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国際・政治 FOCUS

中国“構造改革”の李前首相死去 習政権下の“国進民退”がすすむなか 斎藤尚登

習近平主席(左)と李克強首相(2018年)Bloomberg
習近平主席(左)と李克強首相(2018年)Bloomberg

 2023年3月まで中国で2期10年、首相を務めた李克強前首相が10月27日、68歳の若さで死去した。

 李氏は遼寧省党書記時代、「経済動向を把握するのに電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行貸出残高に注目している」と発言したと伝えられ、この三つを合成した「李克強指数」が注目された時期があった。ただし、これは中国経済全体を見る指標ではない。李氏は、鉄鋼など重工業中心の産業構造という遼寧省の特徴を踏まえて、同地域の経済動向を分析するのに最も適した指標をピックアップしたのだ。李氏が経済に明るかったことを示すエピソードの一つといえよう。

 また、持続的安定成長を目指す経済政策は「リコノミクス」と称された。これは、15年11月以降の「サプライサイドの構造改革」に反映された。具体的には、①過剰生産能力の解消、②過剰不動産在庫の削減、③デレバレッジ(負債率の引き下げ)、④企業コストの削減、⑤弱点の補強(脱貧困、イノベーション重視、環境保護など)──であり、「構造改革」に重点が置かれた。

 李克強氏は、かつては習近平総書記のライバルと目され、1期目(13年3月~18年3月)にはそれなりの存在感を誇った。李氏は習氏との間にある種の緊張感があり、時にブレーキ役、調整役を果たした。

影響力が即時排除

 李氏には、自身の政策を象徴するいくつかのキーワードがある。「簡政放権」(政府の関与・介入の縮小や権限移譲)、「大衆創業」(大衆による起業)、「万衆創新」(万人によるイノベーション)などだ。特に、習氏が公有制経済(国有企業)を重視し、政策の恩恵が国有企業に偏る「国進民退」が深刻化した15年秋~16年、李氏はこうしたキーワードを持ち出して左傾化した政策を中和し、民営企業をサポートしようと試みた。

 しかし、2期目(18年3月~23年3月)に入り習氏への権力集中が加速すると、李氏の指導力は急速に失われていった。李氏は今年3月5日、全国人民代表大会(国会に相当)で最後の政府活動報告を行った。同報告は、実績の回顧である前半と、その年の政府活動案などの後半に分かれる。今回は前半が8割強の分量だったのに対して、後半は2割弱にとどまった。

 10年前の13年の政府活動報告と比べれば、露骨な“李克強外し”が行われたのだろう。13年は前半が半分弱、後半が半分強だった。今年の政府活動報告の後半では、李氏のキーワードである簡政放権、大衆創業、万衆創新は使われなかった。李氏の影響力は、首相退任とともに即時排除されたのである。

 昨年来の不動産不況では、多くのデベロッパーが債務不履行に陥ったが、そのほとんどは民営デベロッパーである。「国進民退」が中国経済の足を引っ張る中、打ち出された政策は1兆元の国債増発によるインフラ投資の増強など旧態依然のものばかりだ。李氏ならどのような政策を打ち出していただろうか。

(斎藤尚登・大和総研経済調査部長)


週刊エコノミスト2023年11月14日号掲載

FOCUS 中国・李前首相死去 経済の構造改革に手腕 習氏へ権力集中で失速=斎藤尚登

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