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2024年大学入試:本誌独占 河合塾、駿台・ベネッセ、東進 全国179国公立大 共通テストボーダーライン 平均点アップで働く準難関への「安全志向」

「サンデー毎日2月4日号」表紙
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 大学入学共通テストが終わった。これから出願大学を選ぶにあたり、どのような注意が必要なのか、自己採点結果から見えてきた、大学や学部の志望動向について検証した。ボーダーライン一覧と共にご覧いただきたい。

 1月13、14日に行われた大学入学共通テストは、大きな混乱なく終了した。共通テスト直前に被災した北陸の受験生も、多くが本試験を受験できたようだ。共通テストに出願した石川、富山、福井の受験生のうち、駿台予備学校とベネッセコーポレーションが共同実施したデータリサーチに自己採点を提出した割合は、前年を上回ったという。駿台予備学校入試情報室部長の石原賢一氏は言う。

「阪神・淡路大震災は大学入試センター試験後、東日本大震災は国公立大前期終了後でした。大きな入試の直前に災害に見舞われるのは初めてのケースで心配しましたが、本試験の出願者が多く安心しました。阪神・淡路大震災では避難先から受験に向かい、しっかりと結果を出した生徒が少なくなかった。北陸の受験生も頑張ってほしいですね」

 共通テストが安定したことも、被災地の受験生には安心材料となっただろう。2021年度入試(21年4月入学)から導入された共通テストは、平均点が乱高下してきた。前身の大学入試センター試験より難化すると見られていた初年度は、センター試験の平均点を上回り、22年度は数学の難化で大幅ダウン。23年度は数学の平均点が回復し、全体の平均点を押し上げた。24年度の状況について、東進ハイスクール東進コンテンツ本部教務制作部長の島田研児氏は、こう話す。

「大学入試センターが発表した科目ごとの平均点の中間集計では、平均点が大きく上がった科目はリスニングや国語、地理B、生物などがある一方、平均点が大きく下がったのは政治・経済など少数です。共通テストらしい出題形式を維持しながらも、全体として易しくなったと言えます」

 各予備校が算出した予想平均点を見ると、文系と理系ともに前年を上回り、2年連続の平均点アップ。これを受け、国公立大人気が継続することは間違いなさそうだ。ただ、国公立大人気は衰えていなくても、旧帝大に東京工業大、一橋大、神戸大を加えた「難関国立10大学」に限って集計すると、国公立大全体の前年を100とした志望者指数を下回っているようだ。河合塾教育研究開発本部主席研究員の近藤治氏は言う。

「共通テストの平均点が上がったことで、7科目の平均値で8割以上得点できている受験生は、文系が11%、理系が9%増えています。にもかかわらず、模試の段階で人気が高かった難関国立10大学の全体の志望者は増えていません。2次試験対策が遅れている受験生や、ここにきて翌年の新課程入試を控えて、安全志向が働いた受験生の影響と見ています」

 難関国立10大学の中でも志望状況に濃淡があり、京大の志望者は前年を上回り、東大は前年並みとなっている。この状況について、河合塾の近藤氏は、「難関大の中でも最難関を志望する受験生はブレがない」と見ている。

 東大や京大を上回って志望者が増えているのは東北大。前年の志願者減の反動とともに、10兆円規模の大学ファンドを設けて研究支援を行う「国際卓越研究大学」に認定された効果が大きい。東大や京大も選定されなかった国際卓越研究大学に選ばれたことは、研究志向が強い難関大志望者に大きな影響を与えたようだ。

 難関国立大の志望者が伸びないのと対照的に、準難関は志望者が増加する大学が多くなっている。その要因について、河合塾の近藤氏が説明する。

「安全志向が働いて難関国立大から志望変更する受験生がいるのでしょう。2次試験に不安があっても共通テストの実施時期が早い今年は、試験対策の時間が長くとれます。共通テストで目標点がとれているなら、安易に志望を下げて後悔しないでほしい。河合塾の浪人生の中にも、志望を下げたことを悔やむ生徒が少なくありません」

 志望増の国際関係系 情報系は人気に陰り

 学部系統別の状況を見ると文系の志望状況は、人気が高かった経済・経営・商学系が落ち着き、その分他の学部に志望者が回り、平準化した。これまで人気がなかった人文系も志願者が増えそうだ。

「不安定な社会状況下で進んだ、医療系など実学一辺倒の学部選択が変化してきたということでしょう。新型コロナウイルスが5類に移行し、通常の状況を取り戻しつつある中、幅広い視野で学部・学科選択ができるようになったのだと思います」(駿台の石原氏)

 コロナ禍の影響の薄らぎを受け、国際関係学系も志望者が増加傾向にある。ベネッセコーポレーション学校カンパニー教育情報センター長の谷本祐一郎氏は言う。「国をまたいだ移動が活発になり、再び国際関係の人気が上がっています。一方で語学系は人気回復とまではなっておらず、語学プラスアルファが学べる系統の人気が高い。観光の人気も戻ってきており、金沢大の観光デザイン学類などの志望者が大きく増えています」

 コロナ禍で注目が集まった医療系は志望者が減少傾向。模試での志望状況通り、薬学部志望者の減少幅が大きい。医学部(医学科)は模試の段階と比べると志望者は減少しているが、前年並みを維持している。昨年は医学部志願者が増加しており、それと同等ということは志望者が多いままといえる。24年度は共通テストの平均点が上がったので、志望変更する受験生が少ないと見られ、厳しい入試の継続は間違いなさそうだ。

 理系学部では理学系の志望者が多く工学系は前年並み。一方、成長分野のグリーンやデジタル人材を増やすことを目的とした「大学・高専機能強化支援事業」の一環で定員が増えている情報系の人気が上がらない。

「自己採点の段階になっても、情報系の志望者は増えていません。東北大・工の電気情報物理工学科は、定員が8%増えるのに志望者指数は93。東工大・情報理工学院は定員3割増に対し志望者指数は86です。情報が行き渡っていないこともあり、難関大でも情報系は狙い目になるかもしれません」(ベネッセの谷本氏)

 ここまで大学や学部の志望状況を見てきたが、24年度の国公立大入試に大きな変化は見られないようだ。駿台の石原氏は言う。

「入試環境は23年度とほぼ同じです。共通テストの平均点が上がったので、これまでの志望通りに国公立大に出願できる受験生が多いでしょう。悔いがないよう第1志望を貫いてほしい」

 もちろん、共通テストで目標点に届かなかった受験生もいるだろう。そうした受験生も諦めず、自己採点でしっかりと自分の立ち位置を確認した上で、冷静に出願大学を選びたい。

 1月23日発売の「サンデー毎日2月4日号」には、「河合塾、駿台・ベネッセ、東進 全国179国公立大 共通テスト『合格』ボーダーライン」を掲載しています。

 ほかにも「50年周期到来論 円高、株高、NISA、バブル崩壊に備えよ 金子勝・慶應大名誉教授」「ジャニーズ、安倍派の瓦解 腐敗と不正の政治権力は崩れるか 白井聡」「離婚後の親権争い 当事者の〝肉声〟に見る『連れ去り勝ち』は本当か」などの記事も掲載しています。

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