能登半島地震 日本海側の地震対策も急務/171
1月1日午後4時10分、石川県能登地方を震源とする、地震の規模を示すマグニチュード(M)7.6の地震が発生した。同県志賀町で最大震度7を観測したほか、東北地方から中国・四国地方まで広範囲に震度4の揺れが観測された。北海道から九州までの日本海の沿岸には津波が到達した。気象庁は「令和6年能登半島地震」と命名し、政府は非常災害対策本部を設置。石川県は自衛隊に派遣要請を行った。
本稿では現在まで判明した被害の概要と発生メカニズムについて解説する。石川県内の地震による死者数は8日午後2時時点で168人となった。2016年熊本地震の50人(家屋倒壊37人、土砂崩れ13人)を超え、11年の東日本大震災以降で最多となっている。激しい揺れにより、珠洲(すず)市、輪島市、七尾市では家屋の倒壊が相次ぎ、石川県内の住宅被害は1390棟にのぼる。
道路も寸断され、支援物資を届ける際に非常な困難を来している。液状化や土砂崩れなど地盤の被害は多岐にわたり、地震に伴う火災も複数地域で発生した。震度6強を観測した輪島市の河井町朝市通りで起きた火災では約200棟が延焼した。1995年の阪神・淡路大震災と同様に、初期消火が追いつかずに延焼する状況だった。
気象庁は石川県能登に東日本大震災以来となる大津波警報を発表した。輪島港では1日午後4時21分に最大1.2メートル以上の津波を記録した。ライフラインの被害では、石川県内の約3万3600世帯が停電した。能登空港では滑走路上に長さ10メートル以上にわたり深さ10センチの亀裂が生じているのが見つかり、滑走路が閉鎖された。北陸地方の高速道路でも各地で亀裂と崩落が生じ通行規制が続いた。
地殻変動大きく
気象庁によれば地震の原因となる震源の深さは16キロで、地震の規模M7.6は、この地域で記録が残る1885年以降で最大となった。能登半島では数年前から群発地震が続き、2021年に震度5弱、22年に震度6弱、23年に震度6強を観測していた。珠洲市周辺の地下には高温高圧の水などの「流体」があり、数年前から地下の断層面に浸入して地震を群発的に起こしている(本連載の第105回を参照)。こうした群発地震と今回の地震との関係は現在調査中である。
M7.6は直下型地震としてはかなり大きいもので、熊本地震(M7.3)、阪神・淡路大震災(M7.3)の2倍のエネルギーを放出した。国土地理院はM7.6の本震について、地球観測衛星「だいち2号」の観測データを基に地震前と後の地盤の動きを解析した。その結果、能登半島全域で地殻変動がみられ、輪島市西部で4メートル隆起しているのが確認されたほか(図)、珠洲市北部で1メートルの隆起の可能性があるという。
同じ手法で過去の地震と比べると、地盤の変動は熊本地震は1~2メートル、08年の岩手・宮城内陸地震は1.5メートルであり、今回は直下型地震としては非常に大きい。このほか、GNSS(全球測位衛星システム)の観測データから、輪島市で1.3メートル、穴水町で1メートル、珠洲市で0.8メートル、いずれも水平方向に西へ移動し、七尾市では北西へ0.6メートル動いていたことも確認された。
既知断層と一致せず
航空写真では地盤が隆起して港が干上がっている様子が確認された。地殻変動により海岸線が隆起したためだ。これは、1923年の関東大震災の際に、神奈川県三浦市の城ケ島や房総半島先端部が隆起した現象と類似する。
M7.6の本震後も数多く発生している余震の震央分布を見ると、能登半島から日本海にかけて北東─南西方向に直線距離で150キロメートルの広域に及んでいる。地震のメカニズムは水平方向に圧縮して生じる「逆断層」型で、南東に傾斜する断層面で地震が発生したと考えられる。能登半島沖には複数の逆断層型の活断層が存在しているが、今回の地震断層は既知の断層とまったく同一ではなく、知られている複数の活断層との関係については調査中である。
政府の地震調査委員会は、主要な活断層で発生する地震の規模と発生確率を予測したものを「長期評価」と呼んで警戒しているが、今回の断層は評価対象に含まれていない地域で大きな地震が起きた。一方、国土交通省の「日本海における大規模地震に関する調査検討会」は海底断層で起きる津波断層モデルを検討している。検討会が能登半島沖に設定した海底活断層の領域「F43」(断層長94キロメートル、断層幅19.7キロメートル)は、余震の震央分布の範囲とほぼ一致する。今後は陸域と同様に、海域で起きる地震の規模と発生確率の長期評価が早急に求められる。
今回の地震では耐震化が十分でない古い家屋が倒壊するなどの被害が目立った。また、市街地に密集している建造物が延焼し、広い地域に燃え広がった。津波からの避難経路の確保をはじめとして、太平洋岸と比べると日本海側では地震対策があまり進んでいない地域が残されている。13年前の東日本大震災をきっかけとして「大地変動の時代」に入った日本列島では、活断層の周辺で起きる直下型地震の対策が急務である。
首都圏では今後30年以内にM7クラスの首都直下地震が高い確率で起きると予想され、30年代には東日本大震災の10倍規模の災害が想定される南海トラフ巨大地震を控えている(本連載の第110回を参照)。今後も日本各地で起こる地震災害への警戒を緩めるべきではない。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。
週刊エコノミスト2024年1月23・30日合併号掲載
鎌田浩毅の役に立つ地学/171 能登半島地震 日本海側の対策も急務に