればいいのか。前出の小林さんは言う。
「オンラインの海外大進学予備校もあるので、まずは出願にあたっての活動実績の準備や心構え、お金のことなどを聞いてみましょう。海外大の日本事務所やアドミッションセンターに相談してみることや、SNSで海外大の学生に直接話を聞いてみるのも一案です」
選択肢が増えたとはいえ、受験生の大半が海外大を目指すことは今後も考えにくい。海外で学ぶための一般的な近道は、日本の各大学が用意する交換留学制度の活用に変わりはないだろう。渡航費や生活費は必要なものの、留学先の学費負担はなく、公的な奨学金制度も充実。比較的少ない負担で学ぶことができる。留学の条件や費用面は大学によって大きく異なるので、志望校の制度を入学前に確認しておきたいところだ。
オンラインの発展でグローバルな環境が身近になったとはいえ、海外でしかできない学びや経験は確かにある。海外へ飛び出す第一歩として、自分に合った高校、大学や、使える制度を探してみてほしい。