マーケット・金融 FOCUS
1ドル=150円超へ 日銀が長短金利操作を再修正するも円安圧力の緩和には力不足 多田出健太
日銀は10月30~31日の金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の運用の一層の柔軟化を決定した。長期金利の上限は1.0%をめどとしつつ、指し値オペの運用を見直し、これまでのように長期金利の上限を1.0%で厳格に抑えるのではなく、1%を一定程度上回ることを容認した。ただ、今年に入って続いていた円安圧力を緩和するには力不足とみられ、ドル・円相場は実際、日銀の政策修正発表後に1ドル=150円を超える円安に振れた。
今年に入って以降、ドル・円相場は日米の長期金利(10年国債利回り)差の拡大に沿って上昇傾向が続いている。今年7月に日銀がYCCの運用柔軟化を発表してからは、日本の長期金利は大きく上昇したが、その間に米長期金利はそれ以上に上昇したことで一層のドル高・円安が進んだ。もっとも、ここ1カ月ほどは日米10年金利差が拡大する一方で、ドル・円相場は横ばい圏での推移が続いており、両者の動きに乖離(かいり)が見られている。
長期金利は、期待短期金利(投資家が予想する将来の政策金利)とタームプレミアム(期間の長さに応じた上乗せ金利)に分解できる。これまでは、期待短期金利の上昇が米長期金利の上昇を主導してきたが、ここ最近はタームプレミアムの上昇がけん引している。ただ、最近の米長期金利の急騰について、米連邦準備制度理事会(FRB)の複数の高官が、協調的に「長期金利の上昇が利上げを肩代わりする可能性がある」とのメッセージを発している。
近づくピーク?
つまり、FRBはタームプレミアムの大幅上昇によって金融環境が過度に引き締まるなら、状況次第では利下げで調整する意思があるということである。したがって、米金利上昇に今後、歯止めがかかるのなら、円安のピークは近いのかもしれない。もっとも、パウエルFRB議長は10月19日の講演で、米経済の成長の上振れリスクに警戒感を示し、追加利上げに踏み切る余地を残している。米国経済やインフレが想定外に根強い場合、金融環境はさらに厳しく変化する可能性はある。
今後もさらにドル高・円安が進展した場合、政府・日銀は一段の対応を迫られるが、米金利上昇による円安圧力を抑え込むのは相当に困難である。円金利市場ではすでに日銀のマイナス金利政策解除やその先の利上げを一部織り込んでいるためである。10月も財務省の為替介入がなかったことで、市場の介入警戒感が緩む可能性もある。
次回の金融政策決定会合は12月18~19日に開催予定だが、それまでに昨年10月に付けた1ドル=151.94円の円安水準を試す流れとなった場合、次に動くのは財務省かもしれない。ただし、為替介入で時間は稼げたとしても、為替相場のトレンドを転換させるのは容易ではなく、円安圧力を緩和するには日銀が相当に金融緩和を弱めるほかない。
(多田出健太・大和証券チーフ為替ストラテジスト)
週刊エコノミスト2023年11月14日号掲載
FOCUS 1ドル=150円超へ 日銀が長短金利操作を再修正 円安圧力の緩和には力不足=多田出健太