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ドコモがマネックス子会社化で証券参入 通信事業者の主戦場が金融に 石川温

資本業務提携を発表した記者会見に出席したNTTドコモの井伊基之社長(左から2人目)とマネックスグループの清明祐子社長(右端)ら 筆者撮影
資本業務提携を発表した記者会見に出席したNTTドコモの井伊基之社長(左から2人目)とマネックスグループの清明祐子社長(右端)ら 筆者撮影

 NTTドコモは10月4日、インターネット証券のマネックスグループと資本業務提携したと発表した。傘下のマネックス証券は2024年1月、ドコモの連結子会社になる。ドコモが証券事業に本格参入する背景には、キャリア(携帯通信事業者)間の競争の場が、金融を軸とした「経済圏」に拡大していることが挙げられる。

 銀行や証券会社を子会社に持つ楽天グループは20年、携帯電話事業に参入した。KDDIは19年、auじぶん銀行やauカブコム証券を傘下に持つauフィナンシャルホールディングスを設立。ソフトバンクはスマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」の6000万人を超すユーザーを、PayPay銀行やPayPay証券に誘導しようと対策を強めている。

 一方、ドコモは銀行や証券会社と距離を置いてきた。その一因は20年、プリペイド型のバーチャル口座サービス「ドコモ口座」を巡る不正利用事件が発生し、社会的な信用を失墜させたことだ。ドコモ幹部は事件後、「不正利用事件で手痛い目に遭った。ユーザーの資産をドコモブランドで預かることに抵抗がある」と説明していた。

 転機は岸田政権が22年11月に策定した「資産所得倍増プラン」だった。NISA(少額投資非課税制度)を大幅拡充し、国民の資産を預金から投資に誘導する政策だ。KDDIは24年1月に始まる新NISAを狙って今年9月、新料金プラン「auマネ活プラン」を始めた。ユーザーが傘下証券会社の口座で投資し、支払いに傘下クレジットカードを使うよう促すため、ポイントの還元率を上げるなどの特典を付与する。

1000万口座狙う

 新NISA口座を別の証券会社に変更する手続きは煩雑だ。ところが、キャリアを変更する手続きは以前より簡単になった。政府の方針を受け、キャリア各社が中途解約者から徴収した違約金や契約解除時の手数料を撤廃したからだ。ユーザーの流出を防ぐには、自社系列の証券・銀行口座を持たせて囲い込むしかない。それがキャリアの本音だ。

 ドコモは新NISAが始まるのと同じタイミングでマネックス証券を連結子会社にする。ドコモの井伊基之社長は10月4日の記者会見で「新NISAにはマネックスがすでに対応しているので、その上にさらに価値を高めていく」と強気の構えだ。江藤俊弘スマートライフカンパニー統括長も「1000万口座は狙いたい」と鼻息が荒い。

 同席したマネックスグループの清明祐子社長は「今、口座数は220万で預かり資産は7兆円。ドコモとの提携で500万口座と15兆円を目指したい」と高い目標を掲げた。ドコモが発行するクレジットカード「dカードGOLD」は年会費が1万1000円かかるが、会員数は1000万を超える。ドコモが同会員をマネックス証券に誘導して新NISAを始めさせられれば、先行する3キャリアに追随できる可能性は十分にありそうだ。

(石川温・ケータイジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年10月24日号掲載

NTTドコモが証券参入 マネックス子会社化の背景 通信事業者の主戦場が金融に=石川温

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