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秋篠宮邸に伊国「大理石」 女性誌報道は全くの虚偽 社会学的皇室ウォッチング!/95 成城大教授・森暢平

「みどりの愛護」のつどいでおことばを述べる秋篠宮さま(北九州市で2023年6月撮影)
「みどりの愛護」のつどいでおことばを述べる秋篠宮さま(北九州市で2023年6月撮影)

 秋篠宮邸改修増築をめぐって世間は喧(かまびす)しい。工事に要した費用は約30億円で、代替わりに伴って改修された御所(約8億7000万円)より高額なことから「秋篠宮家は贅沢(ぜいたく)だ」と批判が起きている。ご夫妻が「イタリア産の大理石を使うよう要望した」という報道まである。しかし、週刊誌やネットにはフェイクニュースや、誤認に基づく不適切な批判が多い。

 秋篠宮邸はもともと秩父宮邸として1972年に竣工(しゅんこう)した。秩父宮勢津子妃が95年に亡くなったあと、2000年に私室部分を増築して秋篠宮の邸宅となった。06年に悠仁親王が誕生する際、養育棟としてプレハブ部分が付け加わった。改修増築前の延べ面積は1540平方㍍。一般に宮邸は、全くプライベートな「私室部分」、賓客接遇や執務などに使われる「公室部分」、事務官が使う「事務部分」の三つのパートに分かれる。改修増築前、秋篠宮邸の「私室部分」は512平方㍍、「公室部分」は488平方㍍、「事務部分」は540平方㍍であった。

 秋篠宮邸の旧秩父宮部分は排水管の老朽化や、防火に関して既存不適格建築物である問題があった。このため06年から改修計画が出始めている。秋篠宮ご本人の遠慮や東日本大震災もあって計画が延びていたが、15年度から設計が始まった。代替わり(19年5月)に伴い、宮家(皇嗣職)職員が17年段階の12人から51人へと大幅増員されることになり、工事にゴーサインが出た。

 一方、代替わり議論が起こる以前から、将来の皇嗣である悠仁親王のために側近奉仕の事務職員を増やす必要が認識されていた。また、秩父宮邸は一人暮らしの勢津子妃のために設計されたので、所蔵品などの収容スペースが限られていた。そのため、17年1月から建設が始まり19年2月に完成したのが、今は分室と呼ばれる建物である(総工費約9億8000万円)。秋篠宮邸の工事の間、ご一家は今年3月まで「御仮寓所(ごかぐうしょ)」として仮住まいしていた。

 秋篠宮邸の改修増築は当初、宮邸の北側にある皇族共用殿邸(赤坂東邸、他の皇族との共用)と一体化する計画だった。工期は19年度から3年で工費は35億円。しかし、工事が大規模になり過ぎることから、皇族共用殿邸は以前の用途のまま残し、秋篠宮邸に「事務部分」を増築するなど計画が途中で大幅に変更された。

 メインは事務、公室部分

 20年3月に着工し、2年6カ月の工期をかけた秋篠宮邸は22年9月に完成した。地上2階、地下1階の鉄筋コンクリート造りで、「私室部分」585平方㍍、「公室部分」897平方㍍、「事務部分」1491平方㍍。延べ面積は計2973平方㍍である。

 改修増築前後の増加面積は「私室部分」72平方㍍(5㌫)、「公室部分」409平方㍍(29%)、「事務部分」951平方㍍(66%)となる。つまり、改修増築は、職員の執務環境整備と賓客等の接遇環境整備がメインの目的だった。悠仁親王養育のためのプレハブを壊し、そこに新築した部分もあり「私室部分」も若干は増えているが、大幅増ではない。

 加えて、旧東宮御所にあった大人数接遇のための「大広間」は設けなかった。必要な場合は皇族共用殿邸を利用するためだ。また、シャンデリアなどの照明器具、絨毯(じゅうたん)などの新規調達はやめて既存のものを利用した。

 宮邸改修増築に要した経費は建物本体が約26億円で、外構工事、庭園工事を含め敷地全体で約30億2000万円。このほか、皇族共用殿邸の改修などを含めると約34億7000万円がかかった。たしかに、天皇ご夫妻のための御所改修よりは高額だ。だが御所の場合、前天皇ご夫妻が使っていた建物を基本的にはそのまま流用できる。これに対し秋篠宮邸は、皇嗣に相応(ふさわ)しい接遇を行う場所や事務職員の執務場所を新たに整備する必要があった。節約を図ったが防火対策、コロナ禍による工期延期などで、当初の計画(約35億円)程度には費用が膨らんでしまった。秩父宮邸は昭和の建築家吉田五十八(いそや)がデザインしており、当時の意匠を復元するにもそれなりの費用がかかる。

「私室部分」が585平方㍍(177坪)もあり贅沢だという批判もある。だが、600平方㍍を超える家に住む人は多くいる。ちなみに秋篠宮ご夫妻は1990年に結婚し眞子、佳子のお二人の内親王が生まれて以後も2000年まで118平方㍍の木造平屋建ての家に住んでいた。一般宮家なら良いかもしれないが、次期天皇たる皇嗣が、小さな家に住むのは皇族の品位という別な問題が生じるだろう。

 「別居」と言えるか?

 ご夫妻と悠仁親王は今春から新秋篠宮邸に引っ越した。しかし、佳子さまだけが分室(旧御仮寓所)に住み続けている。これは、設計が変更になるとき「私室部分」が大きくならないように宮邸に佳子さまの部屋を設けなかったためだ。22年9月に宮邸が完成するときも「御仮寓所に宮家の私室部分は残る」と説明がなされていた。ただし、佳子さまが残留するとは発表されておらず、そこから誤解が生じた。

 秋篠宮邸と分室(旧御仮寓所)は隣同士で、佳子さまは食事を別に取るわけでもない。別居と言えるかどうか微妙である。どこに誰が住むかをオープンにすれば、テロ対策上も問題がある。だが、女性誌が「別居」を嗅ぎ付け、今年1月から騒ぎ出した。『女性セブン』(3月2・9日号)は、「佳子さま ひとり暮らし10億円豪邸に眞子さん『秘密の帰国部屋』」などと書いている。ただし、女性誌が書くような、佳子さまが両親と決別したという情報は全くのフェイクである。『女性セブン』(22年11月3日号)は、「紀子さまから〝もっと金(きん)を使ってほしい〟というご要望があった」「大理石はイタリア製を、などといったご要望が相次いだ」とも書いた。これも虚偽である。秋篠宮邸にイタリア製大理石が使われた事実はない。

 秋篠宮さまが11月30日の誕生日の会見で言ったとおり、彼がグズグズしていたため、デマが鎮まらなかった側面はある。しかし、根本的には反論がないことを良いことに報道倫理を忘れ、嘘を書いても何ら恥じることのない一部メディアにこそ問題がある。

的には反論がないことを良いことに報道倫理を忘れ、嘘を書いても何ら恥じることのない一部メディアにこそ問題がある。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など

「サンデー毎日12月17日号」表紙
「サンデー毎日12月17日号」表紙

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