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2024年首都圏中学入試 受験率は2年連続で最高値、学校選択で強まる理系志向
首都圏では、中学受験率が過去最高を2年連続で更新。中学受験人気が続く中、2024年入試では多くの難関校が志願者を減らした。24年入試の動向や来春の人気校など、最新情報について、▽安田教育研究所代表・安田理さん▽サピックス教育情報センター本部長・広野雅明さん▽市進学院執行役員・上田佳史さん▽四谷大塚情報本部本部長・岩崎隆義さん▽日能研本部入試情報室室長・井上修さん――のエキスパート5人に話を聞いた。
―24年の中学入試はどのような状況になりましたか。
岩崎 受験生数は23年と同じ約5万4700人でした(四谷大塚調べ)。23年の1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の小6生数は前年より5373人減っているので、中学受験率は23年より0・3㌽アップの18・9%となり、過去最高を2年連続で更新しました。24年入試の受験生は小3でコロナ禍を経験した世代です。私立校は素早く柔軟に対応してコロナ禍を乗り越えましたが、そういう状況をみて中学受験を決めているため、しっかり準備して入試に臨んだ受験生が目立ちました。
井上 日能研の集計では、公立中高一貫校を含めた受験生数は約6万5600人で、23年より約900人減になりました。減少が目立つのは公立一貫校で約8%減。私立の受験生数はほとんど変わっておらず、人気が続いています。
安田 公立一貫校は1校しか受けられませんし、今の保護者が求めているグローバル教育やSTEAM教育を行っているのは私立が中心です。そうしたカリキュラムが充実していない点も、公立の応募者が減っている理由の一つです。
上田 公立一貫校の応募者は減っていますが、合格するのが大変な状況は変わりません。軽い気持ちで受検する層が減っているだけで、受検生のレベルは上がっています。私立併願者も増えており、県立千葉の合格者の中には渋谷教育学園幕張や市川、東邦大付東邦、早稲田、海城などの私立難関校の合格者も多い。東葛飾も同じレベル層が合格しています。公立一貫校の適性検査と私立の試験内容が近づいていることも、併願をしやすくしています。
広野 サピックスでは、公立と私立を併願する場合、私立は適性検査型入試ではなく4科で受験するケースがほとんどです。適性検査の過去問をしっかり解けば、4科目の学習で十分に公立一貫校に合格できます。
―首都圏の中学受験は厳しい状況が続いています。
岩崎 24年入試は、実質競争率が2・48倍で、合格率が約40%。23年より競争率が上がり、合格率が下がって厳しい入試になりました。ウェブ出願では、毎日更新される志願者数を見ながら偏差値レベルに準じた併願校を決める家庭が多いため、特定の学校に人気が集中せず、分散しやすいです。出願する可能性がある学校は事前に調べてほしいと思います。
広野 厳しい状況なので、受験校を増やす家庭も目立ちます。サピックスでは、1人当たりの出願校数が23年の8・2校から24年は8・7校に、実受験校数は5・8校から6・0校に増えています。なかでも、1月入試や午後入試の受験率がアップしています。
井上 特に東京では、慎重に併願校を選ぶ傾向がみられます。1月校の併願は一般的になり、1月19日までの入試の志願者は23年より1万人以上増えています。また、午後入試では上位層の受験率が上がっています。難関校の第1志望者が多い2月1日午前入試の受験生は、約7割が午後入試を併願しています。巣鴨の算数選抜や東京都市大付の2科、山脇学園の国か算の1科が人気を集めました。
安田 面接を実施している女子難関校を午前中に受ける場合、終了時刻が遅くなるため、午後入試が受けづらくなります。広尾学園のように午後入試の開始時間を遅めに設定して、受けやすくしている学校もあります。
岩崎 2月1日と2日に午後入試を実施している東京農業大第一は、志願者が大きく増えました。埼玉と千葉の1月校も午後入試が増えており、埼玉栄は午前に兄弟校の栄東を受けた後、同じ会場で午後入試を受験できるため、志願者が多くなっています。
上田 1月20日に市川の午前入試を幕張メッセで受けた後、徒歩で行ける昭和学院秀英の午後入試を受験する上位生が目立ちます。
広野 筑波大付駒場が24年から通学区域を拡大しましたが、新たに通学エリアに追加された地域で辞退者が多くなり、例年以上の繰り上げ合格者が出ました。その影響を受けて、私立校も難関校から中堅校まで次々に追加合格を出すことになり、遅くまで入学者を確定できない学校がありました。
―1月入試の状況は?
上田 1月入試は東京と神奈川の受験生が増え、コロナ禍前の状況に戻りました。しっかり対策して臨まないと合格しづらい状況になっています。埼玉では、今年開校した開智所沢中教を含む開智グループを中心に、多くの学校で東京の受験生が増えて志願者が増加し、難化した学校が目立ちました。
岩崎 埼玉の学校は、東京からの入学者の比率も年々上がっています。開智所沢中教は1期生の約半数が東京からの入学者です。
広野 埼玉は駅から徒歩圏内の学校が少ないですが、開智所沢中教は歩いて通えることも人気を集めた理由です。医進コースを新設して算数・理科の午後入試を実施した淑徳与野は、これまで以上に上位の受験生が集まりました。
上田 千葉は、地元志向が強い受験生を中心に、受験生にとって適正なレベルの学校を選択する家庭が目立ちました。高人気の市川を敬遠して専修大松戸を選択する受験生もいました。市川は若干志願者が減りましたが、受験生のレベルは上がり、難度も上昇しています。また、国府台女子学院や和洋国府台女子の志願者が増えました。この2校と江戸川女子が合同で学校を巡るバスツアーを再開し、積極的に広報活動を行ったことで、多くの受験生に学校の魅力が伝わりました。
広野 国府台女子学院や和洋国府台女子は面倒見が良く、通いやすい点でも人気を集めています。
上田 開校2年目の流通経済大付柏も多くの受験生を集めました。中学受験人口が多くない場所に開校しましたが、その地域の中学受験への意識を高める効果があったようです。常磐線沿線の学校や、この地域から通いやすい都内の共学校は志願者が増えています。専修大松戸は全体的には減っていますが、受験生の半数以上が都内生で、人気が続いています。
岩崎 共働き世帯が多くなる中、寮がある地方の学校を選択する家庭も目立ちます。寮ではスマホの使用を制限している学校もあり、保護者にとって安心できる環境があるのが魅力です。
広野 神奈川の受験生は、1月入試で埼玉や千葉の学校ではなく、寮がある学校の首都圏入試を受験する傾向が強い。佐久長聖や早稲田佐賀、北嶺、盛岡白百合学園は、実際の進学者も増加傾向です。ラ・サールや愛光も根強い人気です。
井上 愛光は、美術館のように美しい新校舎が評判です。基本的に寮がある学校の人気校は寮もきれいです。快適に過ごせる環境でなければ選ばれません。
上田 数十人の生徒が一部屋で生活する寮制学校もありますが、今は個室や2人部屋の学校に人気が集まりやすくなっています。
広野 不二聖心女子学院も、首都圏から進学を視野に入れて受験する人が多い学校です。静岡聖光学院も人気が復活してきました。
井上 IBスクールの茗溪学園は、29年につくば市の研究学園駅から徒歩5分の場所に移転して、寮も新しくなります。アメリカのスタンフォード大やUCLAに合格するなど海外大への実績が好調です。寮は人気があり多くの寮生がいますが、中学受験熱が高まるつくばエクスプレス沿線に移転するので、通学が可能な受験生が増えるかもしれません。
伝統校の人気が復活 面倒見の良さも評価
―東京・神奈川の2月入試の動向や人気を集めた学校は?
広野 男子の難関校で増えたのは早稲田や駒場東邦、サレジオ学院などで、横ばいもしくは減少している学校が大半です。ただ、チャレンジ層が減っているだけで、難度は変わりません。その分、中堅の男子校の志願者が増えました。特に、高輪や獨協、足立学園、佼成学園など、面倒見が良い男子校が人気を集めました。
安田 足立学園や佼成学園は、独自の海外研修も高く評価されていますね。攻玉社や巣鴨、桐朋も増えました。女子の難関校も、女子学院以外は志願者が減り、その次のレベルの学校が増えています。横浜雙葉は入試回数を2回に増やして人気を集め、横浜共立学園はチャレンジ層を中心に志願者が増えました。大妻や共立女子、学習院女子など、伝統女子校の人気が復活してきました。
広野 学習院女子もそうですが、芸術系科目や情操教育、礼法などを大切に受け継いでいる伝統女子校は多い。これに加えて、理科実験室や運動施設が充実していて、「知・徳・体」のバランスが良い伝統校は人気があります。
安田 蔵書数が多いなど教育環境が充実していることや、教員が創立以来の理念を共有していることも、伝統校の良いところです。
井上 普連土学園や大妻中野は、今の時代に求められる教育を柔軟に取り入れていることが評価されて人気が上がっています。生徒のために教員がいろんな取り組みを行う共立女子第二にも注目しています。
安田 大妻中野は、多彩な海外研修プログラムがありますし、将来を見越してアクティブに改革している学校です。この他、東洋英和女学院や頌栄女子学院、湘南白百合学園、カリタス女子など、ミッション系の伝統女子校も志願者が増えています。
広野 特に、人口が増えている都心部から通いやすいエリアにある伝統校や面倒見が良い学校は大きく伸びています。
上田 志願者が大きく増えた中村は、魅力ある教育はもちろん、生徒の元気な様子を動画でSNSにアップして人気につながりました。安田学園など面倒見が良い共学校の人気が上がっています。
岩崎 東京成徳大や聖徳学園も人気があります。この2校はアップル認定校として最先端のICT教育を行うなど、教育内容や環境が充実しています。サレジアン国際学園世田谷は2年連続で志願者が増え、系列校のサレジアン国際学園も人気が安定しています。
井上 理系と文系をバランス良く学べる桐蔭学園中教は、女子の人気が上がりました。進学校としてだけでなく、学校生活を楽しめる校風も魅力です。
広野 もともと女子人気が高い東京都市大等々力は、男子の志願者が増えました。
岩崎 隣接の大学キャンパスが移転して、跡地を活用できるようになります。施設・設備が充実してさらに人気を集めそうです。
広野 26年度から北里研究所と法人合併する順天は人気が上がり、難化しました。宝仙学園理数インターは24年度から順天堂大の系属校になり、医学部への内部進学枠ができます。25年入試で人気が上がる可能性があります。26年に明治大の付属校になる日本学園や、法政大との連携を強化した三輪田学園もそうですが、今の保護者は最新の情報に敏感で、大学入試やその先の将来を見据えて学校を選択する家庭が目立ちます。
午後入試は増加傾向 SNSで動画配信も
―大学入試では理系志向が強まっています。
井上 私立中高一貫校が大学と高大連携を積極的に進めていることも、理系志向を強めています。高大連携の一環として、文系や理系に分かれる前の中3・高1で、理工系大学の見学や体験をする学校もあります。最先端の施設・設備があり、楽しく学びながら理系の多彩な分野を体験できます。このような活動が進路を決める一助になっているようです。
安田 今の保護者は、大学で理系に進学したほうが就職に有利で、生涯賃金も高くなる傾向があることを理解しています。中学入試でも芝浦工業大付や東京農業大第一、日本工業大駒場、東京電機大など、数学や理科をしっかり学べる理工系の大学付属校を選択する家庭が増えています。普連土学園や田園調布学園など理系に強い女子校が人気なのも同じ理由です。
岩崎 理系科目に苦手意識があっても、女子のスピードで学べるので、理系進学者が多い女子校を選択するのはいいと思います。豊島岡女子学園や吉祥女子、鷗友学園女子も理系に進む生徒が多い学校です。生物系に強い山脇学園は、スーパーサイエンスハイスクールに採択されました。25年入試はさらに人気を集めそうです。
―今年、大学合格実績が伸びた学校はどこですか。
井上 聖光学院が今年、東大に100人合格し、初めてトップ3に入りました。来年の中学入試では人気が上がりそうです。
安田 鷗友学園女子は例年より東大志望の生徒が多かったようで、23年度の3人から13人に躍進しました。東大の過去問を30年分解いた先生がいるなど、生徒一人ひとりの志望大学に合わせて学校も熱心に取り組んでいます。
広野 開校以来の園芸の授業があるのもいいですね。毎朝、運針している豊島岡女子学園もそうですが、私学には伝統的な独自の取り組みがある学校も多い。進学実績も大切ですが、学校の特色でもあるので、受け継いでほしいです。
安田 東大をはじめとする難関大の合格実績が高い学校は、多くの生徒が一般選抜で進学します。そういう学校と、学校推薦型選抜や総合型選抜の年内入試の受験者が多い学校の二極化が進んでいるのが気になります。中には、生徒の80%以上が年内入試で進学する学校もあります。
井上 一般選抜と年内入試の合格比率は学校によって大きく異なります。各校がどういうスタンスで進路指導をしているのか、気にしている保護者は多い。
安田 今は、全体的には大学入学者の半数以上が年内入試の合格者ですが、難関大は年内入試、一般選抜ともに合格するのは大変です。ただ、一般選抜で定員割れしている中堅以下の大学は、年内入試で合格しやすい。年内入試が増えていても、大学によって入試の中身が大きく異なることを、知っておいたほうがいいと思います。
―25年入試の変更点や志望校の選び方を教えてください。
岩崎 浅野が募集人員を30人減らして240人になり、厳しい入試になりそうです。敬遠されて、周辺の学校の志願者が増えるかもしれません。また、日本女子大付が1日午後に算数1科入試を新設します。加えて面接を廃止します。午後入試が増える傾向があり、1人当たりの受験校数がさらに増えるかもしれません。
安田 光塩女子学院も1日午後に算数入試を新設します。午後入試を始めることで、これまで受験を視野に入れていなかった上位の受験生の注目を集めそうです。
広野 25年は2月2日が日曜日で、試験日などが変更されるプチサンデーショックになるので、試験日をずらすプロテスタント校に注意してください。青山学院は2日から3日に移動します。翌26年は2月1日が日曜日で、本格的なサンデーショックを迎えます。現時点でフェリス女学院は試験日を変えず、1日に入試を行うことを発表しています。
井上 今の時代、教育内容を改革するとともに、その情報をSNSなどで発信する学校が増えています。SNSに登録すると、さまざまな情報が随時配信されるので便利です。学校生活の様子を動画でアップしている学校もあり、志望校選択の参考になると思います。
上田 実際に学校を見て回ることも大切です。いろんな学校を見学することで多様な視点を養えますし、第1志望校はもちろん、志望順位が低い学校でも、良いところに気づくきっかけになります。25年入試も激戦になりそうなので、視野を広げて志望校を選択してください。