新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

教養・歴史 鎌田浩毅の役に立つ地学

太陽フレア発生 磁気嵐で送電網や通信障害も/183

オーロラの影響でピンクに染まる北西の空(北海道美幌町で2024年5月11日)
オーロラの影響でピンクに染まる北西の空(北海道美幌町で2024年5月11日)

 太陽が活発な状態に入り、表面で起きる巨大な異常爆発「太陽フレア」が5月8日午前10時41分(日本時間)に発生し、その後も連日観測された。太陽フレアが発生すると強力なエックス線や電気を帯びた高エネルギーの粒子(プラズマ)が宇宙空間に飛び出す。その規模は発生するエックス線の強さに応じて5段階に分けられており、1段階上がるごとに規模は10倍になる。情報通信研究機構によると、今回は最高段階の「Xクラス」が13日午前1時26分までに9回起きた。

 また太陽フレアに伴うコロナガス(太陽大気層にある高温ガス)が地球方向に放出されると、地球周辺の磁場を激しくかき乱す「磁気嵐」が起きる。強力な磁場が地上の送電網などの電気回路に大きな負荷をかけ、1989年にカナダのケベック州で起きたような大停電に至ることもある。この時には9時間にわたり電力供給が停止し、600万人が被害を受けた。

 さらに、磁気嵐により地球を周回する人工衛星の通信機能に障害が起きたり、GPS(全地球測位システム)の精度が落ちたりする。そのほか航空機や船舶の短波通信や公共放送にも影響が出る可能性がある。短期間にこれほど大規模なフレアが発生するのは、2005年9月以来18年8カ月ぶりである。過去には米国やスウェーデンで太陽フレアによるレーダー障害が報告されており、衛星が大気圏内に落下したこともある。

 太陽フレアで発生した大量のプラズマが地球を覆う電離圏に到達すると、夜空が色とりどりに染まるオーロラが発生する。太陽は太陽フレアが起こらなくても「太陽風」と呼ばれるプラズマ流を宇宙空間に放出しており、地球もそれを絶えず浴びている。北極や南極の上空では部分的に太陽風が取り込まれ、安定的にオーロラが発生する(本連載の第30回を参照)。

 一方、大規模な太陽フレア発生時には、極地から離れていてもオーロラが見られることがある。今回もスイス・マッターホルン上空で真っ赤に染まるオーロラが観測されたほか、5月11日夜には北海道や東北地方、能登半島などでオーロラが観測された。

ピークは25年ごろ

 太陽フレアは、太陽表面で強い磁場を持つ「黒点」で起こる(本連載の第56回を参照)。太陽の活動は黒点が多く活動が活発な「極大期」と静穏で少ない「極小期」に分かれ、約11年周期で黒点の増減を繰り返している。現在は「第25周期」と呼ばれる極大期に入っている。

 次の太陽活動のピークは25年ごろと予測されており、ピークが近づくにつれ今回のような異変が増える可能性がある。最悪の場合には携帯電話が2週間ほど断続的につながらなくなる可能性もある。また、太陽から放出されたエネルギー粒子は宇宙船内の飛行士に影響を及ぼすため、20分~数時間以内に適切な防護を取る必要がある。なお、今回の規模では地上の人体に対する影響は考えにくく、過度な不安を持つ必要はない。


鎌田浩毅 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
鎌田浩毅 京都大学大学院人間・環境学研究科教授

 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。


週刊エコノミスト2024年5月28日号掲載

鎌田浩毅の役に立つ地学/183 太陽フレア発生 磁気嵐で送電網や通信障害も

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

11月26日号

データセンター、半導体、脱炭素 電力インフラ大投資18 ルポ “データセンター銀座”千葉・印西 「発熱し続ける巨大な箱」林立■中西拓司21 インタビュー 江崎浩 東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本データセンター協会副理事長 データセンターの電源確保「北海道、九州への分散のため地産地消の再エネ [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事