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経産省の米マイクロン広島工場支援が2000億円超に 一方で大量リストラ 服部毅
経済産業省は10月3日、半導体メモリー大手の米マイクロン・テクノロジーの広島工場(広島県東広島市)に1920億円の補助金を支給することを正式に発表した。その内訳は、1γ(ガンマ)DRAM(一時記憶用半導体)プロセスの生産用設備に1670億円、それを基にした次世代広帯域メモリーの研究開発の支援に250億円である。
また、DRAM量産に日本国内で初めて最先端の蘭ASML製のEUV(極端紫外線)露光装置を導入するという。なお、γ技術は、10ナノメートル(ナノは10億分の1)台の6世代目(X、Y、Z、α、β、γ)に当たり、最小線幅が12~11ナノメートル程度を指すと推測される。今回の補助金は、前世代の1β(ベータ)DRAM生産を支援するための465億円に続くもので、すでに総額は2000億円を超えている。
この支援の背景には、米バイデン政権から日本政府へのマイクロン支援の強い要請があるといわれている。それを示唆するかのように、マイクロンは、昨年11月16日にエマニュエル駐日米大使らを主賓として招き、広島工場で1βDRAM量産開始セレモニーを開催した。しかし、この祝賀会が終わるのを待ったかのように米国本社は同日夜に、メモリー市況の悪化に対応して、世界規模で投入量の大幅削減を発表した。
そして翌月には、世界中の全従業員の10%を削減するとも発表した。広島工場も例外ではなく、地元の広島大学大学院出身者を含む数百人規模の人員を削減したことが今年5月末に明らかになった。マイクロンは日本における人員削減について明らかにしていないため、地元ハローワークは離職者の総数を把握できておらず、300~500人と推測して100人規模の雇用保険支給説明会を開催した。
雇用確保の条件なく
西村康稔経産相はマイクロンへの補助金支給に際して、10月3日の記者会見で「経済安全保障上、日本が将来必要とする先端半導体を、しっかり安定供給してもらうことが重要」と述べ、さらには「地域に良質な雇用が生まれることで、若者の地域の定着にもつながる」とさえ述べている。しかし、補助金支給の義務化項目として、他国のように雇用創出や確保の条件を入れていない経産省に対する批判が募っている。
「なぜ日本政府は外資にばかり支援するんだ」という批判や疑問も高まっているが、西村経産相は、日本企業にも支給している事例を挙げつつ「必要な半導体の安定供給のために、外資に対しても必要な支援を行っていく」と回答している。経産省は「人材の採用や育成に積極的であること」を手厚いマイクロン支援の理由に挙げるが、突然リストラされた技術者やハローワーク関係者はどう受け止めるだろうか。
(服部毅・服部コンサルティング・インターナショナル代表)
週刊エコノミスト2023年10月24日号掲載
マイクロン支援 1920億円の補助決定 一方で大量の人員削減=服部毅