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来年夏の衆参ダブル選挙で3度目の政権交代を実現する 小沢一郎が仕掛ける!倉重篤郎のニュース最前線

 

 裏金問題で派閥が一時的に解体され、ダンスショー問題で倫理の底が抜けたさまが露わになった自民党。危機と言うも愚かな混沌状況だが、ここから新たな政治を目指す道はあるのか。「政権交代しかない」と喝破する小沢一郎氏が久々に本誌登場。政治崩壊からの再生ヴィジョンを熱く語った。

裏金事件は倫理の麻痺/9月代表選で野党の新しい顔を

 いまさらながら整理してみたい。政権交代の効能とは何か。

 第一に、政治に対する時代の要請を受けた改革力・刷新力の付与である。1993年、宮澤喜一政権に代わり登場した細川護熙(もりひろ)非自民連立政権は、1年足らずのうちに選挙制度改革を成し遂げた。自民党政権が鳩山一郎政権以来どうしてもできなかった大改革。タブーとされてきたコメの輸入自由化にも風穴を開けた。

 2009年には民主党政権が誕生、3年余の統治下で、新味のある政策変更をいくつか手がけた。その最大は、社会保障と税の一体改革であろう。消費税5%を二段階で10%に上げ、膨張し続ける社会保障費用負担の目途(めど)をつけた。過去債務への過大な充当や公約違反との批判もあったが、これもまた与野党が入れ替わらなければできなかった大仕事だった。高校授業料の無償化など国民目線の所得再配分も進めた。日米対等、東アジア共同体創設といった、自民党政権では出てこない安保政策見直しのアジェンダもあった。

 第二に、民主主義(国民主権)の自己確認である。政治には強制力を伴った権力が必要である。権力はもともと主権者である国民一人一人に帰属しており、選挙という手続きによってその権利を代理者(国会議員)に分与、その代理者たちの多数が権力(内閣)を構成する。つまり、権力の根源は国民主権にある。であるならば、権力の構成を変えること(政権交代)は、一時的に分与した主権を国民の手に取り戻し、主権者が誰であるかを知らしめる武器にもなる。これを使わでか。

 第三に、宿命的に腐敗、傲慢化する権力に対する抑止効果である。今回の裏金事件が象徴的だ。政治家にとって最低限のモラル(立法者たるものの法遵守義務)が、組織的、慣行的に破られていた。検察権力までも人事により手中に収めようとした一強政治の驕(おご)り、ゆがみが極限にまで達していた。この権力の暴走を誰がどう制御、真っ当な権力に生まれ変わらせるのか。岸田文雄政権もしくはその亜流政権にそれが可能なのか。そこにもまた政権交代というダイナミズムの優位性が表れよう。

 ことほどさように、政権交代の大義は日々強まっている。細川政権から民主党政権まで16年、民主党政権からまた15年が経過したことを勘案すると、またその周期が巡ってきたともいえる。

 にもかかわらず、そういった雰囲気にならないのは、野党がバラバラとの印象が強いからだろう。立憲民主党と日本維新の会は野党第1党争いをやめないし、国民民主党はなお独自路線を疾走、共産党は共闘から排除されつつあり、その他弱小野党も自勢力を維持するので精一杯だ。

 誰か野党の束ね役はいないのか。小沢一郎氏はどうか。言うまでもなく、過去二つの政権交代の立役者である。前者では8党会派(社会、新生、公明、日本新党、民社、新党さきがけ、民主改革連合、社会民主連合)を、後者でも3党(民主、社民、国民新党)を束ねて多数派を確保した。

安倍派潰しのために森喜朗招致も

野党はどう出るか
野党はどう出るか

『朝日新聞』2月23日付紙面には、大島理森元衆院議長のインタビュー記事として、「第2の小沢氏、野党にいるか」という記事が掲載された。小沢氏的な剛腕な束ね役が政権交代のカギになる、との見立てを吐露したものだ。同感だ。ただ、小沢氏にはこの記事は面白くなかったようだ。「第二がいるわけないだろう。第一がまだ元気なのに」と言う。その心境やいかに。小沢氏を直撃した。

 裏金疑惑どう見える?

「明確な法令違反だ。何であんな馬鹿(ばか)なことするのかと思う。僕も長年政治家をやっているが、普通あり得ない。『モリカケ桜』(森友、加計(かけ)、桜を見る会問題)でも何のお咎(とが)めもない。安倍(晋三元首相)1強以来の権力の驕りと言うか、倫理のマヒ状態だ」

 検察捜査どう評価?

「官邸と世間の顔色を見ながらの捜査だ。いい加減だし、だらしない。逮捕したのは若手議員1人だけで、不正を主導、容認した派閥領袖(りょうしゅう)、事務総長クラスは事実上不問だ。脱税疑惑も捜査せず、政治資金に申告し直させている。あんなのでいいと言うなら僕に対する捜査は一体何だったのかと思う」

 09年の検察捜査だ(小沢氏の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件。小沢氏は強制起訴されたが、一、二審とも無罪となり確定)。

「僕はきちんと政治資金報告書に記載していたのに強制捜査そして強制起訴までされた。何か捜査すれば出てくるだろうと思っていたのだろう。検察総動員で捜査したが、一銭も出なかった。捜査に行き詰まり、罪名を収賄罪から政治資金規正法違反へ訴因変更までした。無理やりやった。まさに国策捜査だった」

 小沢叩(たた)きだった?

「民主党政権に交代する直前の捜査だった。その動きを潰そうということだったかもしれない。僕は役人に絶対おもねらないし、内閣法制局はもう要らないというのが持論だったからね。法制局は法務・検察当局のテリトリーでもあった」

 検察主導の世直しだ。

「おかしいね。本来政治家が自発的になすべき政治改革が、検察の思うままにやられてしまう。これでは後進国と一緒だ。ロッキード事件以来疑獄といわれるものはそうだった。ロ事件は、三木(武夫元首相)と田中(角栄同)の権力闘争的なものだったけど、それでもやはり、検察の意向も働いた。裁判官も一緒になって動き、嘱託尋問調書で刑事免責(供述によっては訴追されない特権)を与えてしまった。あんなことができるなら何でもできる。あれで司法は死んだ。田中角栄先生にそういう事実があったかどうか、いいか悪いかの問題ではなくなった」

 政倫審、役にたった?

「野党はもっと資料を集めて、ぎりぎり攻めないと駄目だ。あそこで釈明すれば許される、という一種の免罪符化が起きている」

 裏金、誰が始めた?

「森(喜朗元首相)さんだという説がある。いかにも、という感じもある」

 森氏参考人招致は?

「岸田首相がその気になると自民党はやらざるを得なくなるかもしれない。岸田君は予算を年度内にあげるため、土曜日の衆院本会議採決まで主導した。自分の意向が通るとなれば、さらなる安倍派潰しのためにやらないとは限らない」

 世の中は納得する。

「そこまでやれば(総裁選での)再選は間違いない。森氏に義理のある人は自民党内にはもういない」

 自民党内力学、どう分析?

「森山裕(総務会長)君に注目している。彼とは古い縁だが、若くして鹿児島市議会議長を務めたやり手だ。その後は少数派閥の長になったが、仮に彼が(旧)経世会(茂木派)にいたら彼の方が親分になっていたね」

 高い評価だ。

「政策的に有能で切れる、というタイプではないかもしれない。しかし、人望がある。薩摩出身の西郷隆盛と大久保利通にタイプ分けすると、西郷的だ」

混沌から新しい政治が出てくる

岸田氏は森氏参考人招致を決断するのか
岸田氏は森氏参考人招致を決断するのか

 自民の75%が無派閥だ。

「それは一つの経過に過ぎない。いろいろ批判を受けたからそうなっているだけだ。人間には好き嫌いもある。自民党国会議員が衆参で370余人もいて派閥化しないわけがない。総裁選になると必ずできる」

 当分は岸田氏の天下?

「安倍派を徹底的に潰そうとしているし、経世会を茂木(敏充幹事長)君がコントロールできてない。麻生君ともうまくやっている。もともと同じ宏池会だ。抵抗する奴(やつ)がいない。僕が選挙の指揮を執るまでは命ながらえるよ」

 次の衆院選までの命?

「野党陣営で僕がもし選挙を担当することになれば絶対勝つ」

 どうやって?

「今は言えない。(9月の立憲代表選に向けて)仕掛け花火が、夜空にきれいに打ちあがるように」

 陣営から誰かを立てる?

「国民が飛びつくような人を立てなければならない。昔の名前で出ていますでは駄目。全くの新人が良い。総理としての能力云々(うんぬん)というより、国民受けがよく、野党党首として全体を束ねられる人だ。それを年寄りが支えればいい」

 そんな人物どこに?

「数人いる。男も女も含めてだ。右と左と両方の票を集められないと過半数にはならない。リベラルの固有の票以外にリベラル保守の支持も得られる人物だ」

 共産党はどうする? 

「もちろん、何らかの連携は必要だ」

 維新は扱いにくい?

「そんなことはない。立憲の今の執行部と信頼関係がないだけだ。変わればうまくいく。維新は嫌でも取り込まなければ過半数にならない。大阪、関西が強い。国民民主とは連合を蝶番(ちょうつがい)に連携は可能だ」

 解散時期はいつと?

「首相官邸だって自民党だって、いま完全に勝てるという確証はないだろう。こっちもないが、向こうもない。そんな賭けをする必要が、岸田君にはないだろう。僕は3年前から(25年の夏の)衆参ダブル選挙だと言っている」

 あまり聞かない説だ。

「僕の意見を取り上げないだけだ。(根拠は?)岸田政権というのは意外と長続きするだろう、と言ってきた。現実に2年半も続いている。低支持率でも選挙しない限り大丈夫だ。もちろん、日本経済がおかしくなれば別だが、それもすぐにばたっとはいかない。今の株価高騰は徒花(あだばな)だけどね。秋だって再選になるでしょう」

 再選?

「だって他に誰がいるの。安倍派が潰されるのを見ていたら、誰も抵抗できない。『宏池会解散』宣言だって、もう総理になってしまっているからできた。岸田君は総理という地位に執着、したたかに立ち回っている」

 再選された岸田政権に翌年のダブル選で勝つ?

「そうだ。野党が政権を獲(と)ったら自民党はバラバラになる。しかし、そんな中からいい人材が出てくる。与野党ともに混沌(こんとん)とした状況の中から、新しい政治が出てくる。日本の政治を変えるためには、どうしても政権交代というきっかけが必要だ。利権構造を壊す。そして新しいものを作る」

中国本土が群雄割拠状態になる可能性も

 トランプ再選、どう見る?

「僕は米国の良識が最後には働くと思うけどね。トランプがなれば、世界はますます不安定化する。日本も困る。米国ファーストで経済も安保もガンガン要求してくるだろう」

 日本に自立図る動きが?

「出てくる。日本の場合は、右翼の武装独立というゆがんだ形にならないよう気をつけなければならない。僕が政権にいたら米国に言う。あまり日本を追い込むな、また日米が戦う場になってしまうとね。米国には、安保だろうが経済であろうが、やることはやる、と言い、米国も公正で良識のある行動をとれと言うべきだ」

 日本の国際的役割は?

「ウクライナもガザも日本は武力行使はできないが、医療や食糧、生活物資、仮設住宅等の支援をもっと徹底的にやるべきだ。ガザであれば浜辺に民間の輸送船、自衛隊の揚陸艇を並べてどんどん物資を送る。もちろん、国連のお墨付きを得ての行動だ。安保理では拒否権行使で封じられるから総会で了承を取りつけ、国連の措置として行う。イスラエルも国連旗の下での活動を邪魔できない。ウクライナも同様だ。日本には援助する武器はないが、医療や食糧、精密機械、建設機械等はいくらでもある」

 中国をどう見る?

「習近平政権は見かけほど盤石ではない。毛沢東流に政敵をすべて逮捕、排除した上での安定だ。不満がどこかで必ず爆発する。不動産大手が2社潰れ、経済の悪化が心配だ。今は経済が何とか持っているから我慢しているが、経済が悪くなると、中国固有の大衆暴動が起きるのが歴史の教えるところだ。そうなると、台湾有事どころではない。中国本土が各軍区、軍閥による群雄割拠状態になる可能性もなしとは言えない」

 日本はどうする?

「将来的には中国に民主主義を定着させるしかない。もちろん、日本一国でできることではなく、米英や韓国と連携して、外側から中国の民主主義を助ける。そのためには足元の民主主義を踏み固めなければならない。世界で権威主義陣営が台頭、民主主義陣営が受け身に回っている。日本はその流れに身をもって抗すべき時だ。そのためにも3度目の政権交代を起こし、国民主権、民主主義の健全性を示す。その時までは頑張り抜く覚悟だ。その意味では第二の小沢が出てくる余地はないだろう」

   ◇   ◇

 どっこい。第一の小沢氏は生きている。相も変わらずその政局観は明確だ。9月に岸田再選、立憲も党首を代え来年夏にダブル選挙。そこで政権交代という勝利の方程式。画餅(がべい)となるか、3度目の成功となるか。


おざわ・いちろう

 1942年生まれ。立憲民主党所属の衆院議員。時々刻々の政治状況を鋭く捉え、長年政界のキーマンであり続けている

くらしげ・あつろう

 1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

「サンデー毎日3月31日増大号」表紙
「サンデー毎日3月31日増大号」表紙

3月19日発売の「サンデー毎日3月31日増大号」には、他にも「本誌60年の信頼と調査力  2024年入試速報第5弾『早稲田』『慶應』合格者高校別ランキング」「小沢一郎が仕掛ける! 来年夏の衆参ダブル選挙で3度目の『政権交代』を実現」「膵臓がんは0期で発見できる! 森永卓郎、八千草薫、スティーブ・ジョブズなど著名人らが続々罹患」などの記事も掲載しています。

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