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東大はじめ難関大合格者も 通信制高校の大学受験の「底力」
全日制高校の〝受け皿〟のように見られてきた通信制高校が大きく様変わりしている。一芸に秀でた子どもたちが数多く通う場となっている。それだけではない。大学進学率も上昇し、難関大などへの合格者も多数輩出しているという。何が変わってきたのか。
通信制高校の歴史は古く、1947年、学校教育法制定により「高等学校は、通信による教育を行うことができる」旨、規定された。しかし、この時点では授業は国語1教科のみで始められた。授業の実施科目は順次拡大していったものの、限定されていた。
実際に通信教育のみでも高校卒業資格が得られるようになったのは、55年の「高等学校通信教育の実施科目の拡充ならびに同通信教育による卒業について」という文部省(現・文部科学省)の事務次官通達によってである。
さらに、61年の学校教育法改正によって通信制課程の制度化、通信制独立校・広域通信制高校の制度化などが行われた。要は、全日制の公立高校の一部に組み込まれていた通信制が単独で開校できるようになったり、生徒を地域限定ではなく全国各地から入学できるような仕組みを採用するようになったりしたのだ。
通信を利用して授業を受け、週に何日か登校する。面談や対面授業、リポートの提出などで単位を取得し、卒業するという形だ。
通信制高校に詳しく、『通信制高校のすべて―「いつでも、どこでも、だれでも」の学校』(彩流社)などの著書がある星槎大の手島純教授は語る。
「元々は勤労青少年が働きながら学び、高卒資格が取得できるような仕組みとして出来上がりました。55年がはじめの一歩とするなら、大きな節目となるのは88年の学校教育法改正です」
全日制高校と比べ授業日数が少ないことから、それまで通信制高校は定時制高校とともに修業年数が「4年以上」と定められていた。それを「3年以上」に短縮し、全日制高校と変わらない3年で卒業可能となったのである。
「全日制と同じ年数で卒業できるようになったことで、教育の場が一気に広がり、私立の広域通信制高校が参入しやすくなりました」(手島教授)
広域通信制高校とは、本校以外に全国にいくつもの分校(拠点)を設け、本校とは離れた場所に住んでいても、入学できるシステムである。92年に開校したクラーク記念国際高校(本校・北海道)もその一つ。同校教務進路部次長の阿部賢太氏はこう語る。
「全日制高校の受け皿機能と見られがちだった通信制高校から、生徒一人ひとりに合った多様性の教育を目指すため開学しました」
88年の法改正が大きく背中を押した形といっていいだろう。さらに次の波が到来する。2003年に行われた「高等学校学習指導要領の改訂」と「構造改革特別区域法改正」である。
「指導要領の改訂は、『放送による指導』とされていたものに『その他の多様なメディアを利用した指導』が追加されました。つまり、インターネットの活用が認められたのです。また、構造改革特区は、小泉純一郎首相(当時)が大ナタをふるった構造改革の一環で、通信制高校にも株式会社の参入が可能となったのです」(手島教授)
私立通信制高は年々増加の一途
これを機に、通信制高校は増加に拍車がかかった。文科省の「『令和の日本型学校教育』の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議」の参考資料集(2021年12月24日、以下「資料集」)によると、「広域通信制高校の学校数については、1998年以降、急激に増加。98年からの10年間で66校増加し、2008年からの10年間で32校増加している」という。03年の法改正以降、その傾向は顕著で、04年は私立が7校、株式会社立が1校新設され、その後も私立が毎年のように新設されている。
当然のことながら、生徒数も通信制高校はうなぎ登りだ。資料集によると、全日制および定時制の生徒数は1990年に562万3336人だったが、減少の一途をたどっている。2005年には360万5242人、21年には300万8172人と、300万人台割れが目前となった。
ところが、通信制高校については1990年が公立・私立合わせて16万6986人だったのに対し、2000年は18万1877人、21年は21万8389人となり、20万人台を突破したのである。
ただし、「公私別で見れば、私立通信制の生徒数が大きく増加している一方で、公立通信制の生徒数は徐々に減少」(資料集)とある。この約20年間で、私立の生徒数が2倍以上に増加する一方、公立の生徒数は半減しているという。
このような変化を遂げた通信制高校だが、大学進学についても大きく変化しているようだ。資料集では、通信制高校の卒業後の状況について「20年5月1日現在、19年度間に卒業した者のうち、大学等進学者が17・6%(公立11・7%、私立18・5%)、専修学校(専門課程)進学者が23・3%(公立13・1%、私立24・9%)、就職者が23・1%(公立26・9%、私立22・5%)」とのデータを明らかにしている。
では、通信制高校の実相はどんなものなのだろうか。本誌では毎年6月、全国約4600高校の同約500大学への合格実績などを掲載した『大学入試全記録』を発売している。これを見てみると、N(本校・沖縄県)、クラーク記念国際、一ツ葉(本校・熊本県)の3高校は2023年度入試(23年4月入学)までの3年間で、旧七帝大(東大、京大、北海道大、東北大、名古屋大、大阪大、九州大)に一橋大、東京工業大、神戸大を加えた「難関国立10大学」や、私立大最難関の慶應義塾大と早稲田大にも合格者を輩出していた。
そこで、各校に過去3年間の前出の12大学への合格実績や、進学に関する指導の現状を聞いてみた。
まずクラーク記念国際高校は「夢・挑戦・達成」をスクールモットーとしている。生徒数は1万2000人を超える。昨夏の全国高校野球選手権には北北海道代表で出場し、春夏合わせて4度目の甲子園で初勝利を挙げた。野球部は北海道深川市の北海道深川キャンパスで監督と部長らと寮生活をしながら部活動や勉強に励んでいる。
同校によると、3年間の12大学への合格実績は次の通りだ。
21年=北海道大1、東京工業大1、慶應大3、早稲田大7
22年=北海道大2、大阪大2、神戸大1、九州大1、慶應大1、早稲田大8
23年=東大2、北海道3、名古屋大1、大阪大4、慶應大7、早稲田大11
各校独自の教育スタイルを展開
前出の阿部教務進路部次長は「生徒の60~65%は大学進学を希望しています。本校では特に英語教育に力を入れており、目的に応じて選べる留学プログラムや英語力を伸ばす独自カリキュラムを導入することで、全生徒が英検取得を目指します」と語る。
そればかりではない。文科省が掲げる「個別最適な学び」「協働的な学び」とリンクした独自の「21世紀型教育」を進め、生徒の習熟度に合わせ学び方をカスタマイズできる「教科指導」、教科だけでなく社会問題などについても深く探る「探究学習」などを実施しているという。
一方、一ツ葉高校は08年に開校した株式会社立の通信制高校だ。23年5月1日現在で生徒数は1097人と通信制高校の中では小規模の部類に入るが、実績は他校に引けを取らない。同校によると次の通りだ。
21年=九州大2、早稲田大2
22年=東大2、北海道大1、東北大1、慶應大7、早稲田大4
23年=東京工業大1、九州大2、慶應大1、早稲田大3
こちらも毎年、難関大に合格を果たしている。
学習指導法については、①入学時に個別カリキュラムを作成し、短期・長期の目標を組み立て、定期的に振り返り修正②議論やディスカッションで「批判的思考能力」を育成。問題解決によって小論文や面接対策につなげる③AI教材を活用した効果的な学習。デジタルツールの活用でICTスキルを育成④大学進学や職業に関する情報の提供で、キャリアプランニングをサポート―の4点が特徴だという。同校教頭の長澤利弘氏は語る。
「当校は対面指導を重視しています。画一的な指導にならずに生徒が進路を決めるためには、信頼関係を構築することが不可欠だからです。ネットを利用した授業はありますが、週1日でもサテライトスクールに登校してもらい、進路を定めていきます。また、年2回、三者面談を実施しているので、学校と家庭との連携も図っています」
さらに、職業体験学習や卒業生の談話なども取り入れ、生徒が向上心をもって自分に合った進路を定められる工夫を怠らないようにしているという。
16年に開校したN高校は、生徒数約2万人のマンモス校だ。定員を上回ったため、21年にS高校(本校・茨城県)を開学。両校を合わせると生徒数は、実に2万7712人(23年12月末現在)に上る。
21年=東大4、京大1、北海道大1、東京工業大1、一橋大1、名古屋大1、大阪大1、神戸大1、慶應大16、早稲田大15
22年=東大1、京大1、北海道大1、東北大2、東京工業大1、一橋大1、大阪大1、九州大1、慶應大26、早稲田大40
23年=東大2、京大2、北海道大1、東北大1、東京工業大2、一橋大2、名古屋大3、大阪大2、神戸大3、九州大2、慶應大39、早稲田大55
しかし、同校校長の奥平博一氏はこう語る。
「決して進学校を目指しているわけではありません」 確かに大学進学希望者は33・24%と決して高くない。一方で、22年度にはマンチェスター大(英国)やメルボルン大(オーストラリア)など海外の大学に52人が合格している。
「新しい教育を切り拓くと期待」
「社会に出た時、役に立つ学び」を目指し、常に刺激的な学びがあるという。その最たるものが、学園祭だろう。角川ドワンゴ学園が運営する私立校だけあって毎年、千葉・幕張メッセで開催される「ニコニコ超会議」が会場だという。
「10万人以上が参加するイベントで、生徒たちは思い思いの自分たちの表現を行います」(奥平校長)
また、N高校は多彩な卒業生や在校生がいることでも知られている。女流囲碁棋士の上野愛咲美さん(19年卒)、フィギュアスケーターの紀平梨花さん(20年卒)、21年の東京パラリンピック閉会式で演出を担当したトラックメイカーの原口沙輔さん(21年卒)、車いすテニスプレーヤーの小田凱人(ときと)さん(2年生)など錚々(そうそう)たる顔ぶれだ。
「与えられるものを待っているのではダメ。自らがやりたいことを本気で探す。それを応援し、実現させるサポートをするのが学校であるべき」(奥平校長)
それぞれに「学校の色」が強く打ち出されているのがお分かりいただけるのではないか。しかし、共通していることは画一的な教育ではなく、多様性に富み、個人にフォーカスした柔軟できめ細やかな指導だ。その上に結果として大学合格実績がある。
通信制高校の現状を大学通信の井沢秀・情報調査・編集部長はこう語る。
「近年の通信制高校を見ると、明らかに生徒の質が変わってきたと感じています。不登校や引きこもりの子どもたちの受け皿から、多様な生き方、考え方で通信制を選択するようになった。その中で、進学を希望する生徒はしっかり勉強して実績を残す。それぞれが自分に合った学校を選べる選択肢が増えたことはいいことだと思います」
前出の手島教授もこのように話す。
「大学合格実績が上がることは意義がありますが、教育の質を担保し、学びの多様化を維持するバランス感覚が必要です。その上で、通信制高校が持つ可能性は大きく、新しい教育のあり方をさらに切り拓(ひら)いていくものだと期待しています」
もちろん今回取り上げた学校以外にも、特徴的な教育や多彩な学びを提供する通信制高校がある。新たな学びの「場」はどのように広がるのか。今後もその動向には注目だ。
(ジャーナリスト・山田厚俊)
やまだ・あつとし
1961年、栃木県生まれ。建設業界紙記者、タウン紙記者を経て、95年黒田ジャーナル入社。阪神・淡路大震災取材に従事。主宰する黒田清氏逝去後、大谷昭宏事務所に転籍。2009年からフリー